第12話天使Beginning その2
羽根の生えた少女を手当てしました。まじか。
少女は今俺のベッドの上に移されており、静かに寝息を立てている。この様子なら大丈夫なのか?さっきよりも穏やかな顔になった気がする。
あれから俺は持てる知識を総動員して一応出来る限りの事は尽くしてみた。
まずもしものために福岡から持ってきた救急箱をタンスの中から引っ張り出した。
少女の体は普通生きていることがおかしいほどに損傷していた。はっきり言って素人の俺がどうこうできるとかの問題じゃない。けどとりあえず止血はしたほうがいいかと苦労しながらお腹のあたりにガーゼを巻いた。
・・・・すぐに血が滲んで赤くなってしまうので意味があったかはわからないが
それから体のあちこちが汚れていたのでお風呂場へ行き、シャワーで洗い流してあげた。一応うら若き乙女の体をあちこち触ってしまっているのだが決してやましいことはしていない。本当だよ?
まぁ服が結構破けてたせいで見えちゃいけないところまで見えそうになっててとか、触るととても柔らかい肌がとか、お人形さんみたいな綺麗な顔だとか・・・・ええ、ええ、思いましたとも何か悪いですか(逆ギレ)俺だって思春期の男子なんですー。
そんな欲望と理性を試す苦行にも耐え、俺は少女をベッドに移すに至ったのである。もちろん、少女が起きた時のためにちゃんと俺の上着とズボンを破けた服の上から着せて置いてある。知ってるからね、俺。はだけた状態で放っておくと起きた時にコテコテのラッキースケベが起きることを。
いいかい、この作品はね、サービスには厳しいからね。いいね?(威圧)
「・・・・で、これからどうすればいいの?」
なんて呟いてみるがもちろん答えは帰ってこない。結局携帯は誰にも繋がらず、相談できる人もいない。外に出て大家さんに聞いてみるかと思っても玄関は今悲惨な状況になっているので外に出るのも億劫だ。
正直言って、俺の手に余りまくりである。
それにさらに追い討ちをかけるように頭を抱えたいことが起きた。
「うわっ!まじで塞がってる・・・」
お腹に空いていたぽっかりとした穴。おそらく何かに貫かれたとしか思えなかった損傷が、お風呂場での一件の後何事もなく塞がっていたのである。数分前あんなグロテスクな感じだったのに、今では真っ白な可愛らしいおへそが見えている。ちょっとエロいな〜とか考えられるくらい今心の安寧が欲しい。所々にあった火傷らしき跡などもすっかりなくなっている。
もうこの少女は普通ではない。普通人間はこんな速さで回復なんてしない。いよいよ非現実的だ。羽根の時点で大体そうだったけど。
「うわぁ、えええっ、まじか・・・・いやまじかぁ、ええっ・・・・」
もうそんな言葉しか出ない。数分前ぐらいから少女のお腹をさすりながら俺はそんな言葉しか吐けない壊れた人間になっている。
人は現実から離れた途端、こんな気持ちになるのかと心から学んだ。もう心臓に悪いなんて話じゃない。絶対寿命縮まった。これ起こしたやつに訴えたい。あらゆる手段を使って絶対勝訴してやる。
数分後、ようやく思考が戻ってきた俺は少女の異常さをとりあえず受け入れた。後なんだかんだ言って女の子のお腹をさすりまくってたのはちょっとやばいなと思った。流石にキモかった。
「・・・・一体何が起きてんだよ、東京」
わからない。これがここの常識なのか?羽根の生えた少女なんてテレビの街頭インタビューなんかではハロウィンぐらいしかみたことないけど、しかも明らかに手作りの。それに今日の学校でもこんな話は一度も出てこなかった。学校関係者全員が俺に隠しているとかならしょうがないけど流石にそれはないと思いたい。・・・・思いたい。
絶対にこれは一般人は知らない事柄なのだろう。何かここ東京で秘密裏に動いているのかもしれない。となると俺は完全にその何かに巻き込まれているということになる。
はっきり言って、非常にめんどくさい。
「・・・・はぁぁぁぁぁ」
俺は激動に流れたこの数分間を思って盛大にため息をつく。もうやだ、福岡帰りたい。俺には荷が重かったんだここは。出直したい。・・・・家が崩壊してるせいでため息が白いし、クソ寒いし。
・・・・それにしても
「面倒見ちゃったな。この子」
なんで助けたんだろう。こんなことを冷静になった今考えている。
当然こんな傷だらけの少女がほっとけなかったってのも、誰にも連絡できないってのも理由としては十分だと思う。
でも俺はここまでする必要があったのだろうか
こんなめんどくさいことになるのなら放っておくという手もあった。とても残酷な選択かもしれないけど。でもどんな綺麗事で飾っても一番大事なのは自分だけなんだ。誰かを助けようとする人は自分の守れる範囲で、でないと返って無責任になってしまう。
これに関しては非難するやつのことを俺は信じられない。
今回だって明らかに俺の守れる範囲ではない。それに結果論だけど、俺が助けようとしなくても傷は塞がったのだ。俺の助けは必要なかった。俺は関わるべきではなかったのかもしれない。少女だってこんな境遇にいる中で一般人をむやみに巻き込むことは避けたいんじゃないのだろうか。
俺はこの思考の断片を少女を見た最初から考え始めていた。それでも体は思考とは逆に少女を助けようと動いていた。動き始めたらすんなりとこの状況を受け入れようとした。
なんでだろう。こんな疑問は不要なことなのかもしれない。それでも俺は静かに寝ている少女を見つめながらぼんやりと考えていた。
たとえリスクを背負っても、メリットはなくても、それでも人を助けるのが当たり前だと思ったから?いや、そんな当たり前知らない。僕はそれを当たり前だと思わない。前述したように信じられないし、それでもそれが善意でできる人を"当たり前"でくくりたくない。俺はその人をとても尊敬するだろうし今の俺にはできない。だから俺はこの理由を排除する。
じゃあなんだろう。少女が可愛かったから?・・・・・・ないとは言えない。というかまぁそういうのは置いとこう。これは不要だってことくらいわかる。
あとは・・・・期待か。この出会いが俺の日常を壊してくれるかもしれないという期待。俺の中で永延とくすぶり続ける退屈を忘れさせてくれるかもしれないという、わずかだけど手に入れた好機。
・・・・最低なことだとは思う。俺は多分自分が一番大切で、他のことを切り捨てることもできてしまう、とても他人に誇ることができない野郎なんだと思う。結局俺はこの少女を利用することしか考えてなかったんだ。決して見返りはいらないなんて思っちゃいなかったんだ。
「・・・・一人だとこんなことばっか考えて・・・・本当嫌い自分」
昔からの癖で一度考え出したら止まらず、悪い方に行き着いてしまう。・・・・そんな自分が嫌で、そういう時はゲームに逃げていたんだ。でも今あいにくそっちに逃げている余裕はない。ここまできたからにはもう避けることはできない。だからこれからの事態について考えないといけない。・・・・とは言っても少女の目がさめないうちはどうしようもないが・・・・
「助けたいから助けたと思えれば、どれだけ幸せか・・・・はぁ、賢く生きていけないなぁ」
俺は少女を見つめながらそう呟く。
彼女はまさしく白だった。長く切りそろえられた髪も、何の異物のない肌も、着ていたであろうボロボロの服も、そして背中の羽根も・・・・
俺はこんなに白い美少女を今まで見たことがなかった。美人で言えば義妹もなかなかのものだったが、彼女はなんというか・・・不思議な魅力というものだろうか?神聖な雰囲気を感じる。
「こんなの、夢だと思うんだけどなぁ」
「・・・・・う、」
俺がぼやいていると少女から微かに声がした。まぶたが徐々に開いていき、少女は意識を取り戻す。彼女は全てが白い容姿にはとても目立つ赤い瞳をしばし開けたままぼーっと目の前の天井を見つめる。
「・・・・ここは・・・・どこ・・・」
「・・・・やっと起きた」
「・・・・あなたは・・・・」
そう言いながらゆっくりと少女は起き上がる。
「それよりも大丈夫?結構酷い怪我してたけど・・・・」
「ふぇ?・・・・怪我?」
そう言って少女は自分の体を見つめる。まぁ今見ても完全に傷が塞がっているからわかんないと思うけど。
少女はまだ寝ぼけているようで、自分の体に着せられた上着やズボンをぼーっと見つめる。それから俺の顔と周りの景色を何度も見回す。そしてある一点を、破片が散らばる玄関をじーっと見つめる。
そこで少女の中のスイッチがカチリとオンに傾いたように見えた。
途端に少女は飛び起き、俺に勢いよく詰めかける。顔は少し青ざめており、何か焦っているようだ。・・・・ん?だんだん赤くなってる
これは予想が当たっちゃったかなぁと思って少し身構えていた時少女は開口一番こうおっしゃった。
「ねぇあなたっ!私からなんかお花のような香りするんだけど!!まさか・・・・私をお風呂に入れた!!やだっどうしよう!・・・・見た?」
あの忠告はふりかよっ!!俺の緊張と憂いを利子付きで返せ!!
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