第4話プロローグ〜片鱗 その3〜
「ん〜〜〜〜〜〜勝った〜〜〜〜」
所変わって暗い部屋
パソコンの光だけが煌々と輝く中、俺ーー
部屋はいかにも一人暮らしのための広さで、机とベッドがほとんどの領土を占領している。机の上にはパソコンと一冊のノート、それといくつかの筆記具が置かれ、その他のものはあるべき場所へ整頓されている。
もう真夜中になって部屋は薄暗く、春になったばかりで少し寒さを感じる。
「さて、反省反省」
そう言って俺は机にあったノートを開く。
そこにはびっしりと文字や数字が書かれ、ページをめくるごとに図も描かれている。
・・・・これだけ聞くと、俺は真夜中まで勉強中の真面目な学生だと思われるだろう。だが実際は違う。
これはゲームのことが書かれたノートなのである。
ゲームといっても様々なジャンルがあるのは皆も知っていることであるだろうが、その中でも俺が1番はまっているのは戦略ゲームというジャンルである。いわゆるストラテジーゲームと呼ばれることもある。
時には歩兵、時には戦艦、さらには戦闘機などあらゆる手段を用いて敵の勢力を落とす。常に相手の出方を読み、奇策を持って制する。それが決まった時の快感は言葉にならない。とてもスカッとする。
今もちょうど『船だと思った?残念〜潜水艦でした〜(笑)』作戦が見事にはまり、危なげなく勝利することができたところだ。
だがそこで勝利の余韻に浸るだけの俺ではないのだ。この戦術結果を今後の糧にするために前述したノートを書くのである。
「・・・・今回は上手くはまってくれたな〜。・・・・あれも良かったし・・・・」
とブツブツ呟きながら書く。
・・・・その姿を他人が見るならば、きっとドン引きされてしまうだろうが
今プレイしていたゲームーー「ウルティメイタルオーシャンウォーズ4」(UOW4)は、大海を舞台に戦艦同士が敵を落とし合う、戦艦限定の戦略ゲームである。このゲーム最大の魅力は、戦艦や各種武器の何もかもが自分で制作することができ、ソロプレイミッションやオンラインでの対戦などの報酬で手に入る素材を使って、自分だけのオリジナルカスタマイズができるのだ。素材は金属が主であるが、ダンボールや紙、プラスチックなど約1000種類以上あり、それぞれに効果が付随している。単体での効果の多さもさることながら、別の素材通しで全く違う効果を生み出すこともあり、初代UOW実装当初からプレイしている古参勢ですら確認していない組み合わせもあるのだとか。俺は2からのプレイヤーであるが、新しい戦術にいまだに出会うので毎回ワクワクする。
このあまりにも自由度の高い戦略ゲームなこともあって、今では多くの熱狂的なファンから愛されている神ゲーと称されている。最新作が出るたびに各地のゲーム販売店では、買えなかった亡者どもの渋谷のハロウィンも真っ青なほどの暴動が起きるほどである・・・・正直あれはやばい。いつか警察に規制されそう。
かく言う俺もこのゲームの相当なファンを自称している。戦略ゲームは他のタイトルも何作か現役でプレイしているが、このゲームは別格存在だ。自分の思い描いた通りの戦術を再現できるのだから当然である。プレイ時間もかなり多く、廃ゲーマーと呼ばれてもおかしくはないほどこのゲームに費やしている。
「・・・・ここの地雷・・・使わなかったな〜ちょっと読み違えたか?・・・・」
さて、俺は先程このゲームで5隻の大型戦艦を一隻の小舟で落とすと言う頭のおかしい縛りプレイを見事にクリアしてみせたのだ。
・・・・自分で頭おかしいと言うのはどうかと思うが
別に相手を舐めて小舟で挑んだわけではない。これが最適解だっただけだ。
敵はその巨体を生かして案の定突進してきた。そこを小舟と見せかけた潜水艦で海中に潜り、後ろに回り込む。
そして、旋回し追撃を狙う5隻は想定通り地雷地帯に船を進めた。
爆発に使う地雷は戦闘開始前に三分間与えられる準備時間中に予測した位置に設置しておく。
地雷は探知に引っかからないよう爆薬は使わない。金属ナトリウムというものがある。これは水に触れると高熱と水素を発生させ発火する物質で、水さえあれば威力は爆薬より心もとないものの水の柱を形成するためとしては良い働きをしてくれる。これをプラスチックの箱に入れ、スイッチと同時に海水が流れるように設計した。
もちろん、外側も探知防止の素材を使っている。
5隻が地雷地帯に来ると同時にスイッチオン。たちまち爆発し、水の柱を形成する。吹き上がった水は一時的ではあるが霧のカーテンとなり視界を塞いだ。
視界が見えない状態では船を進めることは困難を極める。さらに混乱した敵はとても読みやすい。
相手の選択はおそらく後退。いや、確実だろう。となれば進行ルートは自ずと読める。さらなる恐怖を煽るためにそれぞれの船にたどり着く最短ルートでわざと正面に現れるように立ち回る。さっきまで他の味方を落とした船が時間もたたないうちに目の前に立っているという不気味さがミソだ。
・・・・これだけのことさえできればあとは逃さないよう一人一人霧の中仕留めればいいだけの簡単なお仕事である。
「・・・・ふぅ、こんなもんだろ」
俺はそう呟くと、ノートを見返す。一通り見返したらノートを閉じ、ふと時計を見た
2時28分。もちろん深夜である。
「やべ、明日から学校じゃん」
・・・今までこの俺がニートだと思ってたやつ、あとで体育館裏な。
そう、俺は学生なのだ。高校二年生。
それもこの春から新しい学校に行く。
・・・・ふっ。いいだろう。俺、転校生なんだ。
転校生は最初の挨拶が済んだあと、必ずと言っていいほど質問責めの任を負わされ、一時の人気者になれるのだ。
この特権を駆使して俺は友達百人作ってやる!!
「・・・・なんてね、寝よ。」
普段研鑽を積んでいるプレイヤースキルも、学校と言う環境下ではなんの役にも立たないのはちゃんと知っている。
俺は悪い意味でも現実をちゃんと知っているんだ。
「まぁこんな田舎出身の芋っ子なんて構うほど東京ピープルは暇ではないよなぁ・・・・」
・・・・なんだろう。涙出てきた。友達になってください(切実)
・・・・ダメだ、真夜中で頭が朦朧としてるせいか変なことばっか考えてしまう。これはマジで寝ないと明日に響きそうだ。
俺は椅子から立ち上がるとすぐ隣のベッドにイン。そのまますぐに目を閉じる。
「おやすみなさい」
不安でいっぱいの心には少なくとも明日が楽しみな気持ちも混ざっていた。
ずっと変わらなかった日常がある。それと突如変わってしまった日常も。
でも、明日からの生活が少しでも日常を壊してくれるのなら、きっとあの子とも・・・・
俺は夢に落ちる数秒間、そんなことを考えるのだった。
21:32
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