第3話
※※※
「近寄んなよっ、性病っ!」
「うわ……っ! くっせぇ〜!」
「ほんとだっ! くせぇー!」
「性病の匂いだっ! くっせぇ〜!」
「「「性病ぉ〜っ! 性病ぉ〜っ! 性病ぉ〜っ!」」」
学校からの帰り道。いつまでも続く田んぼ道の真ん中で、同級生に囲まれた俺は、そんな悪口を浴びせられながらトボトボと歩いてゆく。
ゲラゲラと笑いながら、代わる代わるに俺を小突く
人口の少ないこの田舎では、大抵の者が皆顔見知りで。その狭いコミュニティの中で、複数の女性と関係を持っていた俺の父親。それは勿論、周知の事実として、大人達は呑んだくれの父親の事を悪く噂した。
それを間近で見ていた子供達は大人達を真似、その悪口の対象は父親ではなく、その息子にあたる俺へと向けられた。
悔しさに涙を滲ませた俺は、下唇を噛みしめると目の前の智を着き飛ばして一気に駆け出した。
「……あー! 性病が逃げたーっ!」
「っ、……いってぇ。……ふざけんな、公平っ!!」
「待てぇ〜! 性病ぉーっ!」
逃げ出した俺を捕まえようと、智達はゲラゲラと笑いながら追いかけてくる。
捕まってたまるかと必死に走って逃げるその姿は、まるで、獣に狩られる兎のようだ。
そのまま必死に走って逃げ切った俺は、玄関扉に手を掛けると家の中へと入ろうとした——その時。
グンッと軽く宙を浮くような感覚とともに、俺の身体は後ろへと引き戻された。
———!?
驚きに反射して背後を振り返ってみると、俺のランドセルを掴んだ智は、ゆっくりとした動きで口角を吊り上げた。俺を見つめて嬉しそうに瞳を細め、ニヤリと不気味に微笑んだ智。
「つ〜かま〜えた〜」
呆然と、そんな智の姿を見つめたまま硬直した俺は、額から冷んやりとした汗が流れ出るのを感じながら、ゴクリと小さく喉を鳴らした。
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