第11話お泊り会(前編)

楽しそうな笑い声がどんどんと近づいてくる。


――クックック。待っていたぞ、あおい

(もう、クロ。だらしないよ、その顔)


――何とでも言え。俺はこの時を待っていた。外は寒い。そして、俺は十分あったまっている。

(それ、あの子と関係あるの?)


――分からないか?

(分からないよ! でも、クロのその顔……。ろくでもない事だというのが、わかってきたよ)


――失礼な奴だな。

(失礼とは失礼だね! じゃあ、なんなの? 早く言ってみてよ)


――あおいに、あおいだけに、特別この俺を抱きしめる権利をくれてやる。あおいが温まる。そして、俺もあのフカフカに癒される!

(やっぱり、聞いた私がバカだったよ! それを聞くと、ますますその顔がだらしなく見える)


――バカを言うな。こうして丸まってるんだ。お前に俺の顔が見れるわけがない。

(見えるんだよ。私には、第三の目があるからね)


――ねえよ。お前の顔のどこにもそんなもんは。

(あるもん。私の心に、ちゃんとあるもん)


――なんだそれ? まあ、いいよ。でも、もうすぐだから、邪魔するなよ。

(しないよ! クロのバカ! スケベ! まっ黒クロ黒!)


何だそりゃ?


でも、そんなことはもうどうでもいい。いよいよ、あおいのお出ましだ。






「さあ、どうぞ。寒かったでしょ? 部屋はしっかり暖めてあるからね」


ドアの向こうからしずくの声がする。それに返事する声も二つ。さあ、いよいよだ。あおいのフカフカ。未知のフカフカがすぐそこに!


――さあ、こい! あおい! ドアを開けてまっすぐ俺のもとに。そして、俺を抱きかかえろ。それだけで、お前は満たされる。俺も満足する。


(クロはしまらない顔を少しあげ、その様子をチラ見する。下心は丸出しにして!)


――うるさい! 人の行動をいちいち説明しなくていい! しかも、まるで変質者じゃないか!

(そうじゃないの?)


――そうじゃない!


「じゃーん! クロ! 待ってたかい? 君のなぎさちゃんだよ!」

「――――――にゃーんチェンジ


(クロ…………)


「うん、うん。今回はちゃんと返事したね。いい心がけだね。でも、その後がいけない。今見てたよね? また顔をうずめて丸まるなんて! 忘れたのかい? 君は、あたしの心と体を温めるという、崇高な使命を帯びて生まれてきた子だよ! ほら、まずはその顔を見せてくれないと!」

(だって。ほら、クロ。お仕事だよ! 指名されてるよ。崇高な使命だよ!)


みゃぁー人違いです


「ほほう。クロ君。相変わらず君は、ツンデレ君だね。でも、甘い。このなぎさ様は全部お見通しだよ。そんな君には、これだよ! じゃーん! 『特製ねこじゃらし』! しかも、なぎさ様の特別製! 対クロ用強化型決戦兵器として、昨日徹夜してまで仕上げたからね!」


――なんだそりゃ? 『じゃーん!』ってなんだ!? しかも、言うに事欠いてツンデレだと? ていうか、受験生!

(あはは! ツンデレ! ツンデレ! あはは! 見破られてる!)


――だまれ、アキハ! それよりなんだあれ? あれが『ねこじゃらし』だと? あれで、この俺の気を引けると思ってるのか? バカが、詰め込みすぎだ。でも、一体どれだけのモノをつけてあるんだ? しかもあの部分。あれは伸び縮みするのか? あの部分はなんだ? なんだか光ってるぞ? クソ! あれはなんだ?


(クロ……。興味津々だね)


――ハッ! 猫としての本能が……。でも、ちょっとまて! アイツのあのカバン! あのでかさは、まさか!?


(すごいね、この子。クロのこと、よくわかってるよ)


「お!? クロ君。やっぱり興味があるようだね? そうさ、このカバン。中身の大半は君の為に準備してきたモノだよ! でも、この場で全ては出さないよ。夜は長いからね! フッフッフ、その顔。気になって仕方がない感じだね! よし! じゃあ、仕方がない!」


――しまった! また、コイツのペースにのせられた! にじり寄るな!


「ダメよ、なぎさ。今日は、勉強するために来たんでしょ?」

「えー? ちょっとくらいいいじゃない。休憩、休憩。ねっ、あおい!」


――いいぞ! あおい! 拒否しろ、あおい! ダメだからな! 今日は勉強するためだというのを、そこの受験生に教えてやれ!


(ついでに、クロも教えてもらえば?)


――俺はあのあおいのフカフカの感触を教えてもらう。

(もう! クロのスケベ!)


「ダメよ、なぎさ。今着いたばかりじゃない。何もしてないよね? 私立の試験日は来週なんだよ? しずくもほら、何か言ってよ」


――いいぞ、さすがあおいだ! その優等生ぶりには、さすがのなぎさも歯が立つまい。それとアキハ、もう一つ。俺はもともと別格だ。


(はいはい、別格、別格)


「えー。いいじゃん、あおいのケチ」

「ケチでいいです。なぎさの為だもの。それに、クロも迷惑がってるよ?」

にゃんその通り!」


――さすが、あおい。優等生。俺が見込んだだけはある。


「ほら、クロもそう思うって」

「ク~ロぉ~? いくらなんでも、今のはタイミングが良すぎないかなぁ?」

みゃあ事実だからな!」


「むむむ。なんだか納得できないぞ? クロ君? ちょっとあっちで話そうか? 二人っきりで」


――おい? また、あれ持ってきてるのか? カバンに入ってるのか? 探さなくていいよ。さすがにあれは、勘弁してくれ。


「まあ、まあ、なぎさ。とりあえず、休憩はまた後にしましょ。さっ、なぎさあおいも、座って座って」

「むぅー。でもまあ、夜は長いからいいか」

「そういうこと」


――どういうこと?  俺は寝るよ? もちろん、あおいの布団で。できれば、そのフカフカにくるまって。


(クロぉ~?)


――だから、今は膝の上で我慢しよう。さあ、あおい。その柔らかそうな太ももをポンポンするがいい。俺が仕方がないから歩いて行ってやる。


(あれ? しずくが来たよ?)

まあ、この際だ。しずくを経由してからでもいいだろう。最終目標はあおいだからな。


「じゃあ、クロ。そういう事だから、また後でね!」


――え!? そういう事って、どういうこと? あれ? 膝の上じゃなかったけ? あれ? そっちは部屋のドアだけど? しずくさん? あれ? あおいの膝。あれ? 俺の予定と違うけど?


「ばいばーい! クロ~。なぎさちゃんが後で遊んであげるからね!」

にゃーんお前はおとなしく勉強しろ


――しまった! なぎさの相手してる場合じゃなかった。

(あはは、すっかり部屋から出ちゃったね)


「さっ、クロ。お母さんところでおとなしくしててね。なぎさの為に、お願いね」


――あっ、ちょっと? この階段を下りろって? なぎさの為? え? ばいばい?


(あはは! クロ! 締め出されたね! さすが、別格!)


――クソ! ドアに鍵かけやがった。


(あーあ。これで無理やり入れないね。ふふっ、クロ。気になる?)


――気になるもんか! 気になるのは、あおいのあの、フカフカだけだ。それ以外には興味ない!


(クロはやっぱり天邪鬼あまのじゃくだね。わかった! じゃあ、私が見てくるよ! あとで、かいつまんで教えてあげるね!)


――おい! ちょっと……。


言いたいことだけ言って、行きやがった。

相変わらず人の話を聞かない奴だ。しかし、これじゃあ確かめようがない。




…………………………。




仕方がない。かえでの所にでも行くか……。



寒い。さすがに廊下ここは、寒すぎる。

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