第46話魔法使いBravery その15
「ミリエル〜ご飯ついで〜」
「はーい」
「・・・・あの」
「ほら、アイヒスもどうせ食べるんでしょ?ならさっさと手伝ってくれ〜」
「いやそうじゃ」
「未治今日何〜?」
「んー?冷凍の餃子を焼いてるよ〜」
「おおおぎょうざ!前にも未治が作ってたやつね!とても美味しかったわ!!」
ピョンピョン
「そりゃうまいよなぁ〜これさえあればいくらでもご飯が食えるし」
「未治!ご飯はかき混ぜてからよそうのよね!?」
「そうそう、縦に切るようにしゃもじを入れてからグルンと回すように、だよー」
「わかってるー」
☆☆☆☆☆
「「いただきます」」
「い、いただきます?じゃなくて!さっきの話は一体どこに」
「うっまーーー!!やっぱりネプタの料理は発想が神様級の美味しさね!!」
「その『発想が神様』は流石に苦しくない?」
「苦しいって何がよ?」
「いや使いかた」
「・・・・・別に変なことないけど」
「えええ、そうなの?というかそもそも『発想が神様』ってどういうことなの?うちらが使う『ヤバイ』とか『パナイ』とかと同じ感じなの?」
「さぁ?よくわかんないけどなんかすごいと思った時に自然と口に出てきちゃうというか?まぁ私たち"天使"の若者言葉みたいなものね・・・・というか前にも説明した気がするのだけれど」
「いやー随分と特徴のあるセリフだなと思ってただけ・・・・まるで自らのキャラを際立たせようとしてるような」
「ん?なんか言った?」
「いや、何も」
「あの〜そろそろいいで」
「というか今の未治はあれね・・・・娘の若者言葉に口出ししたい父親みたいな感じだわ」
「ぐはっ!」
「未治は一々細かいのよ!そうやってネチネチネチネチいろいろなこと気にしてたらいつのまにか死んでるわよ」
「ぐっ・・・・う、うるさいな!俺は生命線長いんだぞー!。昔占い師に占ってもらった時なんかしぶとく最後まで生き残ってるとか言われたし!」
「それ、褒められてないって私でもわかるわよ・・・・」
☆☆☆☆☆
「「ごちそうさまでした」」
「ご、ごちそうさま?って違うんですそうじゃなくてぇぇ〜」
「さっ、ちゃっちゃと洗うぞ〜」
「おー!」
「あ、あの!」
「アイヒスはそこのお皿運んできて〜」
「え?あ、はいです」
ジャブジャブ
「ふぅ、春になったとはいえ水がまだ冷たい!」
「んー?・・・ひゃっ!冷たっ!こんなのずっと触ってられないわ!」
「それを今実行してるんだけどね、俺は。むしろ代わって欲しいんだけど」
「ちょっ、ちょっとその仕事はレベル高いかも?」
冷たいのが嫌なだけやんけ」
ジャブジャブ
「・・・・なら私がやるです」
「おおーアイヒス助かるよ!あとここにあるやつをこのスポンジってやつで拭いてくれればいいから」
「わかったです・・・・つ、冷たい!けど、これが終われば・・・・」
ジャブジャブ
「ああ、それ洗い終わったやつ水気を拭きとるから貸して」
「はいです」
「あとそこのお皿も」
「はい、どうぞです」
「ありがと」
「・・・・・なんか」
「ん?アイヒスに負けた気分?」
「べべべべべべつにそんなこと思ってないから!?」
「そう?(ニヤリ)ならミリエルには次やってもらうよ」
「・・・・未治のバカ」
「バカって言った方がバカなんですー」
「えっ!?そうなの!?嘘私・・・・何回あなたにバカって言っちゃった?」
「冗談だよ。はいはい僕がバカですねー」
「うーーーなんかムカつくーー!!」
「・・・・ミリエル様」
「アイヒスはそんな哀れみの目を私に向けないで!」
「いや、可愛いと思うですよ?多分」
「多分は余計ーーー!うがーー!!」
「ぴーー!すみませんですーーー!」
「ちょっと埃たつから暴れんな〜」
☆☆☆☆☆
カッコー
数分後
カッコー
「へぇ〜アイヒスは"魔法人"の中でも天才だったんだぁ〜」
「!?!?!?!?!?!?!?」
「未治。なんかアイヒスがなんか言葉で表現できないような様々なことで言いたいことがあるけどどれから言おうかわからなくて記号だけになってしまったような、そんな顔してるわよ。大丈夫かしら?」
「いやぁ〜どうだろう。もともとこの子は感情が言葉よりも豊かだから俺たちの理解の範疇を超えた表情を作れるかもしれないかもね」
「なるほど・・・・そういう状況を見て判断する能力は未治神様級ね」
「とりあえずベストは神様なのね」
「当たり前よ。神様は最上級の褒め言葉として使われているわ!」
「神様って形容詞なのかよ」
「・・・・・うん。とりあえずこれです。これを言わずして何も始まらないです」
「え?何が始まらないって?」
すぅぅぅぅぅぅぅっ「前置き長すぎだろぉぉぉぉぉぉぉぉぉがぁぁぁぁぁぁぁぁですぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!!!」
キーーーン
うわぁ!うるさっ!!
「ちょっと!!近所迷惑!!」
「そんなん関係ないです!!何ですか!!私が話し始めようとしたら突然あなたは立ち上がって夕飯作り出すしミリエル様は嬉々としてついていくし!聞く気ないです!?」
「えーっと、別に聞く気がなかったわけじゃないことだけは言わせて欲しいのよアイヒス。ただちょっと・・・・美味しそうな匂いに誘われちゃったというか」
「その時まだ全然何も匂いとかしなかったです!!というかそもそもそっちが話せと言ったです!!なのに何であそこで唐突な夕ご飯になるです!!信じられないです!!」
「でもでも美味しかったでしょ!?」
「美味しかったです!!ごちそうさまでしたです!!」
結局一体何に怒ってんだよこの子は。
「いやまぁ疾風との戦い前に腹ごしらえしときたかったなぁ〜って唐突に思い出してね」
「それでもあんなこと普通ないです!!まさかあんなあっさり話の腰を折られるとは思ってなかったです!!思ってなかったです〜〜〜〜〜〜!!!!!!」
「ごめん!ごめんって!そんな今にも襲うような感じで迫って来ないで!」
「ガルルルルルルルルルルルッ」
もうだめだ。アイヒスは野生児になってしまった。二度と文明の大地を踏みしめることもないだろう・・・・いや冗談だってマジでだからお願い許してこっちに飛びかかってこないで〜〜!!
☆☆☆☆☆
カッコー
さらに数分後
カッコー
「ふぅ、全く。人間の礼儀のなさにびっくりです」
「はぁ、はぁ、いや本当・・・・ごめんって。そんなつもりとか、はぁ、なかったんだって・・・・はぁ、強いて言うなら、はぁ、空腹のせいだって」
野生児モードのアイヒスを抑えるのに俺の体力の半分以上が持ってかれた。ちなみに当事者のはずのミリエルはなぜか傍観を貫いていた、というかミリエルには襲いに行かなかった。めっちゃこいつになめられとるっ!
俺たちはベッドの脚を置く側の方にあるちゃぶ台みたいな丸机に三人で座っている。先ほどの夕飯もここで食べている。なにぶん部屋が狭いのでそこまでのスペースはないのだが、このちゃぶ台だけは置けているのだ。
「わかった。今度こそ聞こうか。アイヒス自身の理由を」
「ふんっ!です。もういいたくないです!」
「・・・・・めんどくさいから天才だからって理由で終わりでいい?天才すぎて向こう側がつまんなくなって今度はこの世界でも無双したいとかでいい?」
「・・・・・・・」
「ぷっ・・・流石に適当すぎ」
すごい嫌そうな顔をしているアイヒス。ちょっと吹き出すミリエル。
「私は天才でも強いとか思ってないです」
「・・・・じゃあ、何で?」
今度こそ真剣に俺はアイヒスに問いかける。ああ一応言っておくけど別にさっきまでふざけてたわけじゃないよ?食欲には勝てなかっただけだよ?
「ただ、向こうの世界に飽きたって言うのは・・・・・少し合ってるかもです。私はもう"魔法人"のテリトリー内の魔法技術は習得済みですので・・・・『詠唱:
ボッ!
そう言うとアイヒスの人差し指から小さい火が吹き出てきた。その火は今もアイヒスの指の上で燃え続けている。
なんだかんだ言ってアイヒスの魔法を見るのはこれが初めてなんだっけ。やっぱり彼女も異世界生物なのかと今やっと実感した気分だ。
「この魔法は初歩の初歩。"魔法人"なら誰でもできる魔法詠唱です。といってもこの詠唱式を開発するのに私たちはかなりの世代を費やしているです。私たちは異世界生物の中でも特に知恵を重視する存在なのです。元々はあなたたち人間と何も変わらなかったです。しかし幾たびもの実験と研究の繰り返しが今の"魔法人"たちの誇りであり力となっているのです。まぁここまではさらっといくです」
「ちょっと、家燃やさないでよ?」
「そんなことはしないです。そんなヘマをしては天才とは言えないです。そしてここからはおそらく"魔法人"の中でも私だけができる芸当です。『補助詠唱:
ヒュルルルルルル
アイヒスの指に灯る小さな炎はたちまち音を出しながら回転し、ついには何かの形を形成し始めた。形は横に広がり、アイヒスの手のひらにゆっくりと着地した。
その姿はまさに、大きく翼を広げた鳥の形をしていた。
「「おお〜」」
「これが私の得意魔法のひとつである『詠唱:
「いいかしら?アイヒス。私たち"天使"の使う魔法とアイヒスたち"魔法人"が使う魔法は違う気がするのだけれど。そもそも最初に『詠唱』なんて言葉ないわよ?」
「そうです。そこが"魔法人"の痛いところです」
アイヒスは先ほどの自慢げな口調ではなく憎々しげにそう言った。
「私たちは魔法を司る種族と呼ばれているにもかかわらず、ミリエル様他一部の上位種族が使う魔法は一切使えないです。過去にも研究が続けられてきたものの、恥ずかしい限りですが一度も成功したことはないです」
「そうなの?なんかこうビューー!ってやったらボンッてでるはずなんだけど」
「・・・・・・・」
ミリエルの身振り手振りを交えた説明にアイヒスは呆れの視線を送る。
「ミリエル。それは人に教える言葉じゃない」
「ええ、でもそうとしか言えないし」
「・・・・まぁいいです。幸いここには"天使"のミリエル様がいるです。それが何よりの幸運です」
アイヒスはいじけるミリエルを無視して俺にそう語った。これでアイヒスの目的はほとんど読めてきたな。
「ふ〜ん。なんとなく見えてきたよ。つまりアイヒスはミリエルたちが使う魔法すらも使いこなしてみたいってことだね?」
「そう言うことです。私は見たいのです。魔法という力がどこまでいけるのかを。それを見るためには他種族が入り混じるこの大戦に参加するしかなかったのです。これ以上"魔法人"のテリトリーにいても何も学ぶことはないですから」
"魔法人"の知識の積み重ねでも限界があった。だからこそ外へ飛び出して新しい何かを見つけていけばいい。まさにアイヒスがミリエルと知り合いになれたように。そうすれば"魔法人"は新たな力を手に入れるかもしれない。
「・・・・・いいじゃんアイヒス。俺も見たいよ、お前が見たがっているものを」
なんかそう言う何かに命をかけられるって言うのが羨ましい。夢が広がるじゃん。アイヒスは根っからの研究者だ。
研究者であり、探求者であり、冒険者。
「そうですか。ならあなたと契約するです。私の叡智のために、そして私たちの誇りのために、この異世界大戦を勝ち抜くお手伝いをしてくださいです」
「・・・・・いいのかい?これから俺たちは」
そうだ。俺はこれから疾風と戦う。ということはフレアとだって・・・・
「もう今決めたです。信じてみるです。あなたを。師匠を。師匠が勝てると言うのならもしかしたら勝てるのかもしれないです。師匠ならきっと・・・・ありえない作戦で勝っちゃうかもしれないです」
アイヒスは精一杯の笑顔を俺たちに向けた。少し無理をしているのは明白だ。体が少しだけ震えている。
俺はそんなアイヒスに近寄って自信のある笑みを見せる。アイヒスの不安が和らぐのならば、今はいくらだって俺は努力する。
もうアイヒスは、頼れる俺の駒なのだから。
「不安に思ってるかもしれない。勝てないと今でも思ってるかもしれない。それでも無理にでも俺を信じていると言うのなら・・・・・俺は勝つための策を考えるだけ」
俺は少し震えるアイヒスの手を握る。アイヒスは驚いて俺の手を引っ張るように力を入れようとした。しかしそれも最初だけで少しずつ震えが止まり、彼女の手から温かい熱が感じられるようになった。
「アイヒスはすごいよ。俺でも、疾風でも、到底できないことをした。誇っていい。だから俺は君のその"勇気"に従って・・・・・・・君を勝利に導く」
「私だっているのよ!大船に乗ったつもりって言うのかしら?こう言う時は。まぁそんな感じであの"龍"ぶっ飛ばしに行きましょ!」
俺の言葉に勢いづいたミリエルもアイヒスにそう宣言する。もうアイヒスは何も迷いのない顔をしていた。
「はいです!!!!」
アイヒスがそう言うと突然赤い光が俺とアイヒスを包みこんだ。これはミリエルと契約した時にも出た光だ。これで契約が正式なものになったと言うことか。
・・・・・それよりも俺は嬉しかった。アイヒスがちゃんと笑って答えてくれたことに。
俺は口元に少し笑みを浮かべつつアイヒスに問いかける。
「さてさて、アイヒスは何ができるのかな?洗いざらい吐いてもらおうか?」
「・・・・・わざとにしてもやっぱり変態です」
「いやごめんて」
「本当未治のバカ!」
「だからごめんて!!」
さぁ、やろうか!あいつをギャフンと言わせるためのまずは第1段階!!
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