第三章 変化する時の流れ
第17話新しい生活
無事に高校生になった
『近いから』
ただそれだけの理由で、
その事で、一番喜んだのは
これで、幼稚園から高校まで、
だからだろう、
最初はあの
『理由を聞かせろ』としつこく迫っていたのも
人の想いは、その相手の方へと流れていくのだから。
それでもしつこく理由を聞く
『高校生活で通学に時間を使うのはもったいない。目指す大学は高校で受かるわけじゃない。だから、勉強は自分自身で頑張ればいい。一度しかない高校生活だから、それを楽しまないと!』
それが本当の理由でない事は明らかだが、それもまた事実の一つだろう。
そこからあわただしい日々が続いていた。
だが、あれから
相変わらずこの街を覆い尽くしている邪気は、毎日いくら喰っても減ることはない。むしろいろんなところから集まってくるのではないかと思えるほど、全く祓える気がしなかった。
本気か冗談かわからないが、アキハは今でも時々言っている。
『
まったく、安っぽい
それに、一体誰があの
猫の俺が話した途端、まず化け猫として絞め殺されるに違いない。
百歩譲って依頼が成功したとしても、あの
あの時ですら、事情聴取にどれだけの警官が周りを囲んだことか……。
もし、それらがなければどうなってた?
昏倒した人たちの中心で豪快に笑っていた人物。当然のように、加害者として任意同行を求められる。それが気にくわなかった
何人かをその雰囲気で圧倒したのも悪かった。気の弱い奴は、腰に手を伸ばしてたから、
まあ、それでもあの
それでも任意同行の末に、
その不機嫌な様子と、
当然その矛先は
だが、
でも、それからは特別何かが起きているわけではない。
めぐる季節の移り変わりは、人の感情を激しく揺さぶる。戸惑いと不安に満ちあふれているが、それは誰かに対しての想いではない。
それは自分自身へと向かう。だから、この季節は自分を見失うものが多くいる。
だから、少なくとも
だが相変わらず、不安要素は残っている。最も近いところにあるもの。それを俺はまだ確認することが出来ていない。
*
『一緒のクラスになれますよーに』
だが、三人が同じクラスにはならなかった。ただ、
そう、
だが、そのクラス編成を見に行った時の
『残念だけど、仕方ないよね』と。
俺はその時の
あの時の
だが、どうしてもそれが思い出せない。
今の姿になった時の事なのか、それ以前の俺の記憶なのかもわからない。ただ、知っているとだけわかっていた。
それはたぶん大切だったに違いない。だが、俺はそれをいつまでたって思い出せないでいる。
そして新しい環境は、それぞれに変化をもたらせていく。
最初の頃は帰りを同じにしていた三人も、いつの間にかバラバラになっていた。
だが、やはりそれ以上踏み込むことはなかった。
何処かの部活に所属することなく、授業が終わると、さっさと身支度をすませて図書室に向かう。そのまま遅くまで図書室で本を読んでいる。そんな
しかし、それは毎日ではない。
しかし、
そんな
だが、
そして、いつも俺を抱えては申し訳なさそうに告げていく。
『ごめーん、クロが迎えに来てるよ。この子、新しい場所に連れてくとすぐ迷子になるんだよね。このまま家に連れて帰るね』
まったく、失礼な奴だ。出来るなら、名誉棄損で訴えてやりたい。
この俺は、ほぼ日本中を旅した身だぞ? こんな狭い街で迷子になるわけないだろ?
だが、あの時と比べて成長している
成長するという事が、こんなにも楽しいものだとは思わなかった。
そんなことが夏まで続く。いつしか、
でも、そんなことが続くと、
誰も
教室で他愛ないお喋りをしている
まるで空気のように、教室の中にいる。だが、それだけになっていた。
家と学校とを毎日往復するだけの生活が続いていく。何も変化がない生活。
だが、それを
ただ、そんな
それは
家の近い
相変わらず成長がない。不憫な奴だから、俺は仕方なく相手をしてやる事にしている。
しかし、それは誤りだった。
最近、俺は知ってしまった。あの
何という事だろう。あの驚愕の事実!
あの時は、『白鳥がアヒルを生んだ!?』と本気で思ったほどだった。
いや、そうじゃない。いかなる時でも冷静な俺は、今まで
人は日々成長する。
成長万歳!
千年以上生き続けている俺は、成長とは無縁の存在。だから、甘く見ていた。
なら、すっごい
じゃあ、成長したらどうなる?
それから俺の中で、
それに、
だから、俺もそれに協力してやっている。いつかくる、フカフカのために!
たとえ会うたびに、残念な気持ちになったとしても!
ただ、もっと残念な事がある。俺は
高校入学してから、
だが、たまに見かけても分かる。それがさらに進化を遂げていた事を!
そして、俺は理解した。他の生徒もそうだということを。
この学校には、成長を促進する何かがあるという事を!
それ以来、俺はその成長を直接観測することを日課としている。たとえ教師に追い払われても、たとえアキハに
だが、流れゆく月日は違った結果も生む。
かつて仲の良かった三人は、それぞれに新しい生活の中で、すれ違う日々が続いている。だが、それを修正することなく月日は流れる。
しかし、それは仕方のない事。
人間は出会いと別れを繰り返す。
それは、限りある命を精一杯燃やすために必要な事。だから、
それに、
俺は
警戒はしつつも、そう思っていた。
そして、何事もなく夏休みを迎えていた。
そう、目の前にある部屋のドアが、乱暴に開かれるまでは……。
*
夏休みに入ってすぐの朝、一人旅の準備を終えた
正確には、俺をつれて
「え!? 何? おばあちゃん? え!?
思わず俺の入ったキャリーケースを落とす
だが、理解する間もなく、
「ほら、行くよ!
明らかにドアを蹴破った
そして俺の目に飛び込んできた光景。
それは、
目の前の二人。
その対照的な二人の姿が、それを異質なものに感じさせるに十分だった。
一方の
長く生きていれば、驚くことが無くなると誰かが言った気がする。
ならば、俺はまだ長く生きてないのかもしれない。
『か弱い』という言葉が、これほど似合わない光景があるという事を、俺はこの日、初めて見たのだから……。
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