第26話 幻覚
約一年前に十ヶ月入院したのちに退院して、自宅での生活を始めました。
私は入院中に身におきたつらかったこと、自分の弱さやずるさと退院してから向き合うこととなり、通院先を変えても強い希死念慮から逃れられず、自分の身体を傷つける日が続きました。
それが癒え始める前後から、私は時々、ふつうに、見えるはずのなさそうなものが見える、という症状と思われるものが現れました。
私が十代で発病した当初から恐れていたことが、何十年の時を経て、体感することとなりました。
私はまだもう少し若い頃、独学で絵画を描いていた期間がありました。その絵は抽象画で、いつも色を塗り重ねて見えてくる何かを私は見つめていました。一つの絵が出来上がるのはなぜかいつも一ヶ月半後でした。
だからなのか..私がみる幻覚は少し変わっているように自分で感じています。
それは、登山用のようなリュックが宙に浮いていたり、犬の絵が壁に描かれていたり、スチールの棚が廊下に置かれていたり、といったものが、夜中に目が覚めた日に見えてしまうことがあります。はっきりと見えます。何度、まばたきしても。そして、目に焼きつけて記憶に残し私はまた眠ります。
朝になっても覚えています。でも、もう消えてなくなっています。私はこれは幻覚だと知りながらも、よくよくそれらを見つめています。
最初は驚いたけれど、すぐに受け入れ慣れてしまう自分がいました。
そして、同時平行して、おかっぱ頭の女の子と思われる者が廊下にいるのが見えたり、廊下を通る大きな人のような白っぽいものが見えたり、窓の外から人の気配がして外を見ると、白っぽい動物のような者が一瞬見えてすぐに消えたり、という感じの幻覚を見ます。
人や動物は、物質ほどにははっきりとは見えないのです。白っぽい影のように見えるけれど、人なら人とわかります。
..最初は通院先の先生にいうのが、ためらわれましたが、あったことは正直に書いて見てもらいます。
先生はあっさり、幻覚やねといいながら、カルテに打ち込みます。
私の幻覚は私を脅かしません。あまり。
でも、ついに私、ほんとうに頭の中がおかしくなったのかな、と軽いショックを受けましたが、症状の中では苦痛が一番少ないので、なんというか、あまり気にしていない、というのが今の正直な感想です。
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