第37話天にかかる星に願いを
癌。
この病院の医者がつけた、
――たったそれだけで、それが
原因不明の意識消失発作。
それが今まで
今回そこに触れたのかどうかは分からない。だが、いきなりの病名告知。しかも、それは予想もしない病気だった。
分かったことだけを前面にだし、わからない事は誤魔化しているのだから。
しかも、詳しく言うとリンパ腫というもので、あらゆるところにその存在が疑われるという説明だった。
そして、
それが、さっき聞いた電話の内容。電話の相手は
そして、
今晩、検査結果を説明する。
もう一度
それが、うまく伝わらないようだった。
さすがの
そして、そこで待っていた俺と目が合う。
すがるような目の奥に、かすかに見える非難の色。
だが、それを口には出さない。
やがて
おそらく
その気持ちはわからない訳でもない。さすがに涙のあとがついたままではダメだと思ったに違いない。
だが、
黙っていようがいまいが、それが知れるのは時間の問題。
それよりも、俺の知らないところで予期しない出来事が起きていた事実が問題だ。
病魔の奴が表に出ている。それが医者にでもわかる病気として現れている。
それは、その存在が大きくなりすぎていることを意味している。
まだ、半年もたたぬ間に?
これは何かの意志なのか?
また、俺から奪おうとするのか?
そして、その夜は俺も忘れられない夜になっていた。
*
その日の夜は、いつになく星がきれいに見えていた。病室から見える星空は、街の明かりが消えた頃に、より一層はっきりと見えていた。カーテンの隙間からでも。
検査疲れとか色々あったのだろう。病室に帰ってから、ずっと布団をかぶり横になっていた
本当に情けない奴だ。
だが、夜中をすぎた頃に変化が起きる。
電気もつけず、窓のカーテンを全て開け、外を見えるようにした
暫らくその景色を眺める
しばらくしてベッドに戻ったが、座って空を眺めていた。
暗い病室の中から見える星々。ただそれを呆然と見つめる
ただそれだけの時間が、過ぎていく。
「あの三角形が夏の大三角形かな? 詳しく知らないけど、あの三つの星のどれかが、織姫と彦星だよね。毎年曇り空で、見えた記憶はないけど、今日は見れてよかった……」
ぽつりと言葉を落とした
布団の上だが、丁度
だが、
「そうだ……。七夕だった……」
思い出したように呟く
ただ、今見ている空は変わらない。日付が変わったと言っても、七夕の空と言えるだろう。
そして、この空は千年前からほとんど変わることはない。
この千年で人の世界はずいぶん様変わりをした。だが、時間の進み方が違うのだろう。こうして見上げる星の光は変わることなくそこにある。
「ねえ、クロ。星になる気分ってどんなだろうね……」
「
「もう、冷たいなぁ。でも、今日は尻尾で返事しないんだ」
俺に話しかけながらも、その顔は星を見つめている。だから声を出しただけだが、本当にコイツは勘がいい。
「クロは七夕伝説って知ってるよね。あれって、本当なのかな? いくら働くのが大事だって言っても、神様が愛情を否定していいのかな? 神様ってそんなに偉いのかな? どれだけ遊んだのか知らないけどね。でも、愛を
だが、
「ねえ、クロ……。私、このまま星になったらハレー彗星見れないね。仮にその中に住むんだったら、ずっと見れないよ……」
「
「ふふ、クロが強気だ。……正直に言うね。やっぱり不安だよ」
いくら文明が進化しても、まだ人は人の心を解き明かしてはいないから当然だ。しかも、生命の神秘にまだ人は到達していない。輪廻に関しても同様だ。だが、生まれ変わりは存在する。ここに俺がいるのがその証だろう。俺の知らない不思議な事もいくつもある。
だから、
この街の邪気もますます大きくなっている。
それは、俺にもわからない。ただ、一つ言える事。
それは、
「
「えっ、何!? どうしたの? いきなり」
――聴け!
(なに? クロ? 夜中に何叫んでるの? 月?)
――うるさい、アキハ。お前は寝てろ。男には叫びたい時があるんだ。
(はい、はい。盛りってやつ? こんな時に節操ないね。言われなくても寝るよ? でも、びっくりして起こされた私にその言い方はないかな?
――なっ!? お前な……。
だが、振り返ると、確かにそこに驚いた
「
「そうなんだ……。『まさか、あのクロが織姫と彦星に願い事するの?』っておもってびっくりした」
――おまえなぁ。俺をなんだと思ってるんだ?
(超絶俺様)
――うるさい、アキハ!
(はい、はい。でも、クロがそんな感じじゃないと、
――アキハ?
(もう、私は寝るね。
――ああ、そうだな。でも、何だ? お前の願いって?
(……………………)
「どうしたの? クロ? 何かいるの?」
「
――安心しろ、
だが、一応確認だけはしておこう。
「
再び傍に来た俺の目をじっと見つめる
だが、
だが、再び目を開け、俺を見つめる
その目を俺は知っている。否定されても、俺はその目をよく知っている。
「生きたい。生きたいよ、クロ。もっとみんなの事を知りたい。みんなと同じ時間を過ごしたい。せっかく一緒にいると思えるようになったの。だから……、死にたくない……」
「
お前の気持ちははっきりしている。
俺のやることもはっきりしている。
あとはすべて俺に任せろ。お前は俺を信じればいい。
「もう……、クロ。泣いてないよ。いきなり飛び掛かってこないで。びっくりするじゃない。でも、クロは温かいね。こうして抱きしめると、とっても安心する」
「
「うん……。ありがと、クロ」
しばらくそのままだった
しばらく見守る俺の前で、
――お前が俺を信じてくれる。だから、俺も全力で戦ってやる。千年守護獣の本気の力だ。たとえあと半年で病魔がどれだけ大きくなっても、俺の本気で押し潰す。だから、今は休め。体を休めることが、お前の戦いだ。
そして、俺も
だが、それからの
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