第5話 始まりの日 学校 その1
東条 未治 16歳。今年から高校二年生。
この春、出身地である福岡から単身で上京してきた。高校生が単身で遠方から上京なんて世間では珍しいことかもしれない。まだ早いなんて言う人もいるかもしれない。でも俺はそうは思わない。
やろうと思えばそれが良かろうが悪かろうがなんでもできてしまう、そんなものなのだ。
・・・・まぁ俺の場合は特殊な事情も絡んでいるのだが。
それよりも東京。とてもいい響きだ。地方の人々は皆東京に憧れ、いつか上京するぞと心に決めるのだ。そんな人たちからすれば、俺はうらやましい存在なのかもしれない。
学校に転入する少し前にこっちへ引っ越したため、学校が始まるまでかなり時間が空いた。ならばせっかくなのでと東京の観光地をいくつか回ってみたのだが・・・・
人多すぎませんかねっ!!
なんだよここは、本当に日本の中なの?おかしいだろこの人の多さは、東京に住む人たちは毎日あんなぎゅうぎゅう詰めにされた電車に乗って学校やら会社やらに行くわけでしょ!
そんなんできひんやん普通!!
言うてや!できるんやったら(謎)
しかも物価も高い。これは生活費足りるか?毎月実家から仕送りが来るとは言え辛い気がする。バイト探すか?・・・・というか賃金も高!!これは物価が高いのもわかるわ・・・
あと道わからない。マンションばっかで視界が広くないからどこ歩いてるのかわからなくなる。
・・・・何?建物目印にしろ?
アホか。俺にとっては建物全部同じに見えるわ!もっと特徴的なのばっかにして!!
とは言え良いところもたくさんある。東京タワーにスカイツリー、どちらも高くそびえ立つ情景には心打たれた。夜景だってまるで宝石箱のように綺麗だ。それに美味しいものもたくさんある。
なんというかこんな一言でまとめても良いものかとも思うが、さすが東京だと思った。
・・・・でね、何が言いたいかと申しますとね、
俺、東京人とうまくやっていけるん?
別に俺の家族の性質上方言とか話さないし、なんならゲーム上だけど東京に住んでる友達いるし、東京のことそれなりに勉強したし、博多だって都会だし、(自分でも何の言い訳してるかわかんない)
でもこんな環境で普通に暮らせてる人たちは友達戦闘力50万はゆうに超えてるに違いない。
・・・・ダメだ、強すぎる。このままではクラスから浮いてしまう!!
でも・・・・本当にどうすれば良いんだ。もう初日のクラスの自己紹介を無難に終えてしまったっ!
みんな奇異の目でめっちゃ見てくるし・・・・これは・・・・絶対いじめられるやつやん!
最近よく新聞に載ってるやつだ。一人を狙ったいじめが学校全体で行われて、最後には抱えきれなくなって自殺しちゃうやつ。
無理!やめて!耐えられない!
こうなったらなんとか平然を保ってやり過ごそう。空気だ・・・・空気になるのだ、俺。私は空気私は空気私は空気私は空気私は・・・・
「ねぇねぇ、福岡からきたのって本当!?」
「・・・・空気w・・・・へ?」
安心、安心したよ。
みんな、とても、とても、良い人たちだった(涙)
あぶないあぶない、なんか変な方向に考えすぎてキャラぶれぶれになってしまった。昔から一度考えだすと止まらなくなるんだよなぁ。しかもどんどん脱線する。気をつけていかないと・・・・ナーバスなんだよなぁ
「・・・・本当こんなキャラじゃないんだよ、俺は」
「・・・ん?何か言った?」
「・・・・いや?何でもないよ?」
「それよりさ!部活だよ部活!何にするの!?」
「そんなん決まってんだろ!サッカー部の見学今度来てくれよな!案内するぜ東条!」
「あー抜け駆けずるーい。東条君は吹奏楽部の方が似合ってるよー」
「福岡ってさぁ〜美味しいものがいっぱいあるよねぇ〜何がおすすめなの?」
それにしても・・・・まさかこの俺がテンプレ転校生イベントを経験するとは
頭の中で変な妄想してたけど・・・・まぁ無難にクラスの人たちに歓迎されて終わりかなと、そんな現実的なことも考えていた。
そう思っていたのだが・・・・このクラスの人たち、元気いいですね。喜ばしいことだ(何様だよ)。今も俺の机を囲ってやんややんやと騒いでいる。ちなみにサッカーはリフティング一回しかできないしリコーダーしか吹けないのでお手柔らかにお願いします。明太子が大好きです。
実はこのクラスの教室に入る前、担任の橋本先生からどんな雰囲気なのかは事前に聞いていた。明るくて元気なクラスだと。学校行事もクラス全体になって楽しめるクラスだと。
実は一年生から二年生になってもクラス替えがなく担任も変わらなかったらしい。だから春という出会いの季節にも二年生は馬鹿騒ぎするクラスであふれているという。
そんなこんなで俺のような枯れた福岡ボーイでも歓迎してくれるこのクラスのお陰で緊張もほぐれ、自然と新しいクラスメイトたちの質問ガトリングにも楽しく対応することができた。
「ほらほら、東条困ってるだろ」
「そうだぞ〜ストレスで死ぬぞ〜」
話していると二人の新たな来訪者がやってきた。てかストレスで死ぬって・・・・
一人は爽やか風のイケメン。某アイドルグループのメンバーにいてもおかしくないぐらいの顔立ちの良さは数多の女子を困らせているだろうことは容易に想像できる。
一人は小動物といったところか。髪はショートカットで目はパッチリと大きく開いている。背は小さく何とも庇護欲を掻き立てる容姿だ。大人しそうなイメージだが発言はとても元気ハツラツとしている。彼女も数多の男子を無意識に惑わせているに違いない。
「えぇ〜そう言ってお前らも東条と話したいだけだろ〜」
「ふははははは!委員長と副委員長権限であるぞ!控えろぉぉぉい!」
バシン!
「・・・・・・・・痛い」
「まったく、調子乗り過ぎ・・・・悪いな、俺も自己紹介しとかないといけないんでな」
「まぁ疾風がそういうんなら」
そう言ってクラスメイトたちは各々の机に向かっていく。
「東条・・・いや、未治だったよな、そう呼んでいいか?」
「うん。それで・・・・えっと、
「おービンゴだよ未治君!」
「すげぇ、よく覚えてるな」
「記憶力は自信あってね」
先ほどの自己紹介の後、クラスメイトから怒涛の自己紹介返しがあったので必死に覚えた。その中でも2人は覚えやすい部類だった
「疾風はかっこいい名前だなって思ったし南乃花さんは・・・・・」
「私のことは香奈と呼び捨てでみんな呼んでるからいいよ!」
「了解。えっと香奈・・・はフルネームがダジャレみたいだったから覚えやすかったんだよ」
7日かな?
「なんじゃそりゃぁ!?やっぱりそれかーい!みんなそうゆうからテストの名前間違えたことあるわ!つーか7日じゃねーよ今日は12日だー!」
「うるさいうるさい」
疾風が香奈をなだめる。割とだるそうに、
「ごめんな未治・・・・こいつ見た目大人しそうに見えて結構うるさいときはうるさいやつだから・・・・」
薄々思ってた
「ああ・・・・なんか地雷踏んじゃった感じ?」
「いや、テンション高いだけ」
「ってちょっと!?私の株を早々に落とさないで〜!」
「お前の株はもはや上場してないだろう」
「そんな〜〜」
香奈はすがるように疾風に近づくが、疾風は香奈の頭を手で押さえつけているため近寄れない。なんだか夫婦漫才だな、これ。
「2人とも仲良いね」
「ああ、俺ら従兄弟同士でな。誕生日も近くて同じ病院で生まれたんだよ。まぁいわゆる幼馴染ってやつだ」
「そうそう、私とハヤちゃんはとても仲良しなのだ!」
香奈はそういうと誇らしげに頷いた。香奈は結構陽気な性格のようだ。何だか眩しい。
「そっか。流石にそんな昔からの友達はいないから羨ましいよ」
「ふっふー。未治君なら幼馴染ーズに入れてあげてもいい、ゼ!」
「なんだよそれ・・・・・まぁ嫌じゃなければ仲良くしてくれ」
「いやいや嫌なんて全然思わないよ。よろしく2人とも」
と言うと2人は「こちらこそ」と笑って答えた。
なんだか幼馴染というか親子?兄妹?な二人組と仲良くなれたことでこれからの学校生活もなんとかやれる気がしてきた。
こうして俺は初日の学校の最大の難所をクリアした。
15:35
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