第43話魔法使いBravery その12
「はぁ〜疲れた〜」
「・・・・・本当に疲れたです」
千秋の家から帰宅し、ミリエルとアイヒスは疲労のままに二人でベッドに倒れこんだ。
「なんだか向こうでの戦闘訓練の時にやった精神訓練を思い出したわ・・・・」
「あんなのきつすぎです。しかもずっと笑ってないといけないとか無理すぎです」
「そうよねぇ〜・・・・・さて、帰ってきた未治にはどんな仕打ちをしてやろうか」
「とりあえずせんべえを所望するです」
「ちょこれーともね」
二人はうわごとのように未治への報復方法をつぶやきあった。別に過度な運動や戦闘をしたわけでもないのに、それ以上の疲れを感じるのは二人にとってははじめての体験だったのだ。なのでこの疲れの元凶である未治にはこの疲労以上の苦を背合わせてやらなければ気が済まなかった。
「そうです、あの変態契約者には今日この部屋に入れないとかどうです?夜は寒そうなので見事凍死してくれるです。あとは朝に死体を回収すれば証拠隠滅です」
「ダメよアイヒス。こういう罰は死なない程度というのがお約束なの。だから死なない程度で未治が苦しむようなものじゃないとダメなのよ」
「・・・・さすが"天使"様。本家の天罰の極意がわかってるです」
さっきからアイヒスがミリエルを褒め続けているので、ミリエルは多少調子に乗っていた。
「ふふん!当たり前よ。私は『
「おお!"天使"様の本気が見れるですか!?もうあいつ死んだなです!生きてる資格なくなるです!!それでどうやって罰を下すです?」
「そうね〜・・・・・・ゴニョゴニョゴニョゴニョゴニョゴニョゴニョ」
「そ、それは!!でもそんなことで罰になるです?」
「ふふっ、それが未治にとっては罰になるのよ。まぁやってみればわかるわ」
「・・・・・さすが"天使"様。私たちのレベルをはるかに超えた発想です」
「計画の実行は今日の夜よ。せいぜい、未治の苦しむ姿を拝もうじゃないの」
「ずっと私に恥をかかせ続けた報いを受けてもらうです」
「「ふふふふふふふふふふふ」」
さっきの疲れはどこへやら。ミリエルとアイヒスはとても悪そうな笑みを浮かべるのだった。
☆☆☆☆☆
「まぁそれはいいとして、今夜どうするの?」
「うぐっ、覚えていたですか」
「・・・・・・・・」
「あっ!これは違うです!今のなしです!!聞かなかったことに・・・」
「・・・・はぁ、まだ覚悟が決まっていないのね」
「・・・・・ごめんなさいです」
「いいのよ。未治もああは言ったけど簡単に決められるものじゃないことはわかってると思うから。きっと私たちと違って自分には命がかかっていないことを少し気にかけているのかもしれないわね」
契約者のいる異世界生物がもし死んでしまってもポイントによっては生き返ることができる。しかしそのポイント量は莫大なため、大抵の場合一回死んでしまったらそれっきりになるのが普通なのだ。しかし人間は記憶は残らずともそれで死ぬわけではない。だから異世界大戦は参加者に受け入れられていると言う側面があるのだ。
そして未治はそのことを承知の上で「これはゲームだ」と割り切っているのだが、何も異世界生物の命がどうなってもいいとは考えていない。そんな割り切っても割り切れないところで未治は異世界大戦でのミリエルとの温度差を気にかけている節がある。あまり表情には出てこない未治の臆病なところではあるが、ミリエルはそれを薄々感じていたのだ。
「たとえ私たちが死んでも未治は必ず生き残る。私たちにとっては当たり前なことなのだけれどね。どうも未治は色々考えすぎててダメね。全て勝てば問題はないってのに」
「・・・・・羨ましいです」
「え?何が?」
「ミリエル様はあの契約者のことを心の底から信用しているです。でもわたしにはそこまであの人のことを信用できないです」
アイヒスは戸惑っていた。ミリエルの未治に対する絶対の信頼に。どうしてそこまであの人間に命を預けようと思えるのだろうか。どうしてこの人なら勝てると思えるのだろうか。
「ミリエル様もあの人間と出会ってまだ短いと言っていたです。なのになぜそこまで安心してあの人の言葉に従えるですか?私にはわからないです、あの人がそれほどの者なのかが」
ミリエルはあの朝の騒動のあと、自分が未治と契約した時の話をアイヒスに話していた。アイヒスはその時ずっと聞きたかったのだ。ミリエルの信頼の深さは明らかに共にいる日数に釣り合う者ではなかったから。
「そうね。たしかにそうかもしれない。普通はそこまで信用できないわよね。でも未治は必ずあの"龍"を倒すわ。どんなことがあってもね」
「私にはそうは思えないです。あいつは強すぎるです。いくら"天使"様がいても単体の強さが桁違いです。昔から"龍"は一体で種族一つを滅ぼしていたのです。そんな力を持つものに勝てるなんてことはあり得」
「あり得なくなんてないわ。未治なら必ず勝てる策をーー」
「じゃあ!!じゃあどうやってあいつに勝つですか!!私がここに来てあいつと出会った間いくら試行錯誤を繰り返したと思ってるんです!?そんな私が考えつかなかった事を、たかが一度出会っただけの人間が思いつくことなんてたとえ叡智の種族だとしてもあるわけないんです!!あなたの信頼なんて何の説得力もないんです!!・・・・・あなたの言葉なんて・・・・何の・・・・」
アイヒスは言葉を遮られたことに我慢できず種族など御構い無しに怒鳴ってしまった。ミリエルの無条件の信頼がなんだか眩しくて、自分が永遠に手の届かない物に思えた。
それがとても羨ましくて、悲しくて、怖くて、憎らしくて、それをミリエルに何の加工もせずそのままぶつけてしまった。
それでも、ミリエルは笑った。
「そっか。そうよね。そうも言えるかもしれない・・・・でもそれができるのが人間種なのよ。あなたは私よりも未治に近いということなのかもね。そうやって私が考えたことないようなことまで考えられるのだから・・・・そうやって私が悩んだこともないことで悩むことができるのだから」
ミリエルはおもむろに立ち上がり、机の横の本棚、の横にある襖のような扉の押入れの前に立った。
「これは私が未治と出会ってすぐに見つけた物よ。もともと私は未治のことを信用して契約した。でもその信用は今ほどではなかったのかもしれない、と今では思っているの。だけど今から見せる物を見た時、私は確信したわ。未治なら、必ず私の目的のゴールにたどり着かせてくれるってね」
ミリエルはその押入れの襖を開けた。途端に部屋には独特の香りが広がり、あたりは少し埃が舞った。
押入れは上段と下段に分かれていた。上段には布団や枕などの床に敷く寝具一式とおそらく福岡から持ち出した私物の数々が保管されていた。
そして、下段には
「・・・なん・・・・です・・・・これは・・・・いったい・・・・・」
「ね、すごいでしょ?私も最初はアイヒスみたいな反応したわ。だってこんなの見て驚かないわけないもの」
アイヒスは目の前の光景に圧倒された。そして悟った。
まさしくこれこそ、ミリエルが未治を心から信頼する証拠であり、アイヒス自身も少しだけ、あの"龍"に勝てるかもしれないと思わせるような物であるということを。
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