第10話始まりの日 深夜 その3
0:20
交通事故だった。それは唐突に起きた。なんの前触れもなく、唐突に。
何を言われたかわからなかった。耳から心臓に隠れている心に届いてじっくりと消化した。涙はその時最後まで一雫も出ることはなかった。
葬式の日、父はとても泣いた。子供のように。母の親族の誰よりも泣いた。そして泣きつかれて眠ってしまった父を俺は連れて帰ったんだ。
母はとても活発な人だった。俺があの巻物を紐解いて見せた時、母はとても面白い顔芸をしていたので思わず大爆笑してしまった。怒った母は僕のほっぺたをつねって「お母さんを笑った罰だぞ〜」と言って笑いながら俺の頬をつねった。そのあと二人して取っ組み合いをして、疲れてお互い大の字に寝っ転がった時に、母はポツリと「よかった」と呟いた。
父はそんな母を誰よりも愛していた。よく息子の前でそんな恥ずかしいことできるよねと小学校低学年が思うほどのイチャイチャっぷりだった。授業参観の時も二人できて、しかも手を繋ぎあってた姿をクラスメイトとその親に見られた時は本気で息子やめようかなと思った。けれどそんな二人の愛し合う姿に息子ながら憧れに近いものを感じていた。
「父さん、元気かな・・・・」
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父は3年後、ある女性と再婚した。父はとても寂しがり屋な生き物だった。誰かに寄り添っていないと生きていけない人になっていた。でないと母のことを思い出してしまうから。
相手の女性も同じ境遇の人だった。夫を亡くし、一人で生きていくのに苦しさを感じていた時に父と知り合ったそうだ。二人は意気投合し、お互い身を寄せ合うことを誓った。
父は当然母の親戚に怒られた。母を裏切るのかと、母の形見である俺の気持ちはどうするのかと
しかしそれを母方の祖母は許した。これ以上父を縛ってどうするのかと、父は母を沢山愛してくれた。母は最後の瞬間まで笑って死ねたと。だから母のことを今でも大事に思ってくれてればそれでいい、と。あと落ち着いたら新しい嫁も見せにきなさいと。あなたもれっきとした我が家族なのだから義娘の顔くらい見せなさい、と。
父はまた泣いた。「ごめんなぁ。ごめんなぁ」と言いながら。祖母も泣いていた。俺はその光景を襖の陰からのぞいていた。
しばらくして父は新しい家族を連れてきた。義母はとても綺麗な人だった。ただどこか陰が落ちたような、寂しそうな顔をしていた。俺は父に連れられその義母に挨拶した。
その時に彼女に出会ったのだ。長髪の大人しそうな女の子に、俺の義妹になる少女に。
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「退屈、なんで退屈なんだろう」
帰り際、父は俺に一緒に来ないかと聞かれた。前日の夜一緒にお風呂に入った時父は東京という街について語ってくれた。東京の街はとてもきらびやかで、福岡とは比べものにならんぞ、と。まるで子供の自慢話のように、俺もその話に夢中になった。
当時俺は家にこもって戦略ゲームばっかりやっていた。テーブルゲームにビデオゲーム、戦略ゲームと呼ばれるものはなんでも、とても楽しかった。やっている時は心が満たされた。母のいないぽっかりとした感情も。
それでも退屈を感じないことはなかった。だからこそ東京の話は刺激的だった。いつか行ってみたい。そしたらきっと今の退屈さもなくなるだろうと本気で考えていた。
それでも、俺は父の誘いを断った。
父はその時とても悲しそうな顔をして、「ごめん」と、一言呟いた。その時の顔は今でも頭から離れない。
この時なんで父についていかなかったのかは今では思い出せない。母を裏切った父を許せなかったのだろうか。それとも東条家の血が俺をこの地にとどめたのだろうか。
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「・・・・もうすぐ0時か」
そして俺は東京にきた。なぜ今来たのかは自分でもわからない。あの時父について行ってたとしたら俺は退屈を感じずに済んだだろうか。
「・・・・多分違うな、というか理由は」
あの巻物しかない。あの巻物こそ、俺が戦略ゲームにハマった理由であり退屈を感じさせる元凶の大部分。
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俺は求めているんだ。この現実に、思い通りになんて行かないこの世界に、期待しているんだ、きっと。何か起きろと、何かを起こしたいと、
何かを自分で選びたいと。
「・・・・・寝るか」
0:01
もしもこの世界が、よく小説で出てくるような世界だったら、僕はどう生きるだろうか。今のように退屈に時間を潰すだろうか。
0:00:40
以外にこの世界はそうなのかもしれない。灯台下暗し、とでもいうのだろうか。日頃馴染んだ世界だからこそ気づけないものなのかもしれない。
0:00:30
そうだとしたら、なんてもったいないのだろう。俺は享受したい。楽しみ尽くしたい。こんな得体の知れない退屈なんてぶち壊して、自分のことをもっと知りたい。
0:00:20
神は告げる。君は選んだ。自作したと。神は祝福する。君が舞台に自分の選択でたどり着いたことを。神は期待する。君がどんな面白いことをしでかしてくれるのかを。
0:00:10
招待状は届いてある。手始めに一つ。眼が覚めるような驚きを君に贈ろう。ちなみに僕も初見さんだから何が起きるかはわからないけどね。
3
君が選んだんだ
2
この世界を
1
さあ
0:00:00
バリバリバリバリッ!
ドガァァァァァァァァァアアアン!!!!
異世界大戦の幕が上がる。
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