第36話魔法使いBravery その5
深夜の東京はとても冷たくて、静かで、それでいて少し心細くなる。
無骨に積み上げられた高層ビル、まるで土地勘のない植物たち、飾り気のないものに無理やり装飾したような街灯や電光掲示板・・・
これらは全て東京を形成しているものであり、それでも決して東京を象徴するものではない。なぜならそれは今やどこに行ってもあるからである。よくご当地◯◯とかっていうのを聞くが、東京にはそんな親しみのあるものはない。
ここはさまざまなものを全国からかき集めてきただけの借り物の世界。情報の発信地と言われているが実態は大阪や神奈川よりもよっぽど色のない街なのである。
無色透明、その色がさらにこの街を冷たく、冷酷にしていく。
ましてや『
そこは、ただ静寂だった。
まるで、俺たち二人だけしかいないかのように・・・・・・
「未治未治!!あの赤くてでっかくてとても強そうな建物は何?」
「ん?・・・・あれは東京タワーっていう電波塔だよ」
「とうきょう・・・・たわー・・・?」
「そう、東京タワー・・・・・あれは東京の象徴って言えるか・・・・」
「何?最後の方聞こえなかったけど・・・あっ!!あれ見て未治!!白いシマシマ!!あれはおうだんほどうっていうんでしょ!!たくさんあるからもう覚えたわ!!」
「へぇ〜・・・じゃあこれを渡るときに注意することは?」
「それはねぇ〜・・・・右見てぇ・・・・左見てぇ・・・またまた右見てぇ・・・・・・・そして手を上げながら渡る〜♪」
そう言ってミリエルは横断歩道を軽快なステップで渡り、俺の対岸の歩道に到着する。俺も例に習ってちゃんと右手を上げて渡った。まぁ車なんて来ないだろうけど。
「ほら見て未治!!このくるま、きゅうきゅうしゃよね!!きゅうきゅうしゃ!!怪我をした人を運ぶくるま・・・・本で見たより大きいのね〜」
ミリエルは目の前に見えるもの全てが珍しいものであふれているようで、目をキラキラさせながら矢継ぎ早に俺にあれは何?だのこれは何?だのと質問を繰り返した。全く、実質年齢の割には子供っぽすぎるだろ・・・・・質問攻めにあう気持ちも考えろってんだ。
とは言っても、あれから契約者や野良どころか、"小鬼"すらも出現しなくなってしまった・・・・今日のところは正直言ってやることがないのである。それならばミリエルが昼間外に出られない分、野外研修ということでこっちの世界にある程度近い『
「・・・・未治!!聞いてる!?あのさっきからずっと糸で繋がってるでっかい棒は何?」
「聞いてるから大丈夫だよ・・・・あれは、電柱っていう電気をいろんな家に送るための柱だよ」
「へぇ〜電気ねぇ〜人間は電気を使って色々なことをするのね」
「まぁそうだね・・・・・この歴史は確かかの大天才であ」
「未治ー!!なんか丸が二つしかないくるまあったのだけど・・・・まさかすごく珍しかったりするー!?」
聞いちゃいねぇーし・・・・気づいたらミリエルはもうどんどん先の方にいる。
「・・・・・・・まぁバイクはよく見かけると思うよ」
なんだろう、実際経験ないけど少しワガママな妹と接しているみたいな会話だなぁ。
妹、か・・・・・いないわけではないんだけれど、そういえばこうやって笑いあって話したことも・・・・
「どうしたの未治?なんか元気ない?」
「うわっ!!びっくりした〜先に行ってたはずじゃあ」
ミリエルはいつのまにか俺の顔を覗き込むように真正面にいた。心臓に悪い。
「なんか未治がぼーっとしてたから戻ってきたのよ。大丈夫?疲れた?」
「あっ・・・・いやいや違うから、大丈夫だよ・・・・・」
「・・・・・ごめんね、私はしゃいじゃってて未治のこと気にかけてなかった・・・」
あー、なんかミリエルに心配をかけてしまった。やっぱり自分の考え込んじゃう癖が嫌いだよ。
「こっちこそ心配かけてごめん・・・・・少し考え込んでただけだから・・・それよりもほら、あれを見てよ。あの建物が俺の学校、浜崎高校だよ」
気づけば二人の足は、俺が通っている浜崎高校の校門前まで来ていた。もちろん校門はしまっており、入ることはできない。
いつも俺は約20分くらいの徒歩で学校へ行っているため、散策するならちょうどいいだろと通学路を歩くことにしたのである。
「あれが・・・・未治が毎日行ってるところ?」
「そうだよ。ここで俺たちは勉強してるんだ」
「うっ、お勉強・・・・・私の通ってた『訓練所』みたいなところ・・・・」
何時ぞやの時みたいにミリエルがまた唸りだした。余程その『訓練所』ってとこが嫌だったのか。
「まぁミリエルのイメージするものよりも結構楽しいところでもあるだろうけ・・・・・待って、何か聞こえない?」
「・・・・・ええ。それもかなり近いところだわ」
今までずっと二人以外の存在は周辺にいなかったはず。それなのに何かの足音らしき音が静寂の中特に目立つように響き渡っていた。
「・・・・念のため探知の魔法使っといて」
「ええ。私はあまり遠くまで探知できないけどないよりマシだわ・・・・『
ミリエルは周辺の魔力流れの変化というものによって存在を探知する魔法を発動させる。
実はこの魔法、"小鬼"などの野良の探知によく使っており、今日も大活躍していたのである。魔法に関しては俺はさっぱり仕組みがわからないので、とりあえずミリエルにどんなのが使えるのかだけを聞いておいたのだが結構色々使えるようだ。さすが器用貧乏。
ミリエルは手を地面にかざし、半径3kmの周囲の地図を地面に表示させた。その中で固まって点滅している三つの丸、つまり確認できた存在は三つ。それに1kmくらいしか離れていない。
「全員野良の可能性は低い・・・となると契約者1組と野良かな?」
三つの丸は俺たちのちょうど北側からこちらの方へ進行している。おそらく契約者が野良を追っているのだろうが、なかなかの速さでこちらに近づいてくるため"小鬼"以外の異世界生物の可能性がある。
「これは・・・・・ワンチャンメンバーゲットのチャンス!!」
「あちょっと待ちなさい未治!!」
俺はこのチャンスを逃すまいと音がしている方へと走り出す。なかなか会えない"小鬼"以外の野良と会えるかもしれないのだ。他の契約者が狙っていることは少しネックだが、それは後で考えることにしよう。
ドォーン、ドォーン
それよりも、この音、近づくにつれてかなり大きい音になっていくな・・・・
俺はミリエルを置いてどんどん曲がり角を曲がっていく。ちょっとミリエルが俺を見失ったらどうしようと頭の片隅で考えたが、探知の魔法でなんとかなるだろうと知識のないなりの単純さで納得しておく。
ドォーン、ドォーン、ドォーン
いやまじですごくない?何がいるの?怪獣でもいるの?
俺はますます気になり上を見つつ次の曲がり角を曲がろうと・・・・したところで突然曲がり角から現れた人影に気づきとっさに回避を選択する。しかし向こうも気づいた後回避しようと体をそらしたのだが、まさかのそらした向きが一緒というなんとも残念なシンクロを成し遂げ仲良く大激突、そのまま双方足がもつれて地面に倒れてしまった。
「未治ーーーーーーー!!あっいた!!大丈夫?」
遅れてミリエルが追いつき、倒れている俺に近寄る。
「イッつつ・・・・・ああ、大丈夫。ちょっと擦りむいただけで」
それよりも俺と激突した人の方は大丈夫なのか?多分俺より背が小さかったから顔は俺の胸のあたりに当たってそこまで痛くなかったはずなんだけど、俺筋肉ないし。
俺は近くで悶えている人に声をかけようと近づいてみる。顔はフードをかぶっているためよく見えない。
「あのーすみません、大丈夫ですか?」
「大丈夫なわけないですっ!!!」
そう言って俺を睨みつけるフードの・・・少女?がおでこを抑えながらガバッと起き上がり、恐ろしい速さで俺に詰め寄る。
「なんですいきなり!痛いじゃないですか!!しかもこんな時に!!」
「いや本当ごめんなさい!!ちょっと俺も急いでて・・・」
「急いでって・・・こっちはそれどころじゃないんです!!」
見た目はグレーの長いローブにブカブカのフードをかぶっているためよく顔が見えないけれど、どうやら人間のようだ。おそらく探知に引っかかったうちの契約者はこの人なのだろう。となると想定どおりなら今この人の異世界生物と野良が戦っているのだろうか。
「あっそうだ。早く行かなきゃ」
「そうです!!早く逃げないと!!」
ん?逃げる?
「え?逃げちゃうんですか?あなたの契約している異世界生物を置いて」
「はぁ?何を言ってるんです?私は契約者みたいことはできないです」
・・・・なんだか話が噛み合っていない。
「そんなことはどうでもいいです!!私は早く逃げないと。というかあなたも契約者だし!!寄らないでくださいです!!近寄らないでくださいです!!」
「えええっなんで!!!!」
フードの人は手をブンブンさせて俺を遠ざける。なにやら錯乱しているみたいだ。ちゃんと話し合えそうな感じではない。というか拒絶されてちょっと凹んだ。
ドォーン、ドォーン、ドォーン、ドォーン
「ヒィィィィィィィィッ!!!!追いつかれたですぅぅぅぅ!!」
「こっちに近づいてくる。一体なに・・・・・・・・・・が・・・・・・」
おかしい。
この辺りにはそこまで高い建物はないはずである。
だからおかしい。
突如、巨大なドラゴンが見えるなんて。
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