第27話

「約束通り、みずくんからの埋め合わせを要求します」、と。

 同じ日の昼休み、俺は対面から箸を向けてくる幼馴染にそう宣言されていた。

 お行儀の悪い光景から目を逸しつつ、こんな奴が本当に泣いてたのだろうかと、呆れ混じりのため息を吐く。

「……それは構わないけど」もちろん泣いていたのだろう。「具体的には?」

 見慣れすぎた結菜の泣き顔は容易に想像できた。

 しかし、そんな面影などおくびにも出さないままに。彼女は気持ち胸を張った。

「もち、デートです」

「……」

 と言うわけで、デートだそうです。


   ※


 そして放課後。俺たちは学校から家へと向かう途中の路線を一度だけ乗り換えて、普段は縁遠い、大型ショッピングモールが併設してる駅で降りる。

「一緒に来るのは久しぶりだね」、と。

「……そうだっけ」

 途中、家には寄ってこなかったので、つまりはお互い制服のまま。微笑みかけてくる幼馴染の意図が読み取れず、曖昧な返事で濁す。

「水樹は今日、何か買うものあったりする?」

「いや、別に」

「夏服とか買いたいのないの?」

「買うにしても、あまりこういうとこでは買おうと思わないかな」

 もちろん俺だって、姉貴の服飾になら生活費を削ってでも金をつぎ込もうと思えるけど、あいにく自分の服に関しては着られて洗えれば良いという程度の判断基準しか持っていない。対して、このショッピングモールに入っている店舗は基本的にブランドが多く、仕送りを切り詰めて生活する学生の財布には、少し優しさが足りてないというのが正直な感想。

 そんな懐具合を滲ませた俺の冷静な判断に、ふーん、と結菜は首を傾げた。

「なら今日は、私の買いものに付き合ってくれたりするの?」

「……そういう埋め合わせじゃないの」

 なんて、ふて腐れがにじんでしまった返事を返すと、そう言えばそうだったね、と笑う。

「じゃあまずは、あそこ行ってみようか」

 彼女がエントランスからそう指差した方向は、吹き抜けの上階。やはり衣料品店が並ぶ一角で。そこは結菜どころか、俺だって一人では絶対に入らないだろうタイプの、男性向けセレクトショップ。

「……本当にあそこ?」

 戸惑う俺の手を引いて、良いから良いから、とエスカレーターに爪先を乗せる。

「埋め合わせ、なんでしょ?」

「でも、結菜の買いものって」

「ふふん。格好良くしてやるけぇ、覚悟しとき」

 ……まぁ、いいけどさ。

 俺は彼女についていく形で、大人しくその店へと足を踏み入れる。

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