第1章 迷宮と謎の少女

魔力レベルゼロ

 太陽の光が眩しく、様々な草花が咲き乱れ、暖かな風が吹き抜けてゆく。



 現代の日本ではあまり見られなくなった光景だ。だが、この世界はこのような景色がとても大きく広がっている。



 そんな野原に似つかない絶望的な表情をしながら寝転んでいる男が一人。その名は原口コウヤ。



 数時間前までは希望に満ち溢れた表情をしていた。なぜ彼がこんな表情をしているのか?それは数時間前に遡る。



 ――――――――――――――――――――



「ここが違う次元か…」



 神のゲーム参加を承諾したコウヤは、ソレイの創った『穴』を通り、ゲームが開催される次元に来ていた。



「はい。…この次元にも国という概念が存在します。特に大きい国が、東に『レースティリ王国』西に『スレイル帝国』南に『クレイム法国』そして北に『ドルス魔国』と、4つあります。因みに、ここは『レースティリ王国』の中の『ヨレム村』という1つの村です」



「だからここら一帯は田畑しか無いのか…」



 今、コウヤとソレイは見渡す限りの田畑に囲まれた場所にいる。そこは日本でいえば東北地方のような景色が広がっていた。



「この次元の文明レベルは俺のいた次元でいえばどのくらいなんだ?」



「この次元の文明レベルは、高くとも地球でいう中世ヨーロッパ程です。街並みもかなり似ていますね」



「…質問がある。お前は空間に穴を開けて俺の次元と別の次元とを繋げてみせた。あの『超常』はなんだ?」



「もっともなご質問です。…あれは『超常』ではなく『魔力』を消費して発動する『魔法』です」



「……」



 コウヤは驚いていた。『魔法』が存在していたことではなく、自分のいた次元の人間が『魔法』を見た訳ではなく、空想の産物として『魔法』の概念を持っていたことに、である。



 と、同時にが頭に浮かんだ。



 そして、ソレイが続けて説明していく。



「『魔法』の概念を持つ次元は多いですが、『魔法』を使用する人間がいる次元は片手で数える程しかありません。ほとんどの次元は『魔法』よりも科学を発展させていますので」



「ということは、全ての次元の人間が『魔力』を持っていて、それは俺も例外じゃない、ということだな」



「はい。一部の例外は存在しますがこの世に『魔力』を持たない人間は存在しません」



 その『一部』の人間が少し気になったが、ソレイが話し始めたので真剣に聞く事にした。

 


 ソレイが話した内容によると次の表のようになる。


 ≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡

 魔力レベル:魔力量:人数


 レベル6:無限:極少数


 レベル5:大量:少数


 レベル4:多量:多数


 レベル3:適量:大多数


 レベル2:少量:多数


 レベル1:微量:少数

 ≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡


 と、なる。そして人間1人につき1つの『固有魔法』があるらしく、同じ『固有魔法』を持つ者は存在しないらしい。



「『魔力』の使い方は人それぞれです。『魔法』使用のエネルギーにしてもいいし、身体強化に使用したり、他人に分け与えてもいい。使い方は沢山ありますが、私が貴方に与えて良い情報はここまでです。…では『神のゲーム』優勝を目指し、頑張ってください」



 そう言い残すと、ソレイは『穴』を開けて、コウヤの前から姿を消した。



「…」



 コウヤはソレイに与えられた情報を確認し、この次元についての情報を集めなければならないと考え、この村の村民を探し始めた。


 ――――――――――――――――――――


「ここだな…」



 コウヤはこの村の村長の家に来ていた。20分をかけて村民達に聞き込みを続け、この村で一番情報が集まるのは村長の家だと判断したからだ。



 村長の家の扉をドンドンと叩いた。当然、現代日本の様に呼び鈴は無いので、こうやって古典的な方法で自分の存在を知らせる。



 数秒経つと、扉の奥から長く、白い髭をはやした80歳ぐらいに見える老人が出て来た。恐らく、彼が村長なのだろう。



「はい。どちら様で…」



 俺の顔を見ると、心底不思議そうな顔をした。と、同時に、疑念の目を向けてきた。



「おや、君は…『ヨレム村うち』の村民人間ではないね。こんな田んぼしかない村に、一体なんの用でしょうか?」



 警戒されている。これは誰にでも分かる事だった。だから、彼の警戒心を出来るだけほぐすために、爽やかな笑顔を見せて、こう言った。



「少し込み入った話しを村長さんとしたいと思いますので中で話させて貰ってもよろしいでしょうか?」



「?…別に構わんが…」


 ――――――――――――――――――――


 村長の家は今まで見て来た村民の家よりは大きかったが、それでも村長の家としては少し小さいように感じた。



 案内された部屋には、木製の小さいテーブルと、同じく木製の椅子が2つあった。



 村長が先に奥の椅子に座わったので、俺は手前の椅子に腰掛ける。



「さて、込み入った話と申されましたがどんな話なのでしょうか?」



「いや、話というか聞きたい事がありまして」



「聞きたい事?」



「はい。実は僕、記憶喪失らしくて。覚えてるのは自分の名前が『原口コウヤ』って事だけで…」



 記憶喪失はもちろん演技だ。情報を集めると言ってもこの次元での常識を知らないなんて事がバレたら流石に変に思われる。なら、何も覚えていないフリをして、情報を聞き出した方が良い、という判断を下したまでだ。ちなみに『僕』という第一人称も演技だ。



「なんと!そうであったか。ではまず、『魔法』と国についてから話そう」



 彼の話は、最初はソレイから与えられた情報ばかりだったが、『魔法』についての詳しい説明が始まり、新しい情報を得る事が出来た。



「『魔法』は先ほど申した通り『魔力』を消費して発動するのじゃが、その『魔力』は身体の中にある『魔導管』と呼ばれる管の中に流れておる」



(…!)



「『魔導管』は見る事も触る事出来ない。だが、確かに存在している。『魔導管』は身体の各器官に密接に絡み付いていて、目に見えない程の小さな穴がいくつも存在している。その穴から魔力を放出し、様々な事に魔力を利用する事が出来る、という訳じゃ」



(つまり、魔力は魔導管の中に流れていて、血液のように身体中を流れている、か。そして見る事も触る事も出来ないのならば、俺の次元に魔力を使う人間がいないのも納得がいく)



 この時点で、1つの疑念があったが、それは脳内から除外した。



「更に、魔力を消費して発動する魔法は大きく分けて2つ。この世界に使い手が1人しかいない固有魔法と誰もが使える『属性魔法』に分けられる」



(属性魔法…)



「属性魔法はその名の通り、『火』『氷』『土』『風』『雷』の5つの属性に分かれており、1人1つの属性しか持てん。攻撃に使ったり、武器に纏わせたり、様々な事に使用出来る」



(『水』じゃなく『氷』…か)



 それが指し示す理由を考えようとしたが、情報がなさ過ぎたので、流石に諦めた。



「更に属性魔法の熟練度によっては『覚醒』し、あらゆる面で強化される。まぁ、それに至っている者は数える程じゃがな」



「…質問があります。魔力を持たない人間というのは…存在するんですか?」



 ソレイの話を聞いた時から、気になっていた事だ。奴には、それを聞く前に別れてしまったが、今ならば、聞けると思った。



「魔力を持たない人間?聞いた事ないが、何故それを?」



「いや、少し気になっただけです…」



 少し残念だった。奴の言う例外を知っておきたかったが、彼が知らないのならば、この場は諦めるしか無い。



「魔力についてのの説明はこのぐらいで良いじゃろう。次は『人間ランク』についてじゃの」



「『人間ランク』?」



「人間ランクというのはその名の通り、人間をランクで分けたものじゃ」



 と、言われると次の様な表を渡された。

 

 ≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡

  白:騎士団ナイツ、英雄


  黒:国際レベルの犯罪者


  金:各国のトップ、王、世界レベルの実力者


 銀:各国の権力者、王族、かなりの実力者


 赤:各国の隊長レベルの兵、貴族、実力者


 青:各国の兵、大国の民、強者


 緑:平民、村民


 透明:奴隷

 ≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡


「この表においての実力者とは戦闘能力の高い者達の事じゃ。『騎士団ナイツ』というのは各国から選りすぐりの実力者達で結成された者達の事で、1人1人が一国と渡り合える実力を持つと言われておる、言わば国際レベルの警察機構の事じゃ」



「この左にある色は?」



「その答えはこれにある!」



  そう言うと村長は、ポケットから透明の宝石のような物を取り出した。



「これは『クリスタル』といっての、これに触れれば自分の『人間ランク』の色に変わり、自分の『魔力レベル』の数字が自分の属性魔法の色で浮き出てくるという便利な代物であり、これで身分証明も出来る!『人間ランク』が変わる事はあるが、『魔力レベル』も属性魔法も変わる事は無い!さあ、ここに誰にも触れられていない『クリスタル』がある!触れてみるのじゃ!」



(いきなりテンション上がったな…)



 そのテンションの上がり様に少し驚きつつも、



「はい。触れてみます」

 


 そして、恐れずに触れる。俺の指先とクリスタルが重なった瞬間、クリスタルから眩いばかりの光が溢れた。そして、そのクリスタルの色は、その光の中で青に変わり、そして、



「『0ゼロ』?」



  コウヤの触れたクリスタルは、透明の色で『0ゼロ』の文字が浮かび上がっていた。



「村長。これはどういう事ですか?」



  と、聞くと驚いた顔で、



「……文字の色が無いのは属性魔法の属性が無いから。そして、この『0ゼロ』の文字は……」



「『0ゼロ』の文字は?」



「…魔力を持たないという事。つまり『魔力レベル0ゼロ』という事じゃ……」



 一瞬の沈黙の後、俺は知らぬ間に声を漏らしていた。



「……は?」

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