第3話 2-2ゲームオーバー

 周防彰人は忙しくタイピングを繰り返しながら、通話越しにアウルへ状況を伝えていた。


「今朝、四時くらいだったかな。俺の元に連絡が来たんだよ。アウルが消えてるって」


 アウルは唖然としているようで、スオウの言葉に全く反応を示さない。


「それで気になって俺も見てみたんだけど、ロックされてるみたいでさ。アカウント停止って奴だ」

『…………』

「聴いてるか?」


 さすがに不安になり、声をかける。


『うん……どうしよう、スオウ……マジで消えてる……』

「心配すんな、手は打ってある。ただし、絶対表沙汰にはできねぇぞ」


 カタカタと打ち込んでいた手を止め、ファイルをアウルの連絡先へドロップする。


『なに、これ』

「アカウントを作り直すなら生体番号が必要ってのは、もちろん知ってるよな?」

『うん……だからどうしようって……』

「その生体番号を譲渡するって企業があるんだよ。ただ、条件がある。見たらわかるだろうけど、ようばゲームのデバッグ作業だ」

『デバッグ?』

「そうだ。MMORPGのベータテストなんだけど、一週間で規定の条件をクリアできたら公式アカウント進呈って事らしい」


 クロックの公式アカウントと言えば、本来は有料でしか取得できない。一部の著名人や企業が持っているもので、クロック運営に公的に認めて貰わなければ取得は不可能である。


『でも、アカウントが消えてるってだけで変な噂が立つだろ……?』

「はぁ……心配すんな、俺の言う事ならみんな信じるだろ。公式アカウントに切り替える為に話し合いをしてて、一時的にアカウントを消してるって事にしといてやる」

『無理があるんじゃ……』

「じゃあ他に手はあるか?」

『…………』


 アウルはそれきり言葉を発しなかった。声は震え、呼吸が浅くなっていくのを感じる。


「決まりだな」


 スオウは再び手を動かし始めた。

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