幕間

第3話少女の夢

知っているようで、知らない世界。誕生日を迎えた時に見ることのあるこの世界。


多分、これは夢の世界。現実の私は、また意識を失っているに違いない。


相変わらず、霞がかかってはっきりと見えない。


でも、そこに誰かがいて、何かをしているのか。

不思議と私は知っていた。


不意に視界が少し開ける。こんなことは今まで一度もなかった。


黒い巨大な塊と、輝く白い翼。


遠くのようで、すぐ近い。

そんなところで、幾度も翼が塊めがけて、衝突を繰り返していた。


その姿。

まるで、風車に向かい突撃をする騎士のよう。でも、白い翼の輝きには、少しの陰りもなかった。


何度も、何度も、ぶつかり合う翼と塊。

黒い大きな塊は、いいように翻弄されている。


でも、全く傷ついていないのだと思う。


やがて翼は疲れを見せはじめ、同時に私を何かが締めつける。


その瞬間、黒い大きな塊が襲う。

大きな、大きな黒い塊が小さな白い翼を打ち付ける。耐えがたい痛みが、私に襲い掛かってきた。


でも、それでも私はその光景を見続けている。目を背けてはいけないと、私の中で何かが叫び続けている。


なすすべもなく、弾き飛ばされる白い翼。その瞬間、私の中で何かがあふれ飛んでいた。


――ごめんなさい、シロ。


とっさに口に出た、その名前。そう、私は分かっていた。分からないふりをし続けていた。


でも、それ応えるように、白い翼は大きく羽を広げていた。

飲み込んだ言葉を、もう一度叫ぼうとしても、その輝きが優しく押しとどめる。


だが、ついにその黒い塊は、その巨大な体をゆっくりと近づけてきた。


ゆっくりと、確実に。


白い翼を叩き潰すかのように。

そこからさらに巨大な塊が襲い掛かる。


声を出したくても声は出ない。泣かないと決めた私は、たとえ夢の中でも泣くわけにはいかない。


泣けばみんなが心配するから。

悲しそうにすると心配するから。


笑ってないと心配するから。


だから、私は笑顔でいる。そんなみんなの顔はもう見たくないから。


だから、だから、お願いします。


――誰か、シロを助けてください!


声にならない叫びと共に、黒い光が全てを飲み込む。白い翼も、黒い塊も全て飲み込んだその黒い光は、この世界そのものを飲み込んでいく。


いつしか私は、黒い光の中にいるのを感じていた。その中でも輝く、たった一本の羽をもって。


そして、私は夢から覚める。


深い悲しみと共に。

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