第14話天使Beginning その4

少女の名はミリエル


異界順位第3位『天使ヴァルキュナス』にして、その中の精鋭のみが登ることを許される『天使の階段ヴァルキュナス・ステアズ』の第3階を任された高位天使。


彼女は先程自分の腹を貫いた張本人である敵と再度対峙し、幼少の頃に賜った黄金に輝く自慢の槍『天使の迎槍ヴァル ハラ』をそいつに向けていた。


ミリエルが何かをつぶやくと途端にミリエルの全身が光りだす。先ほど未治が着せていた上着とズボンはみるみるうちに消えて、1着の真っ白な服に変わっていった。法衣の上に鎧を着ているようなその姿は、まさしく神に仕える神聖なる騎士を連想させ、さらに彼女自身の白い髪や白い肌もあってより一層神秘的な様相を見せている。


まさに、戦場に咲く、一輪の花のよう。


「・・・・あの人はなんですぅ?あなたの急造の契約者プレイヤーではないのですかぁ」


「・・・・あいつはなんにも関係ないわ」


「・・・・へぇ、不思議なこともあるのですねぇ」


(ええ、本当に不思議な少年だわ)


あの少年は『デモギア』なしでこの世界に迷い込んでしまった。普通人間はこの世界に紛れ込むことがないようにできているのだと、サキエル様は言っていた。ならばあの少年はイレギュラーな存在だということ。しからばなおさらこの戦いに巻き込むわけにはいかなかった。


(正直今の半減された力でどれだけあいつに攻撃しても有効打にはならない・・・・どうすればいいのよ・・・・)


それにあの少年は、私を助けたと言った。あの少年にはきつい言葉を言ってしまったがあれは色々感づいてしまったことで生じた羞恥心が諸々に勝ってしまった結果であって本当に言いたかったことではなかった。


ただなんとなく・・・・自分の裸を見られたのに対して反応が微妙に薄くて、しかも心底嫌そうな顔をして自分と口喧嘩をしていたことに少し腹が立ってしまっただけだ


(・・・・私も向きになって言い合いしちゃって・・・・あんなのいつぶりだろう)


思えばあんなに感情が揺さぶられたのは久しぶりだった。この世界に渡る権利を獲得してからはただひたすらに訓練と戦闘の繰り返しだった。


と言っても自分の役割は主に遠距離担当で先ほどの戦闘で初めて槍での実践を行なったのだが。


(・・・・私はもとより・・・戦うために生まれた)


彼女はいわば"天使"たちの最終兵器と呼ばれていた。


天使の時代』ヴァルキュナス・エラ


莫大なエネルギーを一斉放出させるこの技は"天使"ならば誰でも習得できる技ではない。これは代々"天使"の中の最上位のみが継承する技であり、ミリエルはその継承者に選ばれた天使なのである。


彼女は生まれながらにして"天使"たちの切り札として生きてきた。それ故に彼女は『天使の階段ヴァルキュナス・ステアズ』の第3階として、幼少の頃から戦ってきたのである。


一度彼女が戦場に立てば相手の軍は恐れをなし逃げ出すだろう。一度あの一撃を食らった種族は嫌でもその恐怖を思い知る。一瞬のうちに大地は何も残らず、二度と蘇ることはない焦土となるのだから。


だからこそ彼女はこの敵が生きていることに焦りを禁じ得ない。装甲には幾分かヒビが入ったようだが命を脅かすには届かなかった。あの装甲を砕くにはあと何発か撃つ必要がありそうだが、エネルギーの溜め時間とスタミナの関係であと何発打てるか、・・・・おそらく一発が限度だろう。今の力が半減した状態ではもう満足に打てるかどうか怪しいところだ。


「まったく・・・・契約者でもないくせにここに来るなんてぇ・・・・とんだ不幸者ですねぇ〜〜」


「・・・・ええ、本当に」


(でもやらなきゃ。あの少年を守るために・・・・この世界に来て初めて出会った良き人間に報いるために・・・・)


この世界はポイントが全てだ。だからこそ、あの少年は危険にさらされる。


「まぁせっかく手に入るんですしぃ〜あなたを殺してからあの人も殺しますかぁ〜人間だってわずかですがポイントが入りますからねぇ〜」


「・・・・見逃す気は無いのね」


「当たり前ですよぉ〜僕は取れるものは取る主義なので〜」


ポイントが全ての世界。それは人間だって例外ではない。


「・・・・させないわ。私はあなたに1ポイントも渡さない!!」


「ぷっくふふふふふ・・・・・何を言い出すかと思えばぁ〜そんなの無理ですよぉ!"契約者"も"能"も無い天使にはねぇええええっ!」


そういうと巨大なカニーーキングスクラブは進行を始める。


目の前にいる小さきものを殲滅するために






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