第2話 聖獣兵器と少女

 翌日の朝。メルはすっかりと元気になり、プレゼントされた白のワンピースに着替え、髪を編みこみリボンで留め、首に黒のチョーカーを付けて、工場内の二階にある部屋から出て下へと降りてきた。

 するとそこには、人狼のような頭部を持つ大きな身体に白銀の鎧を身に纏う背丈五メートル程の巨人が立っていた。


「これは……」

「コイツは、聖獣兵器って奴だよ」

「──!?」

 隣を見ると、ウェインが手摺りに手を掛けいつの間にか居たのだ。


「聖獣……兵器?」

「ああ。捕獲した野生の獣に制御装置を付けて、言うことを聞かせてるんだ」

「聖獣に……言うことなんて、きかせれられるものなの?」

「うん。でも、まだ上手くいってないけどね」

「……」


 メルはその聖獣兵器を見上げ、悲しげな表情を浮かべていた。フィルウェインはその様子が気になりはしたが、それよりもずっと気になっていたことを聞いた。


「所でさ。メルは、随分と変わった髪の色をしているよね。何処の産まれなの?」

「……私は、実は…」


 彼女は、伝説の地とされるパーラースワートロームから聖霊飛翔機ラーゼによって連れて来られた奴隷だった。隙をみて、ラーゼから飛び出し逃げ出したことで、兵士達から追われていたのだ。

 暫く考えた末に、メルはその事を、ウェインには正直に伝えることに決めた。彼のことを心より信用していたからだ。



「……そうか。凄く大変な思いをして、ここまできたんだね」

「ええ……でもそのお陰で、私はウェインに会うことが出来たの。今は、女神様に感謝したいくらいよ」

「え? ……えと、ハハ。そっか、それは良かった」

 ウェインはメルの話を聞いて急に恥ずかしくなり、頬を真っ赤に染めながらも喜んだ。メルもそんなウェインを見て嬉しくなり、クスクスと笑みを浮かべている。


 それからメルは、綺麗な声で歌を歌い始めた。それはまるで、目の前に立つ聖獣兵器に聞かせて上げているかのようだった。

 だが、

「──ぅ、痛ッ!?」

「わ、急にどうしたんだ!? 大丈夫か? 胸が痛むのか!?」

「だ……大丈夫です…」

「ま、待ってろ! 直ぐに、誰か呼んで来るからな!!」


 ウェインは、工場内に居た科学者を連れて急ぎ戻ってきた。勿論、その科学者にとって人体は専門外であったが、少女から少しずつ話を聞き取り事情を知った事で、少女の苦しみの原因が何であるのかを次第に理解し始める。


「……これは恐らく、ある種の禁断症状じゃろうと思う」

「禁断症状??」

「ああ。この娘が育ったパーラースワートロームという地ではな、精霊水という大変貴重な水が流れており、それは大いなる力をその地の民にもたらしておる。

じゃがその代わり、その大地の民は、その精霊水が無くては生きることが叶わぬ身体であるそうだ」

「……それって、つまり?」

「要するにだ。この娘を助けたければ、パーラースワートロームへ連れ戻しその精霊水を飲まてやる必要がある、という事じゃよ」

「よし! だったら、僕が直ぐにでも!!」

「待たんかい!」

「──!?」

「その地は、此処より一万キロも離れておる。どうやってそこまで行く気だね?」

「一万キロ!!?」

「……生半可な気持ちで、行けるような距離では無いよ。よくよく考えることじゃな…」

「……」


 それ以後、メルはベッドの上で寝て過ごす日が多くなり。時折、苦しそうに胸を押さえるようになった。


「……ねぇ、工場長」

「ん?」

「聖獣兵器って、飛ぶことが出来るんですよね?」

「さてな……。元々、シルヴァーフは飛翔能力のある獣らしいから、可能性としては十分あるだろうが、飛べるか飛べないかと聞かれたところで断定は出来んね。

しかし、何でだ?」

「もし、それが可能なら。聖獣兵器 コイツでメルを産まれ故郷まで連れて行ってやれないかな、って思って……」

「は? バカを言うな! コレは国家機密の兵器だ。そんな事をすれば、お前は忽ち、反逆罪に問われてしまう。そんな事をこのワシが許すとでも思ったのか?」

「……」

「悪いことは言わん。そんな事は忘れてしまいなさい。

心配せずとも、本国には、あの娘さんのことは伝えてある。時期に良い知らせが届く筈だ」

「……だと、良いんですけどね」

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