第45話魔法使いBravery その14
「ただま〜・・・・ってあああっ!!!」
玄関を開けるとそこには地面などなかった。
あるのは、おびただしいほどに散らばっている紙の束の群れ。
「ああ、せっかく綺麗に片付けてたのに・・・」
「あはは、ごめんね未治。まさかこうなるとは思ってなくて」
「というかお前にも見せたことなかったろミリエル。なんで知ってんの?」
「それはまぁ暇だったし?未治がどんなもの持ってるかとか気になるし?というか未治がちょっとエッチなもの持ってたらどうしようかなとかちょっと気になってしまったというか」
「お前らにもそういう文化あるのかよ。ちなみにこの家にはスレスレなものはあるけどアウトなものは存在しませんよ」
「・・・・スレスレはあるんだ」
おおっとなんかミリエルの様子がおかしくなっているけど俺はそれよりももう一人に用があるんだなぁ〜
「で、何してんの?アイヒス」
俺は机の椅子に正座したまま本を読むアイヒスに話しかける。
「なるほど、これは回り込む作戦ということですか。しかもこんな時に!?なんてはちゃめちゃな策ですかこれは!?下手したら取り囲まれて・・・・ハッ!帰ってたです!?おかえりです!」
「はいただいま、じゃなくて!!どうしてこんな広げちゃったんだって聞いてるの!!あとで片付けるの大変なんだよ勘弁してくれよ!!」
「そんなことよりこれはどういうことです!?ここにある書物たちは一体どうやって集められたものなんですか!?私はいちどもこんな素晴らしい兵法書に出会ったことありません!!是非!!この書物たちのありかを!!」
アイヒスは興奮した様子で俺に詰め寄ってくる。今までで一番元気な姿を見た気がするぞ。
「・・・・・それ、俺が書いたやつ」
俺は俺にとっての超重要事項をさらっと流したアイヒスに少しイラッとして、投げやりにその紙束の作者を言ってやった。
「・・・・・へ?」
しばらくしてようやく帰ってきた言葉は全くよくわからないと言うかのようなひらがな1文字。アイヒスは一旦視線をその紙束、というかノートに戻して、それからしばらくしてまた俺の方を向いた。ちなみにその間興奮気味だった表情は全く変わっていない。
「またまたご冗談を〜です。こんな素晴らしい書物をあなたが書いたです〜?そんなことあるわけ・・・」
「・・・・・・・・」
「えっ?マジです?本当に?これをあなたが書いたです?このおびただしい数の書物を、あなた一人で?」
「そうだよ。全部で3万3653冊。それら全てが、俺の今まで考案した策が書かれたノートであり、俺の全てだよ。そこには実践例と策の論点や改良点についても全て書いてある」
「「さ、三万!!」」
ミリエルとアイヒスは気持ちいいくらいに驚いた。特にアイヒス。
「といってもここにあるのはその三分の一くらい、一万冊くらいしかないけどね。流石に全部は実家からもってこれなかったから新しい順から見返すために持ってきたんだよ。近々何冊か福岡に送りかえさないととか思って一旦古い順にちゃんと敷き詰めてあったのに・・・・・はぁ、またやり直しだよ」
「私には最初四角いでかい何かかと思ったわよ・・・・・それか壁」
「まぁお陰で押入れの下には何も入らないから間違ってはない」
「はっ、発想が神様すぎる・・・・・・」
だんだん敷き詰めすぎてハマって取れなくなってたりもするんだよね。
「そんな・・・・・これを、あの人間が」
というかアイヒスのショックがそこまでかってくらい半端ない。なんだかベッドの方に寄りかかってぐったりしている。なんでそんなお前が打ちひしがれてんの?よくわからんねんけど。
「あの、アイヒス?大丈夫?風邪なら風邪止めあるよ?」
「29563-3」
アイヒスは唐突にとある数字の羅列を呟きつつ先程まで見ていたページを俺に見せた。
俺は間髪入れずにおそらく欲しているだろう答えを口にする。
「ああ、それは取り囲まれる危険性というよりかは取り囲まれた後に回り込めって意味だよ。そのためにあらかじめこの地点とこの地点に爆弾を仕掛けるんだ。そうすれば1点から突破してそのまま敵を取り囲めるっていうカゴの中身の鳥が囲んじゃったら面白くね?っていう作戦。問題点としてはその回り込むタイミングがかなりシビアで、いかに相手のリズムが崩せるタイミングで爆弾を起爆できるかがミソだね」
「・・・・最初は相手の有利に持って行きつつ最終的には相手が対処できない域にまで展開させる、ですか。何という、でもすごい!こんなこと思いつくなんてあなたは"神"では!?」
「いやいや、叡知の力で一位にいるのが人間なんでしょ。これくらい人間ならすぐ思いつくって」
「そんな・・・・人間舐めてたです。まさか本当に私たちが追いつけない次元にいたとは。魔法の深淵の一端すらのぞけないと聞いていたから見掛け倒しの雑魚かと思ってたです」
「おい」
「あのーすみませーん。私今の会話なにっっっっっっ一つ理解できなかったんですけど」
「まぁ、だろうね」
当たり前だ。説明が抽象的すぎてきっと側から聞いている人がいるとしても全くさっぱりだろう。もし今の会話で作戦の概要がわかるものはただの変態だ。
「というかやっぱりこいつは使えるな」
俺は首を傾げ続けるミリエルをよそにアイヒスの思考能力の高さに舌を巻いた。
・・・・このローブっ子、俺のノートを割と理解して読んでやがる。
俺の書いたノートは基本的には俺にしか読めない暗号や記号が使われていたり単純に字が汚かったりしたせいで今まで誰にも理解されて読まれたことはなかったのである。母が生前の頃にも一度見せたことがあるのだが、母はノートをぐるぐると回転させるだけで最後は「ヒエログリフかっ!」と言って家の庭の方へ放り投げられてしまったこともある。なんとも活発的な母だったなぁ(遠い目)
そんな暗号奇文字盛りだくさんのノートをアイヒスはちゃんと理解して、しっかり言語的に読めた上で意味も理解して読んでいた。確か異世界生物全てには翻訳の能力かなんかが備わっていて、この世界の文字からもそれぞれが理解できる言語が浮かび上がってくるのだと聞いた気がする。一体俺のオリジナル記号まで理解できる言語に置き換わっているかどうかはわからないけど、これならアイヒスに俺の知識を叩き込めるかもしれないという希望を見出すことができる。
「あれ?ちなみにミリエルもこのノート読めるの?」
「ええ、読めるわ。ただ読めても意味まではわからないわね。私戦場では兵士だったから兵法とか習わなかったし」
「いや兵士でも普通習うだろ」
「え?そうなの?と言っても私たちの作戦なんて主に突撃か後退くらいしかないわよ?」
「まじか、脳筋すぎるだろ」
最終兵器ドォーンで終わるもんね、あなたたちは。そりゃ小細工とかいらないか・・・・
というかまじでこの子優秀すぎん?いいの?俺の今後の理想に合致しすぎてるんですけど!?こんな優秀株仲間に加えちゃっていいの!?いいんですね!?やったー!
「それでアイヒス。答えは出た?」
・・・・と心の中では早くアイヒスをメンバーに加える気満々でテンション爆上げ状態になっているのだが、一応約束は約束。アイヒスの答えを聞こうと努めて冷静を装ってアイヒスに聞いた。
アイヒスは少しビクッとしたかと思えば突然頭を思いっきり後ろにそらした。うわ、露骨。
「こら、アイヒスはちゃんと決めたんでしょ?」
すると見かねたミリエルが助け舟を出した。どうやらもう答えは出ているらしい。
「うーわかってるです。ちょっと予定が狂っただけです。まさかあなたが尊敬すべき師匠だなんて思ってなかったです」
「「・・・・師匠?」」
んんんんんん????
「さっきまでこの本を読んでて・・・すごかったです。今までの常識がひっくり返されたです。だからあなたはこんな本をいっぱいどこかから手に入れたおかげで、ミリエル様が言うようなすごい人間になったと思ってたです。だからあなたではなく、この本を書いたお方ならばこんな変態よりももっと心強い契約ができると思ってたです」
「おおおお、さっきから俺へのディスりがえげつねーな俺そんなお前に悪いことした?」
「そう、思ってたです・・・・・けど、その書いたお方が・・・まさか・・・・この人間だなんて!!なんですかあなたは!!凄すぎです!!尊敬するです!!師匠と呼ばせてくださいです!!」
「いや・・・・師匠はやめてください、すごい手のひら返しだな」
というか顔近い顔近いさっきなんでそっぽ向いてたのってくらい顔近い俺が仰け反りすぎて背中折れそう。
「とにかくあなたと契約すれば私は悲願を達成できるかもです!だからあなたと契約することに異議はないです!けど・・・・あの"龍"に勝てる自信は、まだないです」
「・・・・そっか」
アイヒスは気落ちしたままベッドに顔を埋めてしまった。まぁ気持ちはわかる。明らかに格上の相手と命がけの勝負をしてくださいと言われて憂鬱にならないわけがない。今のアイヒスには、戦うためのメリットが見出せないのだろう。
俺はそんなアイヒスに語りかける。
「ねぇアイヒス。君の悲願について教えて」
「・・・・だから、"魔法人"の誇りにかけても」
「それは聞いたから、じゃなくて君自信の」
「・・・・・・・・」
「アイヒスはどうしてここへ来たの?個体数の少ない"魔法人"だからといってこの世界に行くための枠数は取り合いにでもなったんでしょ?なぜ・・・・アイヒスが来たの?」
俺はアイヒスにずっと聞きたかったことを聞いた。これだけは、必ず聞いておきたかった。ミリエルだって叶えたいものがあるからここに来た。それを踏みにじるようなことはたとえこれがゲームだろうと許されることじゃない。
「・・・・・・・え・・・」
アイヒスはしばらくベッドに顔を埋めたまま何も喋らなかったのだが、しばらくしてベッド越しから少しづつ声らしき音が聞こえてくる。
「・・・・私は"魔法人"の中で最も優秀だったのです。いわゆる天才児ってやつです」
そしてゆっくりと、自分の内について語り始めた。
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