第5話 なかまなのか

雑用部屋の横にあるごみ捨て場。

その隅っこにガラクタが積まれた木箱がいくつも置いてある。


通るたびに何となく気になっていたその中身を見ると、よくわからない金属や木の板に混じって鉄で出来た剣や槍のようなものが混じっていた。


おお!こんなしっかりした装備があれば俺も!


と、鉄の剣を手に取ると重すぎて持って歩くことすら困難だということを学んだ。


これが「装備できない」ってことなのか……と肩を落としていると後ろから太い腕が伸びてきてがっしりと俺が使用を諦めた剣を握りしめた。


「ドンもこれがあれば敵倒せるかなぁ」


そんな呑気なことを口にしている彼はドン君。

雑用部屋の一員だ。


「攻撃を当てることができればの話ゴブね」


いつの間にかサン君も来ていた。


「そもそもそこにある武器は何かしらの理由で使えなくなったゴミばっかりゴブ。その剣も……ほら、先っぽが折れてボロボロだよゴブ」


「あー、ざんねんだぁ」


と言いながらドン君は軽々と鉄の剣を振り回した。


怖いから振り回すのやめてほしいな、と思いながらも俺は聞いてみた。


「でもドン君それよく振れるね。俺じゃ手で持つのも一苦労だったのに」


「え?この剣?なんで?どこが?どうして?」


質問の数から鑑みるに俺がなぜこの剣を使えないのか心底意味がわからないようだ。


「そりゃそうゴブよ。ドンは力だけなら最下層のゴブリンにも引けを取らないゴブ。だけどそれを差し引いてもドンくさすぎて勇者狩りから外されたんだゴブ」


そしてついたあだ名がドン。

本当の名前は本人も忘れたらしい。


「……ひどいよ、そんな言い方ってないよ」


そして心が非常にナイーブすぎて、その図体からエースとして期待された初めての勇者狩りの際、先輩ゴブリン達に「おっそ」「早く来いよ!」「完全な見掛け倒し」「ウドのゴブリン」とボロカスに言われた結果一週間近く部屋の隅でうずくまり泣いていたそうだ。


その結果、雑用係へと異動する運びになった。


泣きだしそうな顔のドン君を見て俺は話を変えようとした。


「じ、じゃあ、なんで使えない武器とか変な木とか捨てずに取ってあるんだろうね」


「それは俺様が勇者を撲滅するための兵器を作るためだ」


またいつの間にか部屋の中にキャラが増えている。

今までに見たことないすらっとした、というよりも鉛筆の芯のようにひょろっとしたゴブリンが部屋の入口に立って腕を組みこっちを見ていた。


「ニャンポはもしかして初めてかな?彼はヤマアラシって名前でゴミを改造してゴミを作る天才ゴブ」


「お前には理解できねえだけだ俺の作品の価値が」


自分の名前がニャンポだったことを思い出して少し凹みながらそんな会話を聞いていると何やらヤマアラシがゴソゴソと木箱の中を探り始めた。


「ほら、これ吹いてみろ」


と俺に渡されたのは石と木で出来た笛のようなもの。

石けんほどの大きさの丸みを帯びた軽い石に木で出来た小さな筒が何本か刺さっているような謎の物体だった。


恐る恐る木製の筒に息を吹きかけるとブクブクブク!と小さな泡が違う筒から飛び出てふわふわと中に浮かんだ。


要するにシャボン玉を作る器具ってことなんだろうか、しかしこれでどうやって勇者を倒すと?と疑問に感じヤマアラシの方を見るとと何故か木の皮で出来た仮面のようなものを被っている。


なぜ仮面を?疑問に次ぐ疑問が浮かび尋ねようとした瞬間、ふわふわと浮いていたシャボン玉の一つがドンの口に飛び込んだ。


するとドンの表情が豹変し、鬼のような顔でこっちをにらんでいる。


いや何よ、色々と……と考える猶予すらないほどの速度でドンは握ったままの剣で俺に攻撃をしてきた!


「ぅぉあーッ!危ねえ!ドン君!!やめ、おわぁーッ!」


間抜けに転がったり飛び跳ねたりしながら何とか間一髪ドン君の殺意に満ちた太刀筋を避ける。

目の前、頭の上、体の横をギリギリで通っていく鉄の剣からはびゅおう!ぅオン!ぎゅアッ!とえげつないくらいに空を切る音が聞こえていた。


ここで俺は謎に包まれた知人の攻撃によって死ぬ!


心の底からそう思った次の瞬間にドン君は正気に戻った。


「……ハッ!一体!?」


ふざけんなッと怒鳴りたかったがその対象とするべき矛先はヤマアラシだろう。


「いや、ハァ……ハァ、何!何この泡?どういうこと?」


「特殊な土と木の実を乾燥させてそこに一滴だけ水を垂らして、空気を吹き込むと一瞬だけ凶暴化する空気を含んだ泡ができんだよ!すげぇだろ!」


泡不要で今俺が凶暴化してヤマアラシに飛びかかる寸前だったが、それよりも何よりも一連の流れを見ながらひたすら笑い転げているサン君に対する怒りのほうが今は強い。


早く、早く勇者狩りをしてこの雑用部屋、更にはこの巣を出ていかなければいずれ謎に死ぬ!


そう、確信した。

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