第8話始まりの日 深夜 その1
2:00
「今日は楽しかったな」
薄暗い部屋にはパソコンの起動音だけが鳴り響いている。そのせいか今俺が呟いた言葉はよく部屋中に浸透した。
最初はうまくやっていけるかとても緊張したけど、いざ入ってみればみんな優しく話しかけてくれた。本当にこの学校で良かったと思う。
特に疾風と香奈には頭が上がらない。すぐにクラスに溶け込めたのもあの二人のおかげだ。
今度何かお礼をしよう。二人だけじゃなく、クラスメイトたちにも。そしてこの出会いを大切にしよう。
「・・・・なんて、クサい言葉だなぁ」
ピロリン
「おっ、来た来た」
感傷に浸っているとパソコンのチャットの通知音が軽快なサウンドで流れる。どうやら待ち人が来たようだ
午後10時。時間ぴったり。
《PenGuinが入室しました》
『PenGuin 〉おいっす、おはよーです』
『miLL 〉うん、おはよー』
PenGuin
これは俺の待ち人。PCゲーム(昨日プレイしていたUOWやその他戦略ゲーム)で対戦するうちに仲良くなったネトゲ友達だ。
確か中学生の頃ぐらいに知り合って今ではちょくちょくネット上で落ち合って色んな戦略ゲームで勝負している。俺と肩を並べるほどのストラテジーゲームマニアである。
miLL
そしてこれが俺のプレイヤーネーム。由来は単純に"みはる"から"は"を取っただけだ。あと響きがいい。
『PenGuin 〉今日は何やりましょうか?』
『miLL 〉そうだな〜・・・・何かやりたいやつある?』
『PenGuin 〉そうですね〜・・・・それではあれやりましょう。ウォーサバ』
『miLL 〉ウォーサバかぁ〜。いいね、それやろう』
そうチャットに打ち込んでからPCのデスクトップに表示されている『ウォーオブサバイバル』(WOS)のタグをクリックする。
このゲームは、過酷な環境であるジャングル地帯をそれぞれ決められた兵力で生き抜きつつ敵を殲滅するというなんとも生々しいコンセプトのゲームである。
プレイヤーは自らの軍にどこに進んで何をやるか、1日ごとにキーボードタイピングで指示をする。当然、衣食住に関しても細かく指示しなければ好き勝手に物事を進めてしまうので慎重な指示が必要となる。
また、戦闘の要素も充実しており、ターン(日にち)が進むごとに強力な兵器もフィールドの素材を使って作ることもできる。最終的にはガトリングガンや核爆弾なんかにも出会えることもあり、現実的にあり得ない戦闘も可能となる。
・・・・というかジャングルの物資でどうやって核爆弾が作れるのか疑問に思うのだがこれいかに・・・・こういうところはゲームだなぁと思います。
これだけ説明すればわかると思うがこのゲームはとてもシビアなゲームだ。こと細やかな指示をしなければ兵は何も行動しなかったり、勝手に敵陣に飛び込んでいったり散々なことをしでかす。そのかわりどんな指示を飛ばしても動作不良に陥ることなく絶対にその行動を完遂する。いったいどんなAIが入っているのかと驚かざるを得ない。
とにかくこのゲームは戦略ゲームにおける
「・・・・なるほど。なかなかやるねぇ〜そうか〜・・・・」
そして今俺はPenGuinとひと勝負している。ちょうど敵の罠にはまり、出し抜かれたところだ。
今、あいつがPC前でドヤ顔していることは画面越しでもわかる。ムカつく。非常にムカつく。
「・・・・でもね、俺は今まで」
君に負けたことないんだよね
俺はヘッドフォンに手を伸ばし耳にかける。
そして風呂上がりのパジャマの上に羽織っているパーカーのフードもかぶる。
曲はかけない。無音こそが最高のBGMってね。
1:32
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