第48話魔法使いBravery その17
『フレア・ドガ・ノヴァ!!!!!』
「
両者は咆哮する。まばゆい光と熱が辺りを一瞬で白に染め上げ、視覚含むあらゆる感覚が使い物にならなくなる。大量にばらまかれた熱量は左右に建っていたビルに衝撃とともに広がり、ガラスを溶かし、コンクリートもろとも粉々にしていく。亀裂の入っていた地面は衝撃に耐えられず、崩れて土があらわになるだけでなくさらに奥深くまで削られる。
"天使"の最終兵器と"龍"の魂の咆哮
両者はかつて『イマジナル』での戦いですら激突することなく、どちらが上かなどと言うくだらない言い争いのみをしていた。もしも実際この二つの技が激突するならば、おそらく敵味方問わず甚大な被害を及ぼす恐れがあることをお互いわかっていたために賢明にも試すことはしなかったのである。
間違いなく『イマジナリー』の最高火力。"悪魔"でさえも、この二つの技に苦しめられてきたのだ。
そんな二つの最強が今、激突している。
自らの渾身の一撃を放ちながらもフレアは歓喜していた。この時をどれほど待ちわびていたのだろうか、フレアにもわからない。それでも昨日あの"天使"が撤退のために使ったあの高出力波をフレアは見逃すことはなかった。
いや、見逃すなどあり得なかったのだ。
フレアは"龍"の中でも五体しか存在しない『帝』の中の一つ『炎帝』の名を冠し、『帝』の中でも特に破壊力に長けた"龍"として同族からも畏怖の念を抱かれている存在である。
得意技であり切り札の『フレア・ドガ・ノヴァ』の威力は『帝』含む他の"龍"よりも圧倒的で、あの現"龍"の長すらも超えると言われているほど常識を逸脱している。
生まれた時から『帝』だったフレアはかつての大戦にもちろん参加していた。あの時は"悪魔"側の陣営に加わり、"天使"を相手に圧倒的な力を見せつけた。
それでもあの時はこちら側の指示のせいであまり暴れることはできなかった。本来ならばその言に従う道理はなかったのだが、あの時は複雑な情勢故に上手く言いくるめられてしまったというやりきれない過去があったのである。
フレアはずっと心待ちにしていた。いつか、なんの気兼ねもなしに、あの"天使"と雌雄を決したかった、と。今どうやら代替わりしてしまったが威力には変わりはあるまい。自身も人間の指示に従わねばならない存在ではあるのだが、今だけはそれはどうでもいいことだと決めつける。大体自分の契約者は自分のことをとても毛嫌いしている。一応は助けられた恩を感じている故にその愚かな態度を許しているだけなのだが。
『・・・・・む』
珍しくも戦いの最中に無駄な思考をしていたフレアは即座に目の前の歓喜に集中しようとしたのだが、どうにもまだ両者の衝撃が激突したようには見えなかったのである。すでにお互い技は繰り出され、想定ならばここから押し合いが始まろうとしていたはずなのだが・・・・
『・・・・ほう、これは』
フレアは技の放出を辞めた。
目の前には大きなクレーターが形成されており、先程の景色ごとごっそり削られたような惨状に変わっていた。近くのビルはもう元の形とは大きくかけ離れ、ぐにゃっと曲がっていたり倒壊していたりとひどい有様だ。
だが、そこまではフレアの想定通りだった。想定外の事態は手応えが全くなかったことだ。あの時間違いなく"天使"は技を放った。直前まで莫大な魔力も感じることができていた。しかしなぜか自身の攻撃が直撃したと言う感触は一切なかったのだ。長年の経験が故か、この感覚が間違ったことなど一度もない。と言うことは・・・・・
『また・・・・出し抜かれたか』
「くそっ!あいつらどこに!!」
『わからぬ。だがこれは少しまずいぞ我が契約者よ。おそらくではあるがあの人間の小僧、我を消耗させる気でおるぞ?我があと何回出せるかまでは知らんだろうが、おそらくは回数制限があると言うくらいは予想しておるようだ。そして、今の攻撃でかなりの魔力を消費した』
フレアは未治の策を大体見抜いていた。フレアの十八番である『フレア・ドガ・ノヴァ』を最初からから打ちさせることで、フレアの攻撃力をそごうと考えていると言うことに。
実際この策はフレアにとって多少は痛手を負うことになる。未治の予想通り、この技は何度も打てるようなものではない。だから他の攻撃の兼ね合いも含めてあと何発打てるかフレアにも分かりかねることだった。
『ともかくあやつらにはいつものごりおし?とやらは効かんようぞ?どうする我が契約者よ?』
「あいつらは絶対にこちらに近づいてくるはず。捕まえてしまえばこちらのものだ。幸い少し休ませてくれるみたいだしな」
疾風は自らの感情をなんとか抑制しつつ、冷静な判断を下す。ここで追っても余計に力を使うだけだ。ならば向かい打つと言う姿勢でいればいい。警戒すべき攻撃は例の"天使"の一撃のみ。"魔法人"の方は無視をしてもいい。有効打となり得るべき攻撃は何一つないだろう。
あとは未治の初手の不気味な策が気になる。あの場面であの"天使"が技を発動しなかったとしても、フレアの一撃をどのように回避したのだろうか。近くにあったビルが熱で溶けるほどの威力があったのだ。そう簡単に逃げられるとは思わない。一体どうやって?わからない。あいつはいつ戻ってくる?逃げたわけではないだろう。もしそうならばあの開戦前に見た挑戦的な目の説明がつかない。あの目は、確実に勝つと言っているようなものだった。どうやって?どうやって俺の"龍"が倒せると言うのか?
わからない。今までの契約者には未治みたいな不気味さなどなかった。何をしてくるのかわからない。何だろうと起こり得るのではないかと言う不安を抱かせるような、そんな目をしていた。それこそいつも学校で出会う時の未治とは違う。あいつは侮れないやつだとは知っていたがこんな得体の知れないやつだとは思っていなかった。
故に疾風は出方を伺うと言う手を選ばざるを得なかった。下手に動けばさらに悪い局面にされてしまうかもしれないと判断しての決断だった。
「くそっ!」
疾風は焦りを抑えきれなかった。一体未治は何を考えて自分の邪魔をしようとしているのか、自分の前に立ちはだかろうとしているのか、疾風は未治のことでわからないことが多すぎた。別にあいつが首を突っ込んでいいことなんて何もない。自分一人で彼女を助けていればそれで済む話ではないのか?疾風にとってこの異世界大戦はそのための格好のツールに過ぎない。だからたとえ異世界生物を犠牲にするとしても何も悪い感情は抱かない。疾風は断じて未治の言葉を認めていなかった。
ーー俺は香奈を助ける。それが正しいことなんだ
疾風は今でも信じている。かつて子供の頃あの場所で見た憧れの人、その人のようになりたいと願った。そして今までそのための努力を惜しまなかった。誰かを助け、悪を断じ、正義の味方であり続けた。今回だってそうだ。自分には今力がある。その力があれば、必ず助けることができるのだと信じている。
たとえ友だったものが立ちふさがろうとも、その信念は揺るがない。
「・・・・必ずお前を倒す」
疾風は一人、拳を握る。
☆☆☆☆☆
「ふーんふーんふふーーんふーん」
「・・・・それ、まさか」
「まぁまぁいいじゃないの〜むしろ相手の意表をつけるかもしれないでしょ?」
「私『イマジナル』で学びました。やっぱり師匠は変わってるです」
「そうかなぁ〜ふつうに使えると思うんだけどなぁ〜」
夜の街を駆ける三つの影。後ろの方では災害が起きた後のような惨状になっている中、まだ都市の形を保った路地裏を高速で動く物体が通り過ぎる。三つの影といっても一つに二つが乗った形が正確な情報だ。
「それで、とりあえず最初の策が成功したみたいだけど次はどうするの?まだ聞かされてないわよ?」
「ん?まだ勝ち筋はノープラン」
「嘘でしょ・・・・」
「ちょ、ちょっと大丈夫です?」
「大丈夫大丈夫。だってまだあのすごいのくらいしか見てないじゃん?これから考えても遅くないって」
あれ?なんか二人とも白けた目で見つめてくるんですけど、まぁ気にしないでおくか。
「・・・・ふっふっふっ。今回疾風には何としても勝たなければならないのだけれど、単に勝つだけなら誰にでもできる。あいつと君たちには悪いけど、やっぱりここはゲームなんだからね」
「・・・・うわぁ、入ったわね」
「え?何がです?というか師匠のテンションが気持ち悪いです」
「この時の未治はとにかく発想が神様すぎて手に負えなくなるのよ。私はこの未治を"神様未治"と呼んでいるわ」
「ええ、その名前でいいんです?」
「よし!ではぼちぼち始めますか!この戦いはさしずめ勇者のドラゴン退治って感じかな?いやそれだとみんな後衛職になっちゃうか!魔法どんどん打ってけ!!」
「なんかよくわかんないです師匠!けどなんとかしてくださいです!!」
「よーし任せとけー!今まではミリエル一人しかいなかったせいで俺の指揮官としての本領が出せなかったからね。今日はある意味俺の初陣って訳だ!」
二人になったことで陣形や作戦の幅も広がった。それにアイヒスというめちゃくちゃ優秀な中間管理が加わったことで安定性もマシマシだ。あとは相手の攻撃さえ読み切ればこちらの勝利に近づくことができるだろう。
と言っても油断はできない。相手の攻撃はどれも高い威力があることを考慮する必要がある上、透明化することもできたりと意外に機動力にも優れているかもしれない。まだまだ情報が足りない以上、真正面から攻めるのは悪手でしかないだろう。それどころか一瞬で王手まで持ってかれそうだ。
となるとまずは様子見からだろう。
「と言いつつもビッグサプライズのための下準備〜」
俺はとある地点にとあるものを設置した。まだまだ策は考え途中なものの、ある程度大筋は家で考えてきたのだ。大型の相手に対して有効な手を。
いつだってゲームは楽しまなくちゃいけない。つまらないことをゲームでするなんて、そんなリアルだけで十分なことやる価値もないだろ?なぁ、疾風?
「・・・・待ってろよ疾風。お前の目を冷ますのに十分すぎる花火を上げてあげるから」
戦いは、まだ始まったばかりなのだ。そう、急かす必要もないよね?
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