第44話魔法使いBravery その13

「はい、これ奢り」


「えー!いいの!!うえーいやったーい!!ありがとう〜!!」


「いいのいいの、机片付けるの手伝ってもらったのとあと日頃のお礼も含んでますので」


「わぁ太っ腹だぁ。体はやせっぽちのくせに」


「最後のはいらんだろ」


朝の騒動の後、散乱した机を香奈と直した俺は放課後またここで話そうということで一旦別れた。疾風とは同じクラスなので終始顔を合わせていたのだが一切話すことはなく、少しクラスメイトに心配されてしまったがなんとか放課後、再度香奈と対面するまでたどり着くことができた。



「えー、でも未治くん私よりも弱っちいし」


「え、なんでそうなってるの?俺香奈と力比べとかしたっけ?」


「してないけど・・・・私握力30くらいあるよ?」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・20」


「・・・・・ははっ」


「・・・・・笑うなちくしょうっ!」


「いやーごめーん未治くんそこまでとは思わなくて・・・・・いや本当ごめん」


「普段伸びたような口調の人が唐突に真面目になると悲しさ倍増するって知ってるねぇ!?」


「まぁ未治くんが悪い人に襲われそうになってたら私が颯爽とあなたのヒーローになってあげるよ!その時この私に惚れてしまわないように・・・・・・・気、を、つ、け、る、のだよ!!」


香奈はわざわざ俺の顔のすぐ近くまでずずいっと近づき、俺の前で人差し指を左右へゆらゆら揺らしながら多分男前風なセリフを吐いた。というか


「・・・・・・・近い」


「おお?私の美貌に惚れたかい?照れてる?照れてるの?」


「違う。違うから早く離れ」


「おおお?照れ隠し?やっぱり女の子が近くにいるから照れてる?未治くんかわい〜」


「ね、お願いだから一旦離れて。本当に、頼むか」


「そんな〜本当は嬉しいんでしょ〜美少女の顔が近くにあることなんて滅多に起こらないんだよ〜役得だよ〜。ふふふ、もっと近づいちゃおうかなぁ〜」


「全然違うわ!!だから!!さっきから!!お前の持ってる熱々の、今沸騰していたかのような、多分96度くらいの熱さの缶で飲むタイプのコーンスープが!!俺の!!頬に!!当たって!!熱いんだってば!!火傷するわ!!」


「あっ、ごめーん全然気づいてなかった〜」


「あつっふぅ、ふぅ、マジで危なかった」


さっきから俺の方に顔を近づけるもんだから、香奈が手に持っていた熱々の缶が同時に俺の頬に張り付いて火傷しそうなくらい熱かった。まったくもってそういうドキドキとかできない危機的な状況だった。熱すぎて会話も途切れ途切れになってしまうほどだ。


というか別に今日は寒くないだろ。むしろ今日は春らしい暖かさを感じる。なのに香奈は学校の自販機の『あたたか〜い』のところにあるコーンスープをご所望とは・・・・


「ったく、俺をからかっても何も出ないっての」


「いや〜そんなわけないでしょ〜未治くんきっと面白いこと隠してるって私は思ってるよ〜吐いちゃいなよ〜・・・・彼女の名前とか」


「生まれてこのかた彼女なんていませんでしたー!って何言わせとんねん!!」


「はははっ、やっぱり未治くんは面白いな〜!」


「面白っ・・・・・はぁ、もういいです」


少しだけ疾風の気持ちがわかったような気がする。この子自分のテンションを押し付けてくるタイプの子だ。そりゃあんなぞんざいな態度にもなるわ。流石に毎日ずっとこれだと気が滅入っちゃうもん。たまに接するくらいが精神衛生上楽しんでいられそうだな。


あ、そうだ。


「あとそれ、お詫びってのもあるから」


「・・・・・うん?なんか謝られるようなことされたっけ?セクハラとか?」


「俺がそれをしたと?自分の心に聞いてみ?」


「ん〜・・・・・され・・・たようなされてないような?」


「勝手にされたことにするな」


冤罪甚だしいな。


「んーそっかな〜。でなんだっけ?お詫び・・だったっけ?」


「そ、お詫び」


「なんの?」


「俺・・・・疾風の友達じゃなかった」


「・・・・・・・あー」


香奈はもう言われなくてもわかったかのようにうなづいた。さすが生まれてすぐから幼馴染やってるだけのことはある。


「知っちゃったんだね。ハヤちゃんの本当の顔」


「あれが本当かどうかは知らないけどひどい顔してたよ・・・・2秒後には泣いてしまいそうな感じ」


「そっかぁ〜未治くんにはちゃんと見せるんだねぇ〜」


「ちゃんと見せる?香奈には見せないの?」


「見せてくれない。何度も声をかけて何を悩んでるのか聞こうと思ってもハヤちゃんは絶対に私には教えてくれないの。ハヤちゃんが一体何に苦しんでいるのか。何に押しつぶされそうになっているのか。何に・・・・心を奪われたのか」


心を・・・・奪う

つまり、異世界大戦という存在。そこに疾風は自分を奪われ、囚われてしまっているのかもしれない、と勝手な憶測を立ててみる。だから香奈はわからないんだ。


おそらく香奈は契約者ではないから。


異世界大戦のルールの一つとして、関係のない他人に対して異世界大戦の存在を口に出してしまった場合。その話の核心の度合いによって重くなるペナルティが課せられる。例えばポイント没収や次回戦闘時の自分の異世界生物の弱体化、最悪完全に相手が存在を知ってしまった場合1発リタイアで話した人と共に記憶を消されることもあるという。


今なによりもポイントを欲する疾風にはこのペナルティは重すぎるものだろう。だから疾風は香奈に自分の境遇を伝えられない。故に疾風の一人歩きになってしまった。


「でもね、私は少しだけ答えを知っているの。疾風がああやって必死な顔をしてるのはね・・・・・多分、私のせいなんだ」


「やっぱり。そんなことだろうとおもってたよ」


「おーさすが未治くん名推理だよ〜」


相変わらずセリフはお調子者な感じだが、心なしか声のトーンが下がった気がした。


「・・・・・私の家ね。いっぱい借金があるの」


「おお、いきなり重いな」


「まぁね〜・・・・もう3年前の話になるんだけどさ。私のお父さんが勤めてた会社のビルが突然なんか隕石みたいなでっかいやつであとかたくもなく消し飛んじゃったんだよ。聞いたことない?なら製薬って会社なんだけど」


「なら・・・・ああ。そういえばそんな事件あったね。たしかになんかの飛来物が会社のビルにぶつかって消失したっていう。あの時全国区でニュースになってたのを見た気がするよ」


「そうそう。その会社が私のお父さんが勤めてたところだったんだよ。幸運にもその時お父さんは外出してて助かったんだけど・・・・・社長含めその他重役が軒並み死んでね、その会社は倒産せざるをえなくなっちゃったの」


香奈は教室の一つの机に腰掛けながら話続ける。手には転がされた缶のコーンスープから湯気が立っている。


「それで・・・・その会社はその時新しい薬の開発をしていたらしくてね・・・・・莫大な借金を抱えていたの。開発に成功したら数十倍の利益になるとかお父さん言ってた。その時お父さんも実験を指揮するかなり重要なポジションにいたんだって。だからこそ・・・・お父さんは責任を負わされた」


香奈は淡々と話しているのだが、机の端を握る手には力が入っていた。少しギシギシと音がするほどに。


「重役がみんな死んじゃったせいで生き残ったお父さんは実質的な責任者に仕立て上げられてしまった。当然お父さんはその地位を断ったそうなんだけど、もうほぼ私たちを人質にとった脅しみたいな感じで引き受けさせられてしまったの。結局は残った借金を全部押し付けるための株主や他企業の尻尾切りみたいな感じでね、それは最初はひどい感じだったんだよ・・・・えへへ、ごめんね。こんな話しちゃって」


「いいよ。無理に笑わなくて」


「ごめん・・・・最初の頃はとにかく家のものが片っ端からなくなった。お母さんが買った高級バッグも、お父さんが自慢してた車も、私のお気に入りだった白地のコートも、そして家そのものも・・・・結局今はアパート暮らしでなんとかやっていけてるんだけどね」


「昔は一軒家だったの?」


「うん、昔はハヤちゃんの家の隣だったんだよ・・・・今は自転車で10分」


「・・・・・・」


「それでね、最初のうちはそれなりに稼いでたお父さんの貯めてたお金でなんとか借金を少しずつ返しながらも普通の生活をしていたんだけど・・・・一年後お父さんの貯金が底をついてからが地獄だった」


香奈の手はさらに力強く机の端を握っていて、まるで体の震えを抑えているように見えた。


「最初は黒服の人が三人訪ねてきたの。その時私はお父さんが詳しく話してくれなかったからなんだかわからなかったんだけど・・・・今思えばあの人たちが借金取りってやつだったんだと思う。その人達は定期的に来てはお父さんやお母さんに怒鳴り散らして去っていったの。私はその人達がとても怖かった。何を考えているのかわからない目をしていたの。だって怒鳴り散らしながら笑みを浮かべていたんだよ?なんで?私にはあの人たちが理解できない!!いつもお父さんとお母さんに暴力を振るうあの人たちが許せない!!いつももの陰に隠れることしかできない私が許せない!!お母さんは頭を叩かれて寝込んで、お父さんは私に向かって拳をつきだすようになった!!いつも優しく笑ってくれたのに!!私の大好きなお父さんは!?私の大好きなお母さんは!?どこにいっちゃったの!?ねぇ!?どこ!?どこどこどこどこどこど」


「わかったから。これ以上、もういいから」


俺は香奈の口を手で塞いだ。香奈はハッと目を見開いた後、とても悲しい表情を作る。きっと今回だけじゃないということなのだろう、自分を止められなかったのは。


「・・・・ははは、ごめんね〜未治くん。私も気がめいっちゃってるなーこりゃ気をつけねーと〜」


俺は改めて机の上で薄く笑う香奈を見た。


今まで全く気がつかなかった。頬や首筋、目の上、足首、腕。それらの部位にはうっすらと青い跡が残っていたのだ。それを化粧しているのだろうか他人から見たら全く違和感のないように傷を薄く見えるようにしていた。俺も今話を聞いてやっと気づいたくらいなので相当な苦労と手間がかかる作業なのだろう。


それを見て、俺は改めて思い知らされた。


南乃花 香奈はお調子者をほぼ自然に見えるように演じている。それがもともとなのか、くだんの件があった後なのかはわからないが、彼女は勤めて明るく振る舞い続けていたのだ。


「・・・・香奈は、なんで誰にも言わないの?誰にも、助けを求めないの?」


俺はその姿に疾風の顔を思い浮かべた。香奈にはいつだって、頼れる幼馴染がいるのに。


「だめだよ。ハヤちゃんだけは」


ほら、やっぱり考えてる。


「なんで?」


「ハヤちゃんは・・・・最後まで助けようとしちゃうから。たとえハヤちゃんが死んじゃうことになっても」


「っ!」


「ハヤちゃんは悪さをする人がとても嫌いで、自分の正しいを絶対に信じてる。それはとてもすごいことだと思う。いつもみんなのことを考えて、誰かを助けることを躊躇わない。だから私はハヤちゃんにだけは助けてって言えないの・・・・・それに私だって、悪いことをしたから」


「悪い・・・・・こと?」


「私ね・・・・・泥棒なんだ。コンビニとかからね、お菓子をとったことが何度もあるんだよ。その日のご飯はなにもなくて、夕飯もスナック菓子だけで、それで我慢できなくなっちゃったの・・・・もう必死なんだよ〜生きるってことはさ〜・・・善悪のことなんて気にしてられなくなるほどね」


「・・・・・」


香奈は生きるために悪いことをした。そうしなければいけなかった。たとえそれが悪いことだと自覚していても。


「だからね。きっと私がハヤちゃんに相談しちゃったらハヤちゃんは私のことも責めると思う。私がしたことだって立派な犯罪なんだもん。きっとハヤちゃんは私のことなんか・・・・」


「・・・・・・あいつ」


「でもね、最近借金取りの人たち、来なくなってるの」


香奈は苦しそうな表情を浮かべる。言っていることは一見いいように聞こえるのに。


「ここ半年間くらいかな・・・・私たち毎月百万円くらい払わなくちゃいけなくて、しかも到底払えない量だったのに。ある日突然借金額がみるみる減っていったの。ある意味怪奇現象だよね〜『恐怖!借金喪失の謎』みたいな?」


「・・・・・・」


「あれ?反応なし?そろそろ未治くんのツッコミが欲しかったんだけど」


「いいから早く話して」


「はいはい。それで調べてみたんだけどどうやら何者かが代わりに私たちの借金を払ってくれていたそうなのよ。毎月百万円しっかりと。そのおかげで私たちの生活には少しだけゆとりが生まれた。毎日の食事もちゃんと出るし、まだまだお母さんはたまに高熱を出すこともあるけど仕事はやめて家事をやるようになったし、お父さんは新しい職場探しに力を削げるようになった。一体誰が払っているのかは謎に包まれているけど、私たちの苦労はここで終わるんだって、最初は思っていたのに・・・・・結局お父さんはトカゲの尻尾。なら製薬の重大な機密を知っていたお父さんは他社に引き取られることはなかった。みんなお父さんというリスクを背負いたくなかったのと、単にやさぐれてしまったお父さんに不信感を抱かれてしまったというのが理由でね。結局職場復帰は叶わず、今も沢山のバイトに明け暮れている」


香奈の父は優秀な医者兼科学者なのだそうだ。名門の大学を卒業し、なら製薬に入社、そこで数々の新薬を開発協力し、とある研究の責任者にまでなったのだという。そんな香奈の父は当然他社から引っ張りだこになるのだろうと、おそらく当時の香奈達は思ったことだろう。


しかしそうは甘くなかった。面接では様々な理由で断られたらしいが、おそらく香奈の父に借金を押し付けた人たちが風評被害を避けるために根回しをした結果なのではないかと香奈は思っているらしい。あまりにも不自然な断りに香奈の父はどんどんやつれていき、ついには元の職種に戻ることを諦めたという。


「それにあの借金取り達は、ちゃんと毎月百万円を南乃花家名義で払われているのにもかかわらず、色々と難癖をつけては利子を上乗せしようとしてきたの。もうここまでくればその人達は健全な人たちじゃない。私たちはもう、どうすることもできなくなっちゃったってわけ。ちゃんちゃん」


そう香奈は締めくくった。


窓辺からは夕焼けのオレンジが差し込み、少しずつ校庭の喧騒も鳴りを潜めてきた。俺と香奈の二人だけの教室にも影が差して二人のシルエットを黒に染めていく。冬が終わって春が来たといってもまだ日が落ちるのは早い。


香奈はもう一言も話さない。おそらく、今度は俺から話せということなのだろうか。それもなかなかきついんだけどな、今の俺の心境的には。


「・・・・・その百万円払っている謎の人物が誰か、もしその存在を俺が知っているとしたら、どうする?」


「もうそれが答えだよ」


「・・・・・まぁ勘付くわな」


「うん。当たり前だよ・・・・当たり前、なんだよ」


香奈はそう言って柔らかく笑う。





俺はもう、耐えられなかった。


「・・・・・・ごめん、やっぱり」


「?」


「俺今、疾風に腹が立ってるんだ。今すぐにあいつのとこ行ってぶん殴ってやりたいぐらい」


「?????????」


香奈は俺の言葉に驚いて目を丸くした。え?そんなにびっくりすること?


「なんで!?なんでここでハヤちゃん殴るの!?」


「腹が立ったから」


「なんで腹が立ってるの!?」


「殴るか・・・・・あれ?」


「いや反対は成り立たないよ流石に・・・本当に殴るの?」


「殴るよ。あいつは間違ってるんだから。このままじゃあいつは一番大切にしなきゃいけないものを失うかもしれない」


「一番大切なもの?」


「うん。正義とか悪とか、そんなもの云々よりもとても大切なもの。それに気づいていないんだ、あいつは」


悪いことは許さない?自分の正しさを信じてる?ふざけんな。そんなことでいちいちこだわってる時間があいつにあるのかよ!


「・・・・・ふざけんな」


正義のためならどんな悪でも倒す?そんなこと言ってるから、大切な人が頼ってくれないんだろ!だからお前は勝手に追い詰められてんだよ!!


「・・・・ふざけん、な」


一人でやり遂げることになんの意味があんだよ!そうやって居場所を探したところでお前の本当の心は決して・・・・


「ふざけんじゃねぇぇーーーー!!!!」


「うひゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああ!!!!!(ドン!)イテッ!!」


気がついたら俺は大声で叫んでいた。どうやら香奈は間近にいたため盛大に驚いてしまったようだ。


「ちょっ、ちょっとー!なにすんのさー!今驚いたせいで机の角に膝、ひざひざーー!!!!」


「うわぁぁぁぁ!!ごめんてわざとじゃなくてつい出ちゃったんだって」


香奈は俺の方に膝を突き出しながら片足で突撃してきたので慌てて回避した。全く、校舎では突進しないって先生に習わなかったの?(唐突な真面目)


「膝ー」


「どうどうどう落ち着けー」


「ふぅ、ふぅ、ふぅ、・・・もう大丈夫。それで、未治くんは本当にハヤちゃんを殴りに行くの?意味わかんないんだけどなんで?」


「ん〜・・・・めんどくさいから説明したくない」


「ええ〜未治くんまで〜?」


「まぁそんな悪い話じゃないよ。明日になったら全部終わってるから。明日はいつもの通り肩組んで疾風と登校するから」


「いや今まで一度もそうやって登校したことないでしょ。仲がいいとはいえ」


「まぁまぁまぁそう言うことだからさ。黙って俺にあいつを殴る権利を与えておくれ」


「えー私が決めるの?・・・・・まぁそうだなぁ〜・・・・じゃあひとつだけ約束してもいい?」


香奈は人差し指を俺の方に向けて親指を突き出した。いわゆる銃のような形、それを俺に向けて。


「今度会ったら、本当のこと聞かせて」


と言った。


「うーん、それ言っちゃうと色々きついんだけどなぁ」


「だってずるいじゃん!なんかハヤちゃんと未治くんはちゃんと事情がわかってる風な感じなのに私だけ蚊帳の外なんて!!ずるい!!私もいーれーてー!!」


「(いや、あなたは正直渦中の超中心なんだけど・・・・・)」


と言ってもきっと信じてくれないんだろな。はぁ、これは腹をくくるしかなさそうだ。


「わかったよ。色々片付いたら事の顛末を隅から隅まで教えてあげる。おそらく俺だけが、疾風と香奈のことを知っているからね。きっと面白いことを話せるさ」


「ふふふ、それで良し。待ってるからね・・・・・ちゃんと、帰ってきてね?」


「きっと心配しなくても帰ってくるって・・・・とびっきりのサプライズと一緒にね」


そう言って俺は香奈を残し教室から出た。さっきまで夕焼けが差していたのだが、どうやら話し込んでしまったらしい。これは同居人たちに何言われるかわかんないな。


俺は拳を強く握りしめた。俺はここまで人に対して感情をぶつけたことがあったのだろうか。いや無かった。あの葬式の時だって俺は泣くことはなかったんだ。あの時の心境はもう忘れてしまったけど、その事実だけは変わらない。俺は自分が思ってるよりも人に対して興味がないのかもしれないとか変なことも考えたこともあった。


だけど今、俺は疾風に対して怒っている。あいつは自分のことしか見えてない。結局自分だけが大切だと思ってる愚か者なんだ。


香奈の顔をあいつは見ていたのだろうか。


今にも疾風ににすがりつきたくてたまらないような、助けを求めている顔してんだぞ!?

多分あいつはそれを見たことがあったんだ。だから今、あいつのためにお金を払い続けている。だけど違うだろ!?そんな助け方じゃ何も香奈の助けにはならないだろ!?


香奈はただただ、疾風に対して遠慮してしまうだけだってわかってないのかよ!あいつは!


「・・・・・あのバカがっ!」


あー腹立つ。もうまどろっこしいんだよ!あいつの言葉を待つのはやめだ。何が何でもあいつの力になる。たとえ拒絶されようがなんだろうが、俺は疾風に対して遠慮なんかしないから。


だから、お前の元へ行くよ。疾風。お前の中の弱さを、全部、全部だ。全部丸裸にしてやるよ。


友達として。

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