第2項 『上司の命令は素直に聞き入れてください』
7フィートに届きそうな巨体にボサボサの金髪頭。
大きく反り返った笑顔の口元に無精髭を携えた見るも豪快な大男が、ドスドス足音を立てながら部屋の中に入ってくる。
「この人はオースティン・ハワード。ここの支部長。
入ってきて早々、手早く紹介を済ませた。
この人に自分のことを喋らせると長くなるからだ。特に妻の話で。
「おいおい、相変わらず淡々としてるなぁユーゴ。まあいいや、紹介ありがとさん。で、君が本部から異動してきたっていう?若いし可愛いねぇ、むさ苦しいギルド館も少しは潤いそうだ」
「あ、はい!ウェイライ・ワードと申します!よろしくおねがいします団長!」
急に2人の人間に話しかけられ処理に困ったようだが、理解はできているようだ。
しかし正直この人にはあまり部屋に入ってきてほしくなかった。
ウェイライと団長にはどことなく同じ雰囲気を感じる。この2人を絡ませると面倒なことになるのではと直感したのだ。
「はっはっは!事務処理の相手がユーゴとはお嬢ちゃん運がないねぇ!色々突っつかれたろ?」
「あ、いやぁ〜」
「まあ、クールぶってるところあるけどただの人見知りだから。悪いやつじゃないから仲良くしてやってくれや」
「あまりそういう話をしないで下さいよ。初日から後輩に舐められたら敵わない」
言われっぱなしが妙に悔しかったので言い返してしまった。
後輩と言っても双方23歳と同い年。
ただここの支部に来たのが俺の方が早かったというだけなのでそこまで先輩風吹かせるのもおかしな話だが。
いかん俺の思考。もっとクールにならなくては。
「そういや、ウェイライ?だっけ?変わった名前だな。外国人?」
団長が疑問を口にする。
たしかに「ウェイライ」なんて響きの名前、ここらでは耳にしない。
「君、もしかして外国人?サイネル人か?」
ウェイライを改めて見てみると、比較的小柄な体型、深く濃い黒色の髪に黒い瞳、淡いクリーム色の肌など、サイネル人の特徴が多く見られた。
「あ、その〜。たしかにサイネル生まれではございますが。オーレンにいた時間の方が長いのでもうオーレン人として見ていただいて構いませんよ!ビス語ペラペラですのでご心配なく!」
「……そうか」
オーレンは特に外国人の入国を制限していないので居てもおかしくはない。
しかし、現在は“とある理由”により国から国への移動が非常に困難になっているため、外国人はそうそう見かけることがない。
「まあ本人確認はできたみたいだし、早速仕事に入ってもらおうか。ユーゴ、ウェイライを連れてアッカを採りに行ってくれ」
「え?アッカですか?
大量の魔力が込められた食べ物の総称で、食すことで体内の魔力を回復させることが出来る。
摂取した量に対する回復量が多いものを包魔効率が高いと表現し、魔力を使うあらゆる人々に好んで食べられている。
アッカもその魔食の1種で、ギルド館内の酒場のメニューに使われている。
包魔効率が高い上に味も良いため冒険者たちに大人気のメニューだ。
「それがよぉ、丁度一昨日からこの3日間アッカだけをバクバク食べまくる奴が居やがってさ、在庫が足りないんだわ。すまんがもう1回取ってきて欲しい。馬車はカーターさんにお願いしてるから退場許可だけ貰ってきてくれ」
「はぁ、分かりました……ん?ちょっと待ってください」
「どうした?ユーゴ」
ギルド職員は普通は仕事で街の外に出たりなどはしない。理由は単純明快、危険だからだ。
特にアッカがなっているのは一般人が入ることなどできそうもない、モンスターがウヨウヨ潜んでいる森の奥地。
更にはアッカの木自体にも多少問題がある。
ギルド職員でその危険な採集を出来るほどの戦闘力を持っているとしたら、その人は………。
俺はウェイライに向き直り、そういえばまだ聞いていなかった彼女の担当業務に思考を巡らす。
「君、もしかして………」
「あ、そう言えばまだ言ってなかったですね!」
言いながら腰に付けていた小袋をガサゴソとあさり始めるウェイライ。
取り出した右の掌の上には、先程俺が見せたものと全く同じ、太陽のペンダントがしっかりと握り込まれていた。
「あたしも
ペンダントを自慢げにかざしながら、屈託のない子供のような笑みを浮かべてくる。
「あ、ああ。よろしく」
その純真無垢な笑顔に毒気を抜かれた俺は、
(まあ、いいか。
この街に
後輩が増えて少し大きな顔ができるようになった上に仕事の負担も減る、そう考えるとヤバい。なんかテンション上がってきた。
「でもな。
「え」
あれ。雲行きが怪しい。
「な、なんで俺なんですか。そういうことならチャールズさんのほうが適任でしょう」
「まあまあ、これもなにかの縁だ。それにお前を育てるのも俺の仕事だからな。苦手なことにもドンドンチャレンジしてもらうぞ。しっかり先輩としての振る舞い方を学ぶんだな」
ガハハハハッと高笑いをする団長。こうなるともう何を言っても無駄だろう。
隣ではウェイライが両の拳を握って気合を込めながら
「頑張ってくださいね!」
などと言っている。いや、一番頑張らなきゃいけないのはお前なんだが。
「はぁぁぁぁ…」
俺の小さなため息によるささやかな抵抗も、弾む笑い声にかき消され2人の耳に届くことはなかった。
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