第3話 聖霊飛翔機ラーゼ
──それから数日後、工場の上空が急に騒がしくなったことに気が付き、ウェインは表に出て空を見上げた。
「あれは、もしかして……
白銀色に輝く大きな翼を持った何かが、工場前にある池に向かい旋回し、着水したのだ。
「間違いない、ラーゼだ。そうか、本国からアレが!!」
ウェインはそれを目で確かめると直ぐに、工場二階へと上がり、メルの元へと走り向かった。
「メル! 喜んで!!」
「きゃっ!」
メルは、急に入ってくるウェインに驚いた。何故なら、丁度着替えていたからだ。
「ご、ごめん!!」
「ん、ううん……。それよりもどうしたの? 何か良いことがあった?」
「ああ、今キルバレス本国から聖霊飛翔機が来たんだ。
きっと君を、故郷まで、あれで運ぶために送ってくれたに違いない。だから!」
「ホントに!!」
メルはそう言って、扉を開けて顔を出した。その表情は明るく、ウェインもそれで嬉しくなる。
「本当さ! おいで!! こっちだ!」
工場二階から下へと降り、目の前に見える聖獣兵器の脇を通って裏手にある池へと向かった。
「──!!?」
するとそこには、軍服姿の兵士が数人待ち構えていた。
「おやおや、まさかこんな所に居たとは驚きだ。此処は大人しくしてくれるのだろうね?」
「……」
「メル? この人達と知り合いなの?」
「……ウェイン、ごめんなさい!」
メルは二・三歩後退ったあと、急にそう言って走り出した。
「くそっ、追えっ!!」
兵士達も、そんなメルの後を追い掛けてゆく。
「え? 何だよ……どういう事だ。くそっ!」
事情は分からないが、あの様子から考えて兵士達はメルを捕え、何かをしようとしてるのは確かだ。
ウェインはそう考え、直ぐに聖獣兵器の方へと向かい、背中にあるコントロール部位に飛び乗った。
「おい! ウェイン、何をする気だ!?」
「メルを助けてくる! あのまま放ってはおけない!!」
「バカを言うな! まだ制御の効かないコイツで、どうやって」
だが不思議と、聖獣兵器はこの時に限って素直に動き出した。
「まさか……こいつはどうなってやがる」
◇ ◇ ◇
「今の所、言うことを聞いてくれてるな……」
ウェインは、聖獣兵器でメルを追い掛けていた。
顔に装着したゴーグルには、聖獣兵器であるシルヴァーフから見た世界が前方に広がり、彼の脳波とリンクした獣は、まるで自分の手足と同じように動いてくれている。
これまで幾度となく積み重ね続けて来た実験の中で、これ程までに上手く動いてくれることなど無かっただけに驚かされる事態だが、今はそんな事に関心してる暇は無い。
やがて前方の森の中に、メルと兵士達らしき姿が見え隠れして来た。
『メル!』
その声は、聖獣兵器の器官を通り伝えられた。
メルはそれに驚きつつも反応し、振り返り上を見上げる。が、間もなく後ろから来た兵士達に捕まり、取り押さえられた。
『メル!!』
「動くな!」
兵士の一人が、メルのこめかみに聖霊銃の銃口を突き付けている。
「動けば、この娘の頭が吹き飛ぶぞ!」
『辞めろッ!!』
「だったら、今直ぐ、そこから下がれ!! その白い化け物ごと、遠くまで行け!」
『……分かった。言うことをきくから…うわ!』
だがそこで突然に、聖獣兵器がウェインの意思に反発するかのように暴れ始めた。
『わ、バカ! こんな時に、何だよ!!』
それでメルの身が危険に晒されるかと思ったが、その聖獣兵器の予想しない動きに兵士は驚き、その隙を見てメルがその兵士の手の甲を思い切りかじり、それによって聖霊銃を落としたのを見てメルは男を振り払い逃げ出した。
「ウェイン! 今のうちに!!」
『わ、分かった!(と言ったところで、コイツが言うことを聞いてくれるかが問題なんだが……お)』
だが不思議なことに、途端に聖獣兵器はウェインの思う通りに動き、メルをその腕に抱きかかえる事が出来た。
『よし、良いぞ! メル、しっかりと掴まってて!!』
「うん!」
「くそっ、逃がすな! 撃てっ!!」
背後から沢山の銃撃を受けながらも、ウェインは聖獣兵器を滑走させ遠くまで逃げた。
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