第4話
———ドサッ
「……っ!」
智に引きずられるようにして裏庭へと連れ込まれると、突然突き飛ばされた俺はその場に尻餅を着いた。
再び三人に囲まれる状況に陥り、それでも負けてたまるかと智達を見上げて鋭く睨みつける。
「性病のくせに、生意気なんだよっ!」
そんな俺の態度が気に食わなかったのか、智は顔を歪ませると右足を大きく振り上げた。
———ドカッ
「っ……!? グッうぅ……」
あまりの痛さに、蹴られたお腹を抑えるとその場に倒れ込む。そんな俺の足元から靴を剥ぎ取った智は、ニヤリと微笑むと口を開いた。
「罰として、これは没収しま〜す! 返して欲しかったら、取ってみなー!」
ゲラゲラと笑う智は、俺の靴を持ったままおどけて見せる。
「……っ返、せよ!」
蹴られたお腹を抑えたまま、よろけながらにも立ち上がった俺を見て、パンパンと靴を打ち鳴らすと挑発する素振りを見せる智。
「取れるもんなら、取ってみろ〜!」
そう言うなり、突然駆け出した智達。
俺は裸足のまま智達の後を追いかけると、広い裏庭を懸命に走り回った。
「……返せ……っ! 返せよーっ!」
必死になって追いかける俺を見て、挑発しながら
「……あっ! なんか、いいもの発け〜んっ!」
———!?
少し遅れて追いついた俺の目に飛び込んできたのは、智のすぐ
生まれてからずっとここで暮らしているとはいえ、裏庭といってもほぼただの山状態のこの場所。勿論、俺はこんな井戸が存在していただなんて、今の今まで知らなかった。
腐って黒ずんだその井戸は何ともおどろおどろしく、一瞬怯んだ俺は思わず一歩、後ずさった。
「お前のきったね〜靴に、ピッタリのゴミ箱だなっ! 俺が処分しといてやるよっ!」
———!!
あっ! と思った時には、既に遅かった。
俺の靴を高々と持ち上げた智は、井戸の上でパッとその手を離すと、そのまま靴を投げ入れた。
「……っ!? 何するんだよっ!!」
声を荒げる俺を見て、ゲラゲラと笑い出す智達。
悔しさから零れ落ちそうになる涙を必死に堪えると、震える拳をグッと握りしめてその場で俯く。そんな俺の姿に満足したのか、何事もなかったかのようにその場を立ち去っていった智達。
一人、その場に残された俺は、ゆっくりと井戸へと近づくとそっと中を覗いてみた。
長いこと使用されていなかったのか、中には水などなく、すっかりと渇ききっている。そのお陰か、井戸の底までハッキリと目視ができる。
想像していたより深さはなかったものの、真っ暗でじめっと湿ったその不気味な雰囲気は、実際の深さ以上のものを俺に感じさせた。
「あれ……?」
目を凝らしてよく見てみるも、先程智に捨てられた靴が見当たらない。
(一体、どこへいったんだ……?)
確かに、この井戸の中へ智は靴を投げ入れた。目の前で見ていたのだから、見間違うわけがない。そう思って必死に目を凝らしてみるも、やっぱりそこには靴らしき物はなかった。
仕方なく諦めることにした俺は、裸足のままトボトボと歩き始めると、沈んだ気持ちのまま自宅へと帰って行った。
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