第30話

 空はどこまでも雲ひとつなく快晴だった。

 夕暮れ少し手前の赤いコンクリート敷きの上、俺はあの日と同じ場所に寝転がってみる。

 屋上。

 穏やかな校舎の真上で、遠くへ消えようとする踏切の音ばかりが風の歌に入り混じる。

 そんな光景を仰いでいたら、あぁそうかと、ふいに気付いてしまう。

「……」

 偶然なんかじゃなかったんだ、と。あの邂逅すらもあくまで俺が持て余していた日常羅列の延長線上で。

 先輩は他の誰でもない俺に会うつもりであの日の屋上へとたどり着いたのだろう、と。

 一度そうと確信してみれば色々なことに筋道が立つような感触があった。まぁ今更気付いたところで、だからどうしたって話でもないんだけどさ。

 ただ少しだけ気疲れしてしまう。

「……」

 もちろんこの世界の何もかもが変わることを、俺自身が強く望んでいたわけではない。

 それでも彼女の側から伸ばされた手を退けることもせず巻き込まれるがままを選んでしまったのは、あるいはこよちゃんの指摘通り。このままでは本当に自分自身が終わってしまうのだろうと、いつしか心の何処かでわかっていたからなのかもしれない。

 いくらなんでも、ただ生きるだけの生存程度なら、俺にも望むことを許されているはずだろうし、なんて。

 それなのに。

「……」

「……」

 いつの間にか覗き込まれていた。

「久しぶりですね、先輩」

「……あなたは変わらないのね」

 ふっと微笑んだ先輩は、心なし疲れているように見えた。寝不足を隠しもせず、あくびに変えて。俺の横へと腰を降ろす。

 その際きっとまた故意でもなく、スカートの中身が覗けそうになって。しかし幸か不幸か、その一瞬を俺が永久に見逃してしまったのもご愛嬌。

「俺の絵はもう描けましたか?」

「まだよ」

 少し不機嫌になったのがわかったから。

「というか放課後出勤ですか」と、話を逸らしたつもりで。

「君に会いに来たの」と、話を引き戻される。

「……どうしてです」

「……」

「先輩は俺をどうするつもり」「吾郎くん」

 遮るように。

「君の家にお邪魔してもいいかしら」、と。

「……」

 やっぱり、既視感。

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