第14話変質者(前編)
夜と朝の狭間の世界。
その闇の中に、光の軌跡が描かれていく。
闇の中、うごめく闇を見つけては
しかし、それを見届けるまでもなく、その光は屋根の上へと駆け昇る。
それを追って見上げれば、金色の二つの光をもつ黒い影が、白む空を背にしていた。
油断なく、周囲を見渡すその金色の双眸。
その視線の先で、再び湧き起るうごめく闇。それはいたるところで沸き起こっていた。
その瞬間、まるでそれを結ぶかのように、光の軌跡が描かれる。そして、闇は静かに治まっていく。
それは繰り返し、繰り返される。
永劫に続くかのように見えたそれも、
屋根の上で、超然と構える黒猫の姿を残して。
*
――くそ! 朝からつまんねぇもん、よこしやがって!
(荒れてるね、クロ)
――当たり前だ! なにが、バレンタインデーだ! この日は特にこんなのがわいて出やがる。クソ! だが、今日のはその中でも最悪だ!
(なんだかそれだけ聞いてると、
――うるさい、黙れ。それ以上うるさく言うなら、ついでにお前も
(はい、はい。ほら、あっちにも出てきたよ、クロ。でも、見方を変えると、クロへのプレゼントみたいだね。ちょうど黒いし、チョコレートだと思えば?)
――クソ! 男からのチョコレートなんているもんか! そもそも、こんなつまんねぇ行事を考えた奴をつれてこい!
(あは! そもそも、
――うるさい、アキハ! 男は犬にでも守らせておけば十分だ。それより、いちいち指図するな! 詮索するな! 大体、お前も寝てる時間だろ。今日に限って早起きだと思ったら、くだらない話しばかりしやがって! こっちは寒くてイライラしてんだ。お前もついでに
(はい、はい。聞いた私がバカだったよ。でも、それだけ動いてるんだから、もう寒くないでしょ? 嘘が下手だね。それに残念だけど、そんな暇はないよ。ほら、あっちからも湧いてきたよ。まだ出るんだね。こんなのは初めてじゃない? やっぱり、この街の異常が原因なのかな? どうしよう?
――縁起でもない事を言うな……、と言いたいとこだけど……。たぶん、アキハの言う通りだ。今日は何か起きる。
(願望? それって、やっぱり
――
(ねえ、クロ。一度確認しておきたかったけど、クロって私の事バカだと思ってない?)
――思うも何も、バカだろ? 寝ぼけてるのか?
(ひっどーい! もうクロには、あの後の事教えてあげないからね! 私はちゃーんと発見したんだから! えらいでしょ!)
――あの後の事って何の事だ? この前のお泊り会か? 発見? お前が? アキハなのに? そりゃ驚いた。えらい、えらい。じゃあ、俺も教えてやろう。あの日聞いた、
(あっ、そう……。どんな逆境でも、やらしい心だけは忘れないんだ……。いいよねぇ、無駄に前向きで。じゃあ、百年でも二百年でも待ってたら? そんな事より、
――そんなに待つか!
(はぁ~。本当にクロはツンデレさんだねぇ。ハイハイ。そういう事にしてあげるよ。でも、クロの出来ることねぇ……。それって、
――何とでも言え。もう、この話はお終いだ! とにかく、この家に群がってくるという事は、これを発した誰かは、明らかに
(哀れだねぇ。
――まあ、そうだな……。ただ、誰とでも仲良く、親切にしているように見える
(いるよね、勘違いしちゃうのって。全ての親切が好意から来るわけじゃないのに)
――まあな。だが、勘違いだと言っても、そう思う事は別に悪い事じゃない。そういう事もあるからな。それに、人間は希望を持つ唯一の生き物らしい。だから、想うくらいはいいんじゃないか? でも、それを相手に強要するような意識を持つべきじゃない。
(よく分かんない。どういうこと?)
――説明する必要はないが、バカなアキハに
(もう! バカは余計だよ! それより、やっぱりバカにしてるよね? 何が言いたいの? もっとちゃんと説明して!)
――俺は必要な事しか言わない。さっきのも特に言いたいわけじゃない。アキハに
(むう。なんかまたバカにされてる気がする。もういいよ。でも、この街の異変はわかるよ? 今日のも、そのせいでしょ? でも、優しいんだね、今日のクロ。そのせいで、朝から大変な思いしてるのに)
――別に優しくなんかない。ただ、思い出しただけだ。こういう事が起きるのは、あれが近づいてきたからだ。
(何を? それって、何? 昔のクロ?)
――忘れた。
(もう! それって思い出したって言わないよ!)
――どっちでもいいだろ? 俺の事はいいんだ。それより戻るぞ。どうやら、これを送ってきた本人たちが起き始めたんだろう。無意識がとれ、ようやく落ち着き始めた。もうほっておいてもいいくらいだろう。シロの奴は片っ端から
(そうなのかな? でも、
――ああ。俺は千年守護獣だぜ? こんなもの、
(……………………………………
――うるさい! お前も、
(はい、はい。でも、朝ごはんを食べれるんだ? 今日はたくさん
――お前……。分かって言ってるよな? そもそも、あれは
(しっ、しってるよ! 当たり前だよ! クロをからかっただけだよ! でも、ついでにいっぱい食べて、私を大きく育ててね! せめて、クロの首に
――お前の場合は、すぐ寝るから横に広がるだけだな。あと、もしそうなれば重量オーバーだ。
(もう! しらない! クロって、デリカシーなさすぎ! もういいよ! 帰って寝る! じゃあね! おやすみ!)
――寝るのかよ。
しかも、言いたいことだけ言って、一瞬で消えやがった……。便利なものだ。俺にのる必要なんてないだろうに……。
それにしても、『
シロはその事、『
シロ……。お前は何故、そうまでして
情報だけでは、お前の本当の気持ちまでは分からない。出来る限り、お前がしていたようにしてみても、俺にはお前の気持ちがさっぱりわからない……。
だが、分かったこともある。
お泊り会の日から、すでに三日。
あの日から、
何があったかわからんが、何かあったのだろう。
そして、今日は間違いなく何かが起きる。
そう、
――となると、やっぱり
せいぜい頑張れよ、
お前も一応、
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