第21話迷子と黒猫
俺の目の前を、
真っ直ぐに舗装されている道ではない。だが、そこは人が通りやすいように、人が手を加えたあとがある。
誰かがどこかに行くたびに、下草を踏みしめ続けたことで出来た道。だから、そこだけがむき出しの地面となる。元々枝を避けてできているから、上を気にする必要もない。だから、そこを歩いていく限り、木々にぶつかるはずがない。
にもかかわらず、ときおり
考え事をしながら歩いているから、時折道を外れそうになる。
色々と話を聞いたから無理もない。
あの後も、
それは
でも、俺も完全に『俺の方が正しい』と思えなくなっている。
それに、俺もすべてを知っているわけじゃない。いや、知らない間に忘れている可能性もある。まだ思い出せないことがあるのだから……。
ただそれは、
そして、自ら賽銭箱にお金を投じて手を合わす。
ご神体のない神社にもかかわらず、静かに何かを祈っていた。
すでに太陽は西に傾いている。
もう間もなく夕暮れとなるが、
次の瞬間、
ここに、まとわりつく邪気はない。だが、それはいいことだろう。
それを意識してたのかわからないが、間もなく
そして一礼して、本殿の短い階段を下る。
そのまま神社を背にして、暫らく空を仰ぎ見たあと、
だが、ゆっくりとそれを取り戻すかのように、小さなため息を地面に落とす。
そのまま立ち尽くすように感じたが、
全く何を考えているのかわからない。お前はいったい、何を願い。何を想う?
歩き出した
すぐ脇にある
ちょうど
子供の頃に
そもそも、
だから境内を一歩離れると、そこは山の世界になる。
沢山の木々、生い茂る植物。それは、ここは人の住む世界ではない事を教えてくれる。当然、危険な場所もあるに違いない。
だが、
どんどんと、先に進んでいく
どこに向かうのかわからないまま、やがてその場所は姿を現す。
山の木々が途切れたところに、見晴らしのいい場所があった。
山の中で、遠くの山々を眺めることが出来る場所。
それは、木が生えることができない場所。
つまり、崖の上以外の何ものでもない。
確認したわけではないが、そこは危険な場所だと言えるだろう。
でも、そこは
見晴らしのいい景色。
どこまでも遠く広がる空。
迫る夕闇。
人の営みを一切感じさせないその景色に、
誰かに教えられたわけでもないのだろう。だが、
そして、そのままその景色に見入っている。
確かに超然とした世界は、人を引き付けるものがある。
何か思い悩んだ時に、人はそこに何かを求める。
それは俺も同じだ。
整理しなければならない。俺の過去の記憶も、
その場で
あの時、
一瞬、
あの時、
それを聞いた
その両方で、
だから、俺は理解した。
本当に……。本当に、
――クソ! 何故だ? どうして思い出せない? 思い出せない、どうしても……。
アイツの名前を…………。
(クロ……。私ね……)
「
それは崖の淵だった。
一歩進めば、死に世界につながるところ。そのギリギリのところで、
とても
こういう姿を見せる人間は、決まって
「
「
一気に最悪の事態になることを。
「
「
そこにいつもの
ただ、
たぶん、はやる気持ちが
「こないで!」
その言葉に、
無自覚の自分の動き。それに反応してでた、完全な拒絶の意志。
それまで
――これはまずい。まずいぞ、これは。
(でも、クロどうするの? あの子の邪気。相当あの子を侵食してる。本当に今まで自分だけで抑え込んでたの? こんなにも? でも、本当に? 何故? この私が気づかないなんて、おかしいよ。こんなんじゃ、私……)
――ああ、そうだな。お前は色々自分の事で手いっぱいだったんだろ? 何があったか知らんが、お前のせいじゃない。安心しろ。俺も気が付かなかった。あれは
(………………うん)
――よし、いい子だアキハ。あとで話は聞いてやる。好きなだけ話せ。だが、それは後だ。まず、あのバカ娘を何とかするぞ。もう、あれの時間になる。
(そうだね。でも、私の話はいつも後回しだよ。え!? クロ!? 動いて大丈夫?)
――よし、やっぱり見えてない。日没だ。今のアイツの意識は、
(でも、それからどうするの?)
――当たり前のこと聞くなよ、アキハ。
(わかるよ。あの子の気持ちも知ってるもん。
――もちろん助ける。
(だから、クロは猫なんだって。どうやって助けるのか聞いてるの。まさかと思うけど、無茶なことするつもりじゃないよね?)
――お前は向こうに行って声を拾え。やはり会話が聞こえないとタイミングがつかめない。
(クロ! …………。もう、本当に無理しないでね……)
――善処する。だから、行け!
そうだ、隠してたんだ。もともと、
前と同じように接してきた
そして、今という時間も悪い。すでに、
たぶん、もう自分でも何をしてるかわからなくなっているのだろう。
どうしたいのかもわからなくなっているのかもしれない。
高校に入り、過去を振り返ることが多かった
だが、それは違うぞ、
人間の運命は前に転がるようにできている。
道を外れることはある。
途中で止まってしまう事もある。
自分の望みにあわなくとも、生きてる限り前に転がる。
いい方にしても悪い方にしても、生きると言う事は前に進むという事。
無理やり後ろに行こうとしたら、そこに無理が生じてしまう。
「
「
「だめなの、
「分かんないよ!
(あっ!? クロ……。
――なに? もうすぐ
「
「え!?」
(!? 急いで! クロ! この子危ない!)
「でも、ここにきて分かったの。今、ようやくわかったよ、
「なに? 何を言ってるの、
「それは
「わかんないよ! 何にもわかんない!
「ありがと、
(クロ!)
「まって!
「ごめんね、
「
クソ!
「え!? クロ!?」
(クロ!? ダメだよ! いくらクロでも、守護していない人間を助けることなんてできない! 運命の鎖が、クロをバラバラに引き裂いちゃう!)
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