はじめまして

第10話 4-1はじめまして

『はじめまして、私はユリィ。こっちはジャンくん』


 ジャンが口を開くより先に、ユリィが言った。


『はじめまして、ユリィ、ジャン。二人は知り合い?』


 集まっていた三人のうち、跳ねた茶髪を揺らしている男が意味深な笑みを浮かべ聞いてくる。これが現実世界なら、ジャンが一番避けたいと思うタイプの人種だった。


「関所を出てすぐの街道で道に迷ってたユリィが、僕に声をかけてきただけ」

『その言い方はないでしょ、もう!』


 控えめに背を叩くユリィに押され、笑うしかないジャン。


『方向音痴が二人か……先が思いやられるな……』


 その言葉に疑問を持つも、ジャンが聞き返す間もなく男は続けて言った。


『俺はクロ。見ての通りシーフ系にステ振りしたから、前衛は頼んだぜ。よろしくな‼』


 どうにも苦手な男、クロ。テンションが無駄に高く、軽い感じがしてならない。細身のポリゴンを操っている本人がどんな人物かはわからないが、よほど演技になれていない限り、このままの人物像なのだろうと察する。


『おいらはカブト、よろしくな。身なりはこんなだが、盾役になるつもりでステ振りしたらこうなっちまった、がはは‼ ま、ガードは任しとけ!』


 最年長に見える、大男。人相は悪いが、満面の笑みがなぜか憎めない。太い腕は日に焼けている。


『ロベリア。ステはネクロマンサー、魔法アタッカー』


 カブトの足元で隠れるようにしていた少女が、全くの無表情で口を開く。ぱっと見身長は130㎝もないのではと思うほど小さく、子供そのものだった。両腕を抱えるような仕草で、人嫌いなのか人見知りなのか定かではないが、どことなく冷めた態度に見える。見た目通り声も幼い上、口調も冷めているが拙い。決めるには早計だろうが、最年少の可能性は大いにある。


『そうか、ステ振りあったわね。私はヒーラータイプよ。魔法で被るかとも思ってたけど、良かったわ』


 ユリィが安堵した様子でロベリアに微笑む。どちらかと言えばユリィの方が攻撃魔法を使いそうに見えるのは、言わない方がいいだろう。


『で、ジャンだっけ? おめぇさんは?』


 カブトに声をかけられ、ハッとして答えた。


「あ、僕は普通のアタッカーにしたよ。どの立ち回りが楽かわからなかったし、人数も知らなかったから……」


 ジャンの肩に腕を回すクロ。


『へぇ、やるじゃん。結構ゲームやるタイプだな?』

「まぁね」

『じゃあ、リーダーはジャンに任せよう! よっリーダー‼』


 これだからこの手の人種は相手に困る、とジャンは思っていた。どう考えても場の空気を造っているのはクロの方で、リーダーに向いているのもクロだろう。そう思っていても、のっけから悪態をつくわけにいかない。

 万が一、もしもこの先ジャンの正体が【アウル】だとバレた時の事を、少しだけ考えていた。絶対にバレないとは言いきれないこの状況で、バレても株が下がらないよう立ち回るしかない。このデバッグを終え、クロックのアカウントを手に入れた時、どこで何を言いふらされるかわからないのだ。


『おいらも賛成。戦略を考えるのは苦手でな。脳筋プレイにしようかと最初はSTRに振りまくってたんだが、それが足を引っ張る事もあるだろう?』

『あたしはリーダーに向いてないし』

『お嬢は……まぁ、そうだな、おいらも向いてないと思う』

『まぁまぁ、可愛いお嬢さんじゃない? 私安心したのよ、女一人かと思ってたから』


 ユリィが親し気にロベリアを見つめるが、ロベリアはちらりとユリィを見るとそっぽを向いた。


『あたし、おばさん嫌いなの』

『おば……⁉』


 ロベリアの何気ない一言がユリィの心に深く刺さった。


『大丈夫、おっさんもいるからな、がはは‼』


 カブトも年相応のキャラメイクをしたようだ。まるで空気の読めない親父である事が、その見た目に至極似合っている。


『てことで、リーダーはジャンに決定だな? よろしくリーダー‼』


 クロが笑いながら手を差し出す。嫌悪感が表情に出てしまわないか多少の心配を残しつつ、その手を握り返した。


「よろしく、クロ」

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