第6話楓の想い

母親のかえでが、何故俺を残したのか。

何故、俺に話しかけるように見つめてくるのか。


それは、かえでが俺の正体に気づいているからとしか思えない。


――当たり前か。かえではシロの事を知っていた。


(でも、そんなことありえるの? 守護獣を見分けることなんてできるの? その道の人とかならわかるけど、この人って普通の主婦だよね?)


――ありえるかどうかは知らんよ。だが、シロはそう考えていた。ただ、どうやら普通の主婦だけでもないらしい。なにより、守護獣の知識を持つ者が他にもいる。シロの事を認識していた人物が、しずくの周りには結構たくさんいる。


(そうなんだ。シロさんって結構有名人だったんだね。でも、その事と今ここでこうしていることと関係あるの?)


――分からないのか? 誕生日だぞ? その日に、守護獣であるシロがいないとどうなる?

(寂しい?)


――バカか? ちゃんと考えろよ。


(バカってなに? クロもバカだよ! 寂しいでしょ? 寂しくないの? 友達でしょ?)


――いや、お前……。問題をすり替えるなよ。俺はだな――。

(クロは寂しくないんだ? そんな薄情な人だとは知らなかったよ。もしかして、私がいなくなっても寂しいと思ってくれないの?)


――いや、だから問題が違うし。そもそも、問題出したのは俺だし。

(そんなのどうだっていいよ! どうなの? 寂しいの? 寂しくないの?)


――あのなぁ……。んー。まあ、寂しいだろうな。こうやって話――

(うん、素直でよろしい)


――お前なぁ……。まあ、いい。そもそも、あの日の夜に、しずくは無事退院が決まっていた。でも、かえではいったんそれが決まった後、何処かに連絡を入れ続けた。その後だ、急に一日様子を見ることを主治医に頼み込んでいた。

(さすが、ストーカーのクロ。覗き見は得意だもんね)


――ほっとけ! じゃあ、何故か?

(何故だ?)


――考えろよ。

(考えたよ)


――そうかよ。

(そうだよ!)


――まあ、いい。とにかく、シロがいないからだよ。そして、守護獣であることも知ったから、その翌日にしずくの状態が急変することを危惧したのだろう。


あの悲壮感、そして今日の安堵の表情。それが何よりの証拠だろう。


『守護獣がいなくなり、新たな守護獣が現れたとしても、安心してはならない』


たぶん、人の世界にはそんな言い伝えでもあるのだろう。

そう、病魔びょうまを退けていなければ、翌日に人の命は儚く消える。


かえではその事をどこかで知った。そして、その事が心配だったに違いない。


――そして、これまでのかえでの行動。シロの情報。それらをまとめて考えると、ある人間が入れ知恵したと考える方がすっきりする。そして今、こうして誰もいない部屋を作り出したのはその人間が来るからだろう。

(会わないといけないの? クロが黙って出て行ったらどうなるんだろ?)


――困るだろうな。まあ、どっちにしてもいずれは会うんだ。現役の巫女でもあるらしい。そんな婆さんに会うんだ、病院というのは待ち合わせするにはいい所じゃないか。倒れても、すぐ入院できる。

(来るのって、お婆さんなんだ。ギリギリ、クロの許容範囲だね。だから会うんだ。でも、相変わらず失礼だよね、クロ。それより、この人さっきからずっとクロを睨んでるよね。ちょっと不気味)


お前の方がよっぽど失礼だと思うよ、俺は。言わないけど……。


でも、たしかにかえではそれっきり何も話してこない。ただ、黙って俺を観察し続けている。


――いいだろう。あんたらの査定を受けてやるよ。白黒つけてれるものなら、つけてみろ。


(そんなの、クロはクロだよ。でも、クロ。わかってるよ。そんなかっこつけても、アキハ様はお見通しだよ! 今は帰らない方がいいもんね。今帰ったら、あの子がまだいるだろうしね)


――うるさい、アキハ。あと、それは絶対に関係ない。別になぎさを警戒してるわけじゃない。

(はぁーい。でも、お婆さんってやっぱりあの子のお婆さんなんだよね?)


――ああ、そうだよ。しずくの祖母。名前は……。そう、名前は犬神いぬがみヨシ。


かえでの母親にして、犬神神社の現役の巫女……。さすがの俺も、これだけ年を取った現役の巫女と会うのは初めてだ。


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