第8話 真っ白なパズル


「リセットされちゃった」

 入学式のときだ。しんと静まる体育館で、私はそう呟いていた。


 中学時代で築いた関係、立ち位置、もしくはキャラクター。そういったものが一切合切、リセットされたって。


 そう考えると、泣きそうだった。


 リセット願望があればそれは喜ばしいことかもしれない。よし、自分を変えよう。そう前向きになれれば幸せだったかもしれない。

 けど、私は――現状維持、それで十分だった。今まで、が一番だった。


 三年間かけて一生懸命組み立てた、何が書いてあるか自分でもわからない真っ白なパズル。それを一瞬で崩される。それをまた組み立てろと言われる。


 宇宙飛行士の入試にそんな感じの試験があるって聞いたけど、何かに熱望する人しか、そんなことはできない。私は何も望んでいなかった。


「メルさんってどこかのお嬢様みたいだね」

「メルさんって本とか好きそう」

「お肌きれい〜。どうやってるの?」

「クラシックとかオペラとか聞いてそう」


 ただのサラリーマンの娘だよ。

 YouTube厨です!

 たまにお風呂入らず寝落ちしてる(笑)。

 いや、ボカロとか好きだよ?


 期待が膨らむことが恐ろしかった。

 がっかりさせそうで怖かった。

 素直に、自分を出したかった。

 だらしなくて、テキトーな私。

 知ってもらいたかった。

 誰かに甘えたかった。


 私は笑うことしかできなかった。

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