第24話
同じ日の真夜中。俺は妙に寝付けなくて、窓明かりの漏れる天井の模様沿いに視線をたゆたわせることを繰り返していた。
「……」
別に今更、殺されたくないなんて小賢しいことをのたまうつもりはなくて。他人の生き方を踏み付けにしてでも、自身がそうありたいと望む生き方を足元に敷いてきたのだから。その報いが今降りかかると言うなら素直に受け入れる下地くらいある。
されど。
一方でそれは、ただの無責任でないかという気もする。狂ってるなら狂ってるなりに筋を通すべき局面はあって、やっぱり間違っていたので今から死にますだなんて言い出すくらいなら、最初から生まれてくるなという話だろう、と。
償えない。というより、償うことはできても償うことしか出来ず、悔い改めるにはあまりに自身の本質に近過ぎる罪を、人はどのように社会の一部として還元し溶け込ませるべきなのだろう。
少なくとも、こうしてもっともらしく理屈を弄ぶ俺に関しては、ただただ説明責任が果たされていないだけなのだとふいに気付く。
「……」
しかし慰めには、今更ながら理解してしまうこともあって。
ありもしない孤高を気取って獣の皮を被り続けていれば、いずれたどり着く結末はただひとつだろうということ。
人を害する化物もどきは、さらにおぞましい本当の化物に食い殺される。ただそれだけ。
俺は例えば、誰かの絵に閉じ込められた自身を想像してみる。
幾人もの顔が俺の存在を覗き込み、そこに描かれているだけの側面ですべてを知った気になって何かしらの戯言を吐いて見せるのだろう。その中には俺の知った顔も混じっているのかもしれない。絵の中で磔にされているのが、かつてすれ違った俺そのものだとは、とうとう最後まで気付かずに。
それでいい。わかるはずがない。わかられるはずもない。しかしそれでも、ただそこに描かれているのだ。
俺の罪は、俺そのものの輪郭から爪の先ほどにもはみ出さずに同じ線をなぞり、俺の姿形ありのままに描かれ、さらけ出されるのだ。
「……」
それはある種の救いであるかのように思われた。まともに語り継がれることさえないだろう、罪人の有り様が。ただひとつこの世に残り続ける手段なのだとしたら。
芸術と呼ばれるべき奇跡も、そう悪いものではないのかもしれないと思った。
あるいはそれが呪いめいていたとしても。
「……」
やがて。
包み込むまれるような安らぎに抗いきれず、俺は深く眠る。
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