第2章 魔法使い編
第30話魔法使い 「」
少年は「正義の味方」であろうとした。
自分を犠牲にして誰かを助けるヒーローになろうとした。
自分の行いは正しいと。間違ってなんかないと信じて疑わなかった。
「・・・・・やっと見つけたぞ」
少年は正義のために手に入れた力を振るう、この世界にはびこる"悪"に罰を与えるため。
そのためならいかなる障害も許さない。
「お前さえ倒せば・・・・俺は・・・・」
「はぁ・・・はぁ・・・いや、まだ・・・・まだ死にたくないですっ!!『詠唱:
ボウッ!!!!
「・・・・・無駄だよ。何をしても」
「そ・・・・そんな・・・・・」
少年は止まらない。例え目の前の"悪"が泣いていようとも、多数のものによって決め付けられた少数の"悪"は正義が倒さねばならないと決め付ける。
「俺はあいつのために・・・・お前を倒さなくちゃいけないんだ!!悪いがお前をここで生かすわけにはいかない!!」
「そんな!!私はあなたに何もしてないのに!!どうして私を狙うんです?!どうして!!」
「そうかもしれない・・・・だけど・・・・お前はここで倒さなくちゃ・・・・あいつは・・・・あいつは!!!!」
ドゴォォォォォォン!!
「ッキャアア!!」
「・・・・・大人しく死んでくれよ・・・・俺はやらなくちゃいけないんだ・・・・俺は・・・・あいつを助けるんだ・・・あいつを・・・・守らなきゃ・・・・」
物語のヒーローはいつも誰かのために無償で悪と戦う。
みんなはそれに憧れ、自分もこうなりたいと夢想する。
だが、そんなものはただの痛い"自己犠牲"に過ぎない。他人のために自らを傷つけるなど人間以前に生物として欠陥的と言える行為である。
しかし、この行為は時に美化され、正義のヒーローのようだと賞賛される。
・・・・ならみんなやるかといえばそれは違う。
人間は利益のないことを進んでやったりなんてしない生き物なのだ。明らかに"自己犠牲"には利がなく、リスクを伴うもの故に、ほとんどの人は賞賛するだけで、夢想するだけで、それを実践しようとは思わないのである。
ではなぜそれでも行うものがいるのか?
好きな人のため?自分の保身のため?
なんだ、全て自分のためじゃないか。自分に利のあることを美化しているだけじゃないか。これはただの"偽善"なんじゃないか。
・・・・それでも正義を振りかざすものはこぞってこう言う。
「これは当然のことなんだ」と
「俺にとって・・・・お前達はまごうことなき"悪"なんだ・・・・だから俺がお前を倒すのは当然のことなんだよ」
これを"偽善"と認めることは決してない、疑わない。それが「正義の味方」の裏の本質。
理想と現実の、超えることのできない壁。
ただ認めれば良いのだ。他人のためではなく、自分が満足するための行為でしかなかったと言うことを。ただ、認めるだけのことなのである。
それはとても簡単なことだけれど、それを認めると言うことは自分が悪であると言う可能性を認めることになるのと同義になる。
だから少年は認めようとしない。自分の信じた正義を迷うことなく悪に振るうのだ。
「・・・・これで最後っ!?」
「はぁ、はぁ、・・・・ここで・・・・ここで死ぬ訳にはいかないんですっ!!『詠唱:
フシュウウウウウウウウ
「くそっ・・・・黒い霧だと!!ふざけんなぁ!!!!!」
認めるのが怖い。
正義は常に多数の味方なのだ。だからそれが間違ってると思ってしまえば自らが少数の悪になってしまう。
たとえ力が足りなくても、誰かを救おうとするなんてただの愚かに過ぎないと認めることが怖い。怖いから、正義に頼ろうとする。多数に味方して安心を得ようとする。
自分だけでなんとかしようとして他人の力を借りることすら怖いと思っているくせに。
「ちくしょう・・・・・逃げられた・・・・もう・・・時間がないんだ・・・こんなところで・・・・」
少年は正義であろうとする。ヒーローであろうとする。そうやって自己の嫌悪感から逃げる。
逃げて、逃げて、今少年はそのツケを払っているのかもしれない。
「クソがアアアアアァァァァァァァァアアッ!!!!!!!!!」
少年には足りないものがある。
これは、正義を否定する「勇気」のお話。
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