第15話変質者(後編)
冬の夜は駆け足でやってくる。夕方をとっとと追い出して、その姿を見せつける。
それは
そんなことをすれば、こうなることは目に見えている。今日、お前の周りに集まっている気配くらい、勘のいいお前なら気付いているはずだろう?
でも、何故そうする?
お前は何がしたいんだ?
ますます俺は、お前の事がよくわからなくなってきた……。
*
「なんですか? 何か御用ですか?」
やや緊張した
知り合いか?
一瞬そう思ってみたものの、それは別にどうでもよかった。そもそもこの場所では、相手の顔はよく見えない。
ゆっくりと
――なるほど、やっぱりこうなるか。
予想通り、そいつは
そう、学校では大きな出来事はなかった。
ただ、いつもより
だが、
そもそもなぜ期待したのかわからんが、落胆は闇を生んでいた。
その闇にとらわれた人間が、ついに乗っ取られたのだろう。
自分の体を、自分の闇に。
そして、それはかなりの似た感情を持つ人間を巻き込んだようだった。
*
――ひい、ふう、みい……。元々かどうか怪しいのを含めて、ざっと十人くらいか? なにも、こんな日にお使いを頼むなよ、
(でも、
――確かにそうだけど、アイツら本当に犬神の血を引いているのか?
(どういうこと?)
――もともと、犬神の一族は、危険に対して敏感なはずなんだ。特別な感覚ってのがあるらしい。だが、
(ふーん。だからなの? 確かにあの子。緊張はしてるけど、驚いた雰囲気はないよね。すごく恐怖しているって感じもないかな? 何なのあの子? あんな状況なのに、まるで
ようやくアキハも、
だが、
俺は……、知っている……?
なんだ? どういう事だ? 俺の中にも忘れている記憶があるのか?
(あっ、クロ。やっとヒーローの登場だよ? でも、走るの遅すぎだよ。
*
「クソ! あの黒猫め……! どこ行きやがった? これじゃあ、まるで今朝の夢みたいじゃないか。ん? 待てよ? という事は……。――!? なんだ? っ!?
(ようやく気が付いたようね)
――ああ、そうだな。
(気のない返事だね。で、どうするの?)
――ああ、そうだな。
(もう! こんな時でもクロは平常運転だね!)
――ああ、そうだな。
(………………)
(アキハちゃんって、超絶かわいいよね!)
――ちゃんと見てろ、アキハ。お前の冗談に付き合ってる暇はない。
(なんでよ! もういいよ! ほら、
――ああ、そうだな……。
お兄ちゃん……か……。
*
「お兄ちゃん……」
「
「別に何もないよ、ただ、この公園を歩いてたら、この人達が集まってきただけ……」
「『集まってきただけ』って、お前な……。どうみてもコイツら異常だろ? クソ、また増えてきやがる。一体コイツらなんだ? 何処から湧いて出やがった? それにコイツらの目! コイツら絶対、正気じゃない!」
(正解! さっすが、
――妹を、まもる……。
(どうしたの? クロ? そろそろ行かないと、危ないよ?)
「お前ら!
「だめだよ、お兄ちゃん。この人達、まったく話が通じないよ」
「クソ! まさに、変質者だな」
(うまい事言うね、
「もういいよ、お兄ちゃん。逃げよう? この人達はたぶん私を追ってくるから。別々に逃げよう? 大丈夫だよ。私、これでも逃げ足には自信あるんだ」
「バカな事言うなよ! お前を置いて、僕が逃げれるわけないだろ!」
「でも……」
「心配するな。こんな日もあるかもと思って、僕は空手をやってきたんだ。それにこんな奴ら、
(おお、お兄ちゃん言うよねぇ。でも、その人達相手にして、普通の空手が通じるかな? ねっ、クロ。――クロ?)
「でも……」
(クロ? ねえ、どうしたの? たすけないの?)
「まだ言うか? いいか、
(かっこいいねぇ。
――いや、アキハ。予定変更だ。このまま様子を見よう。
(え? クロ? どうしたの?
――
(クロ……)
*
(ねぇ、クロ。やっぱり、ムリだよ。そろそろ助けに行った方がいいんじゃない?)
(ねえ、さっきから何で黙ってるの? どこ見てるの?
(クロ! ほら、また人数が増えてるよ! クロ! 危ないって! いくら頑張って
(クロ! もう駄目だよ! ホラ!
公園の端にある木に追い詰められた
「
(クロ!)
――心配ない。うるさいから、黙って見ていろ。
(何で!? クロ! どうしたのさ!? ねぇ! クロ! クロってば!)
だが、それも多勢に無勢。押し潰されるように沈められた
もう、
それでも逃げようとしない
「やめろ! お前ら!
だが、それが現実だ。
どれだけ口で偉そうに言えても、大切な人を守れるだけの力がなければ意味がない。
いま、それが分かっただけでもいいだろう。
お前はまだやり直せるんだ、
「頼む! 誰か!
ついに助けを求める
だが、それすらも飲み込まれる。そして、何を考えているかわからない
黙って動かない
そのうちの一本が、
『パン!』という、両手を打ち鳴らした音と共に、周囲に振動が広がっていく。
それはまるで青空を駆け抜けるような、澄みきったものだった。
(うそ!? これって
止まる群衆、停止した時間。
やがて何かの力を失ったかのように、怪しい人の群れは一斉に地面に倒れ伏す。
(すごい! すごいよ! クロ! これだけの
感動するアキハとは対照的に、
すでに暗くなった公園。
そこに灯る外灯を背に、大柄な人物が歩いてくる。
押し潰されたままの
誰も動かない静寂のとき。
その空白の時間を埋めるように、豪快な声があたりに響き渡っていく。
「
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