魔獣

 コウヤは黙々と歩いて行く。人が回りにいなくなって5分程経つと、コウヤはの気配を感じた。



 瞬間、通路の角に隠れ、気配の正体を確認する。



「あれは、C級Cクラスの魔獣の中でもトップクラスの雑魚、



 体長は約2メートルで筋肉質の人間の様な体格。だが、魔力を使った所を未だ1度も確認されていない。攻撃方法はパンチや蹴り、頭突きなどの打撃攻撃。



 (確かに雑魚だが油断は出来ない。俺は魔獣を相手にするのは初めてだし、何より魔力が無い。普通の人間のが俺にとってのかどうかは分からない以上、舐めてかかったら足をすくわれるかもしれない。

 まずは慎重に、人間の心臓とほぼ同じ位置にあるオークコアを斬る。よし)



「行くぞ!」



 そう自分に喝を入れてオークの元へと走り出す。オークもコウヤに気付き、左手でパンチをくらわせようとする。そのパンチを態勢を横に倒して躱し、その勢いのまま黒い鞘から『魔滅』を抜き、オークの身体ごとコアを斬り裂いた。



 後ろに振り向き、コアを切断されて絶命したオークに呟く。



「どうやら俺にとってもオークお前は雑魚だった様だ」



 オークを倒し、『魔滅』に付いたオークの血を拭き取る。



「それにしてもこいつの斬れ味は流石だな。最弱とはいえ、魔獣を果物でも切ったみたいに簡単に斬れた。コアは鉄程度の硬さだというのに…」



『魔滅』をじっと見て、



「少し恐怖を感じるな…いったい誰が作ったのか、調べる必要がある…」



 ――――――――――――――――――――



 更に10分程進むと、多数の気配を感じた。先程のオークと同じ様に確認すると、地球の猟犬の様な姿をした魔獣達が何かをのを確認出来た。



「あいつら、必死に何を?」



 地球の猟犬と酷似した姿をする魔獣、ハルグ。固有魔法【瞬足】を持ち、スピードは普通の犬と大差ないが、瞬間的なスピード、つまりスタートダッシュでハルグの右に出る犬はいない。



 ゆえに奇襲力に長けており、気づかないうちにパーティメンバーが全員嚙み殺されていたなんてのは良くある話である。今奴らが喰ってるのも、恐らく冒険者だろう。



 また、集団で移動、戦闘を行うので、駆け出しの冒険者が何度も全滅させられているのでその危険度は、



「単体ならA級Aクラス、団体ならS級Sクラスに認定される程の危険な魔獣、ねぇ…」



 一体のハルグをコアごと『魔滅』で貫き、地面に押し付け、全滅させた8体のハルグの死体を眺めながら、コウヤは呟いた。



「AやSでこんなもんなら、SSくらいならいけんじゃねーか?」



 事実そう捉えても可笑しくない戦闘だった。ハルグの群れを視認したコウヤは直ぐにハルグ達に向かって走り出し、1匹のハルグのコアを気付かれる事なく突き刺し、殺した。



 流石に1匹殺されると他のハルグ達もコウヤに気付き、一斉に飛びかかる。だが、それを読んでいたコウヤはしゃがんで躱し、上を見上げ、自分に噛みつこうとしている3匹のハルグ達のコアを一差しで全て貫き、『魔滅』を振り、絶命させたハルグ達を他のハルグ達に投げつけ、一瞬隙を作り、残っていたハルグ達のコアを全て斬り裂き、絶命させた。そして1匹だけ残ったハルグのコアを貫いた。



「俺が不安視し過ぎたか?こんなハルグ奴らでSか。……俺が思っていたより魔獣のレベルは低い…のか…」



 この事実に少し疑問を抱きながらも、



「まぁ、今は進むしかないしあまり気にする必要も無いか」




 ――――――――――――――――――――




 コウヤは進み続ける。途中、属性魔法を使うウサギ型の魔獣、A級Aクラスのファイアラビットの群れや、猫型の魔獣、S級Sクラスのアイスキャット、固有魔法、【硬化】を持つS級Sクラスのアイアンバードなどに遭遇するも、全て無傷、しかも1撃で殺している。



 コウヤは気付いていないが、ポケットに入っているクリスタルが人間ランク銀を表していた。これはこの次元において、各国の隊長レベルの兵の実力を超えるかなりの実力者になっているのだが、各国の隊長レベルの兵はSS級ダブルSクラスの魔獣を倒せるのか、とコウヤは勘違いしてしまっている。



 そうして歩いていると、目の前に『この先未探索領域』と書かれた立て札が置いてあった。その立て札を見て、にっと笑うと、



「…ここからが本番だな……」



 そう呟くと、コウヤは少しも迷わず、若干ワクワクしながら、未探索領域に進んだ。



 ――――――――――――――――――――


 

 未探索領域に入ってから10数分、未だ何の魔獣にも出会っていない。コウヤは未探索なだけ、探索済の場所より多く魔獣が出ると予想していた。だが、その予想と反して未探索領域に入ってから、唯の一度も魔獣に出会っていない。この『異常』な状況に少し恐れながらも進み続ける。



 更に15分程進むも、魔獣は現れなかった。少し迷いつつも1度戻ろう、と決めて振り返り元来た道を引き返そうとした時、迷宮ダンジョンの地面を貫く様にしてから巨大な魔獣がはい出てきた。



 はい出てきた魔獣は体長は約15メートル、体高は約5メートルはあるだろう、大きいツノを持ち、体表が黒く覆われた牛の様な姿をした魔獣だった。これにはコウヤも驚いた。迷宮ダンジョンの更に下から来た事もそうだが、その魔獣の正体をコウヤは知っていた。そして、呟いた。




「…SSS級トリプルSクラス、……伝説の魔獣の一体、……『ブラックバイソン』!」

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