第三話 秋は夕暮れカラスが帰る
「違った。等価交換と言いたかったの」
「いや、同じだろ。人になにかしたから自分もしてほしいっていうやつだろ、したごごろ、もしくは計算ずくの行動ってやつだ!」
頭のリボンが垂れる。
「否定は、しないけど」
「じゃあ僕にかまうなよ偽善者」
言葉を投げつけても、顔色一つ変えない。
ただただ唇をきゅっと引き結んでいた。
言い過ぎたかと思っても、もう遅い。
「あ……」
「もし、言い過ぎたと思っているなら」
弁解の、チャンスをくれるのか。
「私を凍えさせてよ」
今は夏だ。ここは日本だ。
そして屋外だ。
「いや、来るとこ間違えてるよ」
氷の大地とか、遊園地のそういう空間とか、そういうところにいかないと無理だろう。
「でも私はここにしかこれなかった」
「……メル・アイヴィーは」
「メル」
「メルは」
一呼吸置いた。
そうしないと、自分でも暑さで頭がやられたと思ったから。
「異星人とかだったりするの?」
彼女は答えなかった。
「……お金は?」
「え?」
「お金は持ってる?……ってないか」
そう、たまたま目についたのがうずくまっていた僕だから、推定異星人のメル・アイヴィーは声をかけたのだ。
相手選び、きっと間違ってるけどな。
こんな、お金も行動力も、なんにもない僕なんかを。
「どこへでも行けるって言ったら、ユイ、案内してくれる?」
「どこにも行けないよ。僕は」
「精神的なことはわからないけれど、物理的なことだったら、私はできる。二人分くらいなら、目的地まで、一瞬で行くことができる」
ああやっぱり、今の技術でそんなことはできないから。
高確率で、この時代の地球人じゃない。
もしくは地球人を騙っていてもいいじゃないか。
こんな美少女をおとりにして、人身売買の怖い人が待ち構えているワンボックスに連れ込まれるとしても。
僕にはそれすらどうでもいい。
終わらせてくれるなら、一瞬で、いたくなかったらいいなあと思うだけ。
「いいよ、いこう?寒いところ」
死後は寒いだろう。
凍えるくらい。
「一緒に死んでみる?」
「ユイ?ふざけてるの?」
凍てついた目でにらまれる。
美人の怒った顔は、それだけで見ていられる?
それは幻想だよ。
「早く、凍えられそうな場所を言って」
有無を言わせぬ迫力があった。
すでに日は高く上っていた。
「寒くないじゃない」
「無茶言うなよ、遊園地の中だぞ」
たしなめながらも、不審がられてないか、挙動不審になってしまうのはどうにもできない。
本当に言った地点に、ぽっと出てきてしまった。
さしずめ瞬間移動。
本当に、本当にできちゃったなんて。
「なんだか視線を感じるのだけれど」
「気のせいだよ」
もっとも、僕も視線は感じていた。
きっと、彼女が美少女だから。
そして、隣の僕が見合わない人間だから。
「ねえ、凍えられる場所はどこ?」
問いかけられて引き戻され、はっとする。
「うん。いこうか」
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