幕間

第9話夢の中の兄と妹

(ねえ、兄様あにさま。干支には猫年がありませんよね。何故だかご存じですか?)


「ああ。でも、あれはおとぎ話だろ。一族の古い伝承か何か知らないけど、そんなの見たことないし。でも、お前が何故それを聞く? ――まさか!」


兄様あにさま? 顔が怖くなってますよ。腹黒い、極悪人の形相ですわ)


親父おやじ殿か! それとも、長老じじいどもか?」


(ふふ、どちらでもよろしいのではありませんか。では、もう一つ質問に答えてくださいまし。どこまでご存じですの?)


「まったく…………。お前は、言い出したら聞かないからな。隠しても仕方がないから正直に話す」


(はい、兄様あにさま。でも、嘘をついても無駄です。わたくし兄様あにさまの嘘はすぐ分かります)


「知らない。それに、知りたくもない」


(はい。嘘ですね)


「くそ! 子供の頃に無理やり聞かされた事は知っている。たしか、神と喧嘩したって事になってるはずだ。元は十二支を統べる立場だったけど、堕天おとされたって聞いた」


(はい、兄様あにさま。よくできました)


「お前バカにしてるな? いいんだよ。所詮そんなのおとぎ話に決まってる。古い壁画が残っているらしいが、俺は見たことがない」


(はい、兄様あにさま


「そして、この里にはそんなものはなかった。心当たりもない」


(はい、兄様あにさま。嘘はいけませんよ?)


「くそ! もし、あるとすれば、お前が生まれた里だ。あそこは古い言い伝えを封じた洞窟があるらしいからな」


(あら? 兄様あにさまは、そこに描かれているのをご存じないのですか?)


「もしかして、お前は知ってるのか?」


(さあ、どうでしょう? わたくしも小さかったものですから)


「そうだな。どちらにせよ、今となっては、確かめようがない。確かめようがないから、俺にとってはおとぎ話で十分だ」


(そうですね。でも、おとぎ話だとしても、兄様あにさまは知るべきです。今はそうではなくても、きっと必要になりますわ。それに、もしかしたら真実かもしれませんわよ?)


「興味はない。それに、今のあの里には……」


兄様あにさま。今は覚えておいてくださいまし。いつかきっと。そこに描かれていることが必要になります。それに、神様と喧嘩するなんて、猫もいい度胸してますわ。兄様あにさま養父様ととさまを見ていると、そう思えてきますもの)


「わかった。お前は言い出したら聞かないからな。まったく……。それと、俺の事はいいんだよ。だが、俺の質問にも答えろ。お前は何を言われた? 何をどこまで知っている?」 


(そうですね……)


(神さまが人間に罰を与えた時に、猫さまは希望をくださりました。天を流れると言われる凶星にお住まいで、災厄が訪れる時に希望を見せてくださる。代々それを結んできたのが、兄様あにさま達の猫目一族。そして……)


「もういい! そんなのは作り話だ! 長老じじいどもめ!」


兄様あにさま……)


長老じじいたちの作り話に付き合うつもりなんて、俺は全くないからな! お前はもう猫目一族。――の一族じゃない! この俺の妹だ! 誰が何と言おうと、この俺がそう決めたんだ!」


(ふふ、兄様あにさまらしい、真っ直ぐな言葉でした。ええ、わたくしは、猫目九郎の妹です。残念ですが、仕方ありませんわ)


「おい、残念とはどういう意味だ?」


(あら、兄様あにさまは言葉をお忘れですの? さすが、兄様あにさまですわ)


「お前な……」


(ふふっ、兄様あにさまたわむれです。――は、お慕い申し上げておりますわ。たとえこの世が滅びようとも、たとえ姿が変わろうとも、――はそんな兄様あにさまをお守りします。永久とこしえに)


「お前な……。妹を守るのは兄の役目だ。間違えるな」


(ふふっ、兄様あにさま。そういう事にしてあげますわ。残念ですが、仕方ありませんわ)

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