第10話

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「明日には帰っちゃうなんて……。せっかく会えたのに、何だか寂しいね」



 そう言って俯いた河原さんは、受け付けの横でピタリと足を止めた。



「……今度、遊びにおいでよ」


「え……? っ、うん」



 ほんのりと赤く頬を染めると、嬉しそうに微笑んだ河原さん。そんな姿を見て、やっぱりまだ好きだな、と改めて思う。



「……ねぇ、公平くん。隆史くん、何処にいるか知らない? 一緒に帰る約束だったんだけど……見当たらなくて」


「さぁ……。俺は告別式で見かけたきりだから……分からないなぁ」


「そっか……」


「俺が送るよ」


「っ、うん。ありがとう」



 照れたようにして微笑む河原さんを横目に、歩き出そうと右足を一歩前へと踏み出した——その時。

 俺の目前で何かが落下し、ポトリと地面へと落ちた。


 地面に転がる、見覚えあるポーチ。

 


(これは……智の……? あの時……確かに、井戸の中へ捨てたはず……。空から、降ってき……、た……? っ、え……?)



 俺は震える手でポーチを拾い上げると、先程見た猫の死体と、昨日拾った靴のことを思い返した。

 その全ての出来事を思い返しながら、ガタガタと小刻みに震え始めた俺の身体。



(じゃあ……。次に、降ってくるのは……っ)



 俺は強張る身体をゆっくりと動かすと、絶望に満ちた瞳で空を見上げた。


 頭上に広がるその空は、そんな俺を嘲笑あざわらうかのように不気味な色で覆われ——それはまるで、底なしの井戸の中のようだった。







 —完—

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