第47話魔法使いBravery その16
東京には、数多の人が集まる地点が数多く存在する。
渋谷、新宿、上野、池袋、原宿、浅草、豊洲、御台場、水道橋、御茶ノ水
などなど
・・・・最後のは、割と趣味によるか?一部層には宝の山的な街だな。うん。
閑話休題、こほん。
それぞれの場所では常に人が絶えず、毎日行っては戻る波のような動きを繰り返しているのだ。
あるものは自分のご褒美として服を買いに
あるものはデートのプランで映画を観に
あるものは親子で動物園へ行くために
あるものは・・・・・
そんな多種多様な都市東京の中でも有数の観光地として認められつつも、他の地区とは少し異様で、別世界のようなところが存在する。
俗に"オタクの聖地"とも呼ばれているその地の名は、秋葉原という。
☆☆☆☆☆
「おまたせ」
「来たか」
時刻は午後10時を過ぎたところか。まだまだアキバの活気は治ることはなく、まだまだ人がせわしなく歩道を歩いている。今日はどうやら歩行者天国にはなっていなかったらしい。こっちに引っ越してきてから歩いていける距離なので何度か立ち寄った街なのだが、この街はひときわ東京の中でも異質な街だと思う。だってホコテンの日は道路上でコスプレイヤーの方々がカメラを持ったおじさんたちに囲まれているのだから。他の街、というか日本中探してもイベントでもないのにそんな光景を見れる街なんてないのだろうと思っている。
そんなアキバの夜の駅前、電光掲示板がいくつか光る中の一つの下に疾風は佇んでいた。
服装はあの時と同じベージュのジャケットを羽織り、黒い動きやすいジーンズを履いている。中のシャツは色は同じだが昨日見たやつとは違うデザインをしている。
「あれだけ昨日力を見せたというのにノコノコとやってきたんだな」
「あの程度でビビるくらいならとっくに記憶なくなってるよ」
「・・・・ま、そうだろうな。お前は油断ならないやつだとは前から思ってたんだ」
実際あのドラゴンの攻撃には心臓が止まるんじゃないかってぐらいの壮絶な恐怖を感じていたのだがここは虚勢を張っておく。だ、大丈夫だおめぇ。食らわなきゃいいだけよぉ。きばれぇ。あ、となりのミリエルさんがなんか残念な目でこっち見てる。やめぇ。
ちなみに俺の服装はこれまた白のシャツに今日は緑のパーカーを羽織っている。やっぱりパーカーは落ち着くし機能性に富んだ素晴らしい服だ。フードを被れば雨だって防げるんだぞ!
「場所移動するからついてこい」
俺の内心などおそらく知る由もない疾風はさっさと先へ行ってしまう。一応俺の隣には夜とはいえ初別の街お出かけで若干そわそわしているミリエルと、疾風お目当てのアイヒスさんがいたのだけれど反応を示すことはなかった。
それに、疾風が契約していたあの"龍"は一体どこにいるのだろうか?確か昨日も突然姿を現したかのような登場だったあのドラゴンはこっちの世界にどのような姿でいるのか気になるのだが、今はちょっと疾風に聞きづらい感じなのだ。
というかあいつスタスタと歩いていっちゃうし!俺が逸れたらあいつどうするつもりなんだろう・・・・
「・・・ちょっと一回寄り道しない?」
「賛成!・・・と言いたいところだけどここは何いってるのよっ!って言わないといけないのよね。そう、わかっているわ、私。初めて人間のいる街をがっつり歩いているとしても今は戦いに集中しなきゃいけないの・・・・・集中・・・・集中・・・」
「ミリエル様、全然集中できてないです」
アイヒスがミリエルに呆れている間にも疾風はズンズカと先に進んでいってしまう。やばいあと少し離されたら完全に見失う!というところで疾風は立ち止まり、なにやら手元で機械を操作したかと思えば青い粒子とともに姿を消してしまった。どうやらここで戦うということらしい。
俺はさっき疾風が消えた場所の近くまでたどり着くと、ポケットから『デモギア』を取り出し、メイン画面の項目の一つ『異界転移』の文字をタッチする。直後出てきた指紋認証をパスし、『PERFECT』の文字が浮かび上がる。
『指紋認証完了。次に契約者の音声認証を開始します。
『東条 未治』
『・・・・確認しました。
音声ガイドの終了と同時に、世界はモザイクで塗りつぶされる。人も街も、さっきまではっきりとした像は、まるでミキサーにでも入れられたかのようにぐちゃぐちゃになって溶け込んだ。そしてモザイクが晴れた世界はいつものアキバとは全く異なる、でもここはアキバだと思わせるような異質な場所に変わっていた。
さっきまで車が走っていた車道には雑草が生い茂っており、所々に亀裂が入っている。左右の端にはでかいビルが敷き詰められていて、その表面には液晶画面のようなものが薄く張り巡らされている。
画面には世界中の情景がコロコロと不規則に映っている。見たことのない常識はずれな情景も、テレビとかで見たことのある情景も全て、それがこの世界の色として際立って見える。
ざっと見れば廃墟のような感じだ、よく見ればビルもヒビが入っていたり傾いていたりしている。今は誰もいない、俺たちと疾風以外は。いや、他の契約者がいるのかもしれないが今はわからない。
ただ、これからの戦いにはそれは関係のないことだ。
「さて・・・・おい、疾風。お前のパートナーはどこにいるんだよ。まさか忘れてきたとか言わないよね?」
「パートナーじゃない、ただの道具に過ぎないよあいつは・・・・出てこい、フレア」
『全く・・・・この我を道具とな。言ってくれるじゃないか我が契約者よ。お前じゃなければ消し炭にしたところぞ?』
疾風の掛け声とともに突然アキバの情景に大きな影が生まれた。それとともに目の前に巨大な輪郭が浮かび上がったかと思えばメッキのように透明ななにかがパキパキと剥がれ落ちた。
透明な輪郭からは少しづつ赤い鱗が見えるようになり、その正体をあらわにしていく。
その姿こそ、まさしく昨日出会ったドラゴンに他ならなかった。
「なるほど。透明になってたから見えなかったのか」
昨日も突然姿を現したのはこのためだったのかと疑問の一つが氷解した。よかった俺の不注意とかじゃなくて。
それにこの透明化という手を戦いが始まる前に見れてよかった。この力は少々厄介になりそうだからね。
「あれは隠蔽魔法の一種です。術式はごちゃごちゃしてるため大雑把な作りに見えますがあんな大きな体を覆い隠すとは・・・・流石の魔力量です」
「魔法、か。あいつも使えるのか」
俺が思考にふけっている横でアイヒスが解説を追加する。なるほど、あれは魔法なのか。となると未知の知識になってくるな。どう対策を立てようか。
『ほう、そこの"魔法人"よ、お前は我の魔法を愚弄するか・・・・まぁ良い。正しいといえば正しいからな』
「ひっ、いえ!!そんなことは!!・・・じゃない!そうです!!昨日の私とはおもわないことです!!」
おーあんなに怯えてばかりだったアイヒスがドラゴンに進んで口答えしていった!やるじゃん!
「よーしよく言ったアイヒス。というわけでフレアと言ったっけ?今日はお前を倒させてもらうから」
『ふん!おもしろい。この我に楯突こうとする"魔法人"など初めてだ。そこの人間も我が契約者が一目置く存在なのだろう?精々我を楽しませるがいい』
フレアはアイヒスと俺の言葉に鼻息(炎付き)を鳴らしながら答える。横では疾風が嫌そうな顔をしているのだがなにも言わなかった。
「そろそろいいか?」
「ん?ああ、ごめん。で、『対戦』でいいんだよね?」
「ああ、それなら他の契約者にも邪魔されずに戦いができる」
俺は『デモギア』の項目の一つである『対戦』という文字をタッチした。すると画面には近くにいる契約者がマップで表示され、一番近くに疾風と思われる人型のマークも表示されていた。俺はそれをタップし疾風のこの世界での名前を確認する。
NAME ハヤテ
RANK 141位
IMAGIMARY
この契約者に対戦申請を送りますか?
→yes
no
「言っておくが俺は見ての通り3桁順位の実力を持っている。これがどういう意味かぐらいはわかるだろ?お前みたいなまだ初めて間もないやつなんかに負けることはありえない」
「そう。でも関係ないね。俺はただお前に勝つだけだ」
「・・・・その自信は一体どこからくるんだ未治。絶対の強者を目の前にしてもなぜお前はそうやって自信に溢れた目をしていられる?」
「お前にはわからないだろうさ。あいつが踏み出せないことを知らないお前にはな」
「・・・・どういうことだ?」
「全部・・・・いや、だいたいわかってるってことだよ」
「ッ!香奈か!?余計なことを」
「余計ってなにさ?別にいいだろ?俺と香奈は友達なんだからな」
俺の言葉に疾風は剣呑な目を向ける。明確な拒絶の意思だ。
「友達だろうがなんだろうが、あいつの問題にお前が首を突っ込む必要はない」
「・・・・なぁ疾風。どうしてそこまで人を寄せ付けようとしない?俺はまだお前の本当の心がわからない。なんでお前は正義を信じなきゃって感じになってんだよ?お前に一体なにがあったんだよ?」
「俺は正しいことをしているだけだ!!俺は香奈を救いたい!!香奈に笑っていてほしい!!だから俺はお前を倒す!!香奈を救う邪魔をするお前を!!」
疾風は拳に力を入れ、俺を睨みつけた。俺は『デモギア』の項目に指をかけながらハヤテを見つめ返した。
「・・・・・そう、なら言ってやるよ。お前は間違ってるよ!!疾風がそんな人助けするぐらいなら・・・・お前はその前に俺が助ける!!」
俺は項目の『yes』をタップして疾風に対戦申請を送った。疾風はすぐさま画面を確認し了承の項目を選んでいく。
『ただ今より、ランキング順位第141位ハヤテ様と、ランキング順位第24265位東条 未治様による対戦を開始します』
『対戦の勝敗はノーマルルールで行います。相手イマジナル及び契約者の消失、又は降伏によるバトルアウトにより勝敗を決します』
『なお、勝敗ポイントに関しましては、順位の大幅な差異による獲得ポイントの不公平を補うために、大戦管理委員から補填として勝利者に加算されます。その際のポイントは両者同等のものとします』
どこからか聞こえてくるアナウンスの声だけが、この世界にこだました。俺たちは黙ったままお互いを見ている。
『開始まで、カウント5』
疾風の隣にいるフレアは翼をはためかせつつ口からわずかに炎を漏らしている。
『4』
一方俺の横にいるアイヒスとミリエルは俺よりも前に出て、来たる合図を待つ。
ミリエルはまばゆい光に包まれ戦闘時のスタイルにチェンジし、その手に煌めく槍を握る。
そして、反対の手はまばゆい光に包まれていき・・・・
『3』
アイヒスも何か呟いたかと思うとその手に杖のようなものが現れた。木でできているようで先の方にはぐにゃっと歪曲している装飾の中心に緑色に輝く玉がはめられている。とても魔法使いらしいと言えばらしい出で立ちで、アイヒスは来るべきその時を待つ。
『2』
「俺はお前と違って必死になる理由なんてない。お前のいう通り俺にとってここはゲームの延長戦上でしかないんだ。だってそうだろ?誰かをたとえこの世界で殺したとしても結局命が尽きることはないのだから。だからお前の行動も許されるし、それに関してとやかく言うつもりはないんだ」
『1』
「だけどそのお前のスタンスが!香奈の前に前提として置かれている「正義」って言うものが俺には腹が立ってしょうがないんだよ!誰かを助けるという使命の前に、誰かの側にいてやるという気持ちが!疾風にとっては常に二の次になってるんだよ!その自覚がないというのなら・・・・・俺がわからせてやる!」
「お前にはわからない・・・・だから!!お前なんかに止められるわけにはいかないんだよ!!未治!!」
『
『フレア・ドガ・ノヴァ!!!!!』
「
「未治、お遊びでこの世界にいるお前には悪いが容赦はしない!」
「お遊びを舐めるんじゃねーぞ・・・・際の際まで極まったお遊びは一味も百味も違うってことを特別に教えてあげるよ」
舞台上で決められた正義と悪の戦いは、今開戦の狼煙とともに重い幕を開ける。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます