彗星の魔法使い:序
あるところに一人の青年がいました。
名前はテラ・アイヴィー。彼はこの星で最も多彩な魔法を操る魔法使いですが、その足で星を歩き大地の草木を蘇らせて回る旅人でもありました。
テラの魔法はこの星の力を源にするもの。星の緑を豊かにすることは彼の本分です。
様々な土地を渡り、素晴らしいものと出会いながら大地に緑を取り戻していきました。
そんな旅の果て、テラは助けを求める大地の声を聞いてある村へと辿り着きます。
村の東には頂から煙を上げる山、西には乾ききった丘がありました。
テラは早速丘の最も高い場所へと赴き、そこに木の種を埋めて魔法を掛けます。
「大地よ、小さき命に力を与えたまえ」
テラが魔法で種に活力を与えて潤いと栄養で満たすと、瞬く間に芽を出しました。
さらにテラは魔法を周囲に振り撒き、青々とした芝を作ります。乾いた丘はひと時で緑の丘へと様変わりしたのです。
普段ならこれで役目は終わり、テラは次の地へと赴くはずでした。しかしこの日は芽吹いた木の側で休むことにしました。長旅で疲れていたのかもしれません。
テラは風そよぐ緑の絨毯の上に寝そべり、青空を見上げながら昼寝をすることにしました。
次にテラが目を覚ますと、彼の目には満天の星空が映りました。
既に日が暮れていたのです。それは彼の眠りを妨げるものが一切無かったという意味でもありました。
しかし、テラはふと違和感を覚えます。
それはいつもより星空が明るいということ。月の強い光ではなく、まるで星が幾重にも重なって生み出された様な、淡くも大きな光の気配を感じていました。
テラは頭上を見上げることでその正体を見つけます。
「あれは星か? とても大きい……」
彼が目にしたのは巨大な彗星でした。
箒の様な尾を引き、一つとなってゆっくりと夜空を流れる星の群れ。
星々が放つ青白い輝きが大地を照らしていたのです。それはこれまでテラが見たこともない程の大きさでした。
彗星の迫力と輝きに圧倒され、しばらく茫然とそれを眺めていたテラでしたが、ある事に気付きます。
突如、彗星から一筋の光が放たれたのです。まるで意思を持っている様な動きでした。
その光景もテラには初めてで、最初は面白そうに眺めていましたが、しばらくすると光が段々大きくなっていることに気が付きました。
やがてテラはそれが自分の方へ向かって来ているのだと理解します。
テラは衝突によって大地が壊されないよう急いで魔法を使おうとしますが、時すでに遅く光は凄まじい速さで丘の上へと落ちました。
光は大地に触れた瞬間、まるで太陽の様に眩い輝きを放ちました。しかし予想に反して光は大地を壊さず空気の揺れすら生じません。
光はしばらく激しい輝きを放ち続けましたが、徐々に収まり、やがて丘にあるものを残して霧散しました。
丘の上に残されたものを確かめようとテラが近付くと、そこにあったものを目の当たりにしてとても驚きました。
光が降り立った場所――小さな木の麓には、少女が横たわっていたのです。
悠久の時を生きるテラにとってもそれは初めての経験でした。
彗星から少女が落ちて来たなんて話を、テラは一度も聞いたことがありません。
改めて少女を見れば、星空の様に綺麗な銀の髪ととても美しい容姿を持ち、その少女が普通ではないことをテラは悟ります。
恐る恐る少女に近付けば、寝息を立てていることが分かりました。
あまりにも安らかな寝顔で起こすのは気が引けるテラでしたが、寒空の下で寝かせるわけにもいかず、少女を起こすことにしました。
テラが肩に手を置いて優しく揺すると少女はすぐに目を覚まします。
「ここは……あなたは……?」
「僕の名前はテラ・アイヴィー。魔法使いだ。君は?」
無表情ながらも少女が戸惑っていることを悟ったテラは、穏やかな声で訊ねました。
すると少女は海色の瞳でテラの顔をじっと見つめ、ゆっくりと告げます。
「……私はメル。
魔法使いテラと星渡のメル。二人の出会いはまさに運命と呼ぶべきものでした。
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