第4項 『馬は細心の注意を払って扱ってください』
無事手続きを終えた俺たちはそのまま門の近くにある馬車置き場へと向かった。
ラウンドの出入り口の門は全部で12基あるが、そのうち半分の6基はなんと馬車や荷車専用のものだ。
繋がりの街というだけあり、日々多くの物資を出入れさせている故の結果だ。
今回俺たちが使う門は南西に位置する第9関門。
大小様々な馬車がたむろする門の前で、早速目的の馬車と人物を見つけた。
「突然すみません。今日はよろしくお願いします」
「いえいえ、いいんですよ。これが仕事ですからね」
馬車の利用方法は主に2種類ある。
自分で馬車を買って利用する自家用馬車と、料金を支払うことで目的地まで運んでもらう
長い目で見れば圧倒的に自前で用意するほうが安く上がるため、マグヌス冒険者ギルドでは自家用の馬車を備えている上に、専属御者の役を設けている。
今目の前に立っている老人もその御者の一人だ。
「ところでそちらの方は?」
「あ、こいつは―――」
「今日からここで働くことになったウェイライ・ワードと申します!よろしくおねがいします!」
相変わらずの声量で自己紹介をするウェイライ。
いい加減耳がキンキンしてきた。
「ははは。元気のあるお嬢さんだ、いいですねぇ。私はカーター・フィリップ・ジョルダン。ギルド専属の御者を務めております。以後お見知り置きを」
それに対して、物腰柔らかく丁寧に、落ち着きを持って挨拶をするカーターさん。さすがの紳士だ。
仕事で一緒に行動をする度に常々思う。
白く透き通った髪に長い髭、慈愛溢れる細められた瞳、優しく余裕のある馬の扱いや歩き方など一つ一つの動作。
もうすぐ70歳になろうという大ベテランはやはりオーラが違う。
団長とはまた違ったタイプの、カッコいい大人の1つの完成形、だと思う。
「そうそうそれから、この子たちも紹介しないといけませんね。私の愛馬の、アリシアとリアンです」
カーターさんに呼ばれるや否や、荷車に繋がれていた2頭の馬が同時にこちらに視線を向けてきた。
「わぁ、可愛いですね」
目があったウェイライはアリシアに近づき、お腹の辺りに触れようと―――
「っ!」
したところで、アリシアはそっぽを向きウェイライから距離を取った。
明確な拒絶。
「ええっ!?なんで!?」
「う〜ん。慣れていない人に近づかれるのを嫌がることはありますが、これほど嫌がっているのを見るのは久しぶりですね」
たしかに、ここまで大袈裟なのは初めて見た。
ちなみに俺は会ったその日に全身を撫でさせてもらうところまでいった。勝ったな。
「馬は臆病なぶん人より人のことを見てるって言うしな。色々見透かされてるんじゃないのかお前」
「ひ、酷い……っ!」
「ま、まあ仕方ないですよ。今日は気分が乗らないのでしょう。それより、時間もないですしそろそろ行きましょうか。いつもの森で良かったですね?」
「はい、よろしくお願いします」
「うぅ〜、お願いします……」
言いながら馬車の荷台に乗り込むと、カーターさんが華奢な腕を使って手綱をテクニカルに降り下ろし、スパァン!と小気味の良い音を鳴らす。
この音を聴くと、これから冒険に出るのだという高揚感に煽られ気持ちが昂ぶる。
熱が
普段は努めて冷静に振舞っているが、この瞬間だけはどうしても興奮を隠すことができない。
「ユーゴくん、たのしそうですね」
クスッと微笑を浮かべながら、ウェイライが喋りかけてくる。
「ああ……そうだな……!」
つい語調が強くなるのを感じたが、もうどうでもよくなっていた。
きっと今のウェイライの瞳には、1人の無邪気な少年の姿が写っていることだろう。
様々な感情心情を乗せ、馬車は駆けてゆく。
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