第4話 雑用サン君
先輩二人が壮絶に爆死してから二週間ほど経った。
俺はあの後すぐに職場の異動を申し込むために動き、何やら現場監督的な立ち位置のゴブリンがいる事を知った。
「千と千尋の神隠し」よろしく、「勇者狩り以外の部署で働かせてください!」と連呼してようやく雑用係の地位をもぎ取ったのだ。
現場監督ゴブリンは身体も一回り大きく、鉄で出来た鎧を着ていた。
「情けねえ、情けねえぞ……いいか?勇者狩りに行けるのはなあ、その時点で恵まれてるんだぞ?もちろん辛いこともあるがその分見返りだって……」
とそこそこ長尺の説教を食らった後に一つため息をついて、
「まぁ、本人がそういう気持ちなら、無理にやってもしょうがないしな……」
と異動の許しを得た。
そこで放り込まれたのがゴブリンの巣の片隅にひっそりと存在する雑用部屋。
要するに戦闘において役立たず認定されたゴブリンたちが追い込まれる窓際ということらしい。
「今日は割と天気がいいので西の川近くまで行ってみるゴブ」
と“いかにも”な語尾で話しかけてきた彼の名前はうんたらかんたら〜ニヒⅢ世というまた大仰な名前だったのでもうサン君と呼ぶことにした。
サン君は身体が他のゴブリンよりふた周りほど小さく、生まれた瞬間からこの雑用係に放り込まれたらしい。
そして俺はゴブリン歴がそこそこに長いサン君からこのゴブリンの巣や、この世界について色々と情報を聞き出すことが出来た。
ここゴブリンの巣には女王ゴブリンがいて、統治とゴブリンを次々と生産するのが役割。
生産とは小さな卵を女王がぽぽぽんと吐き出し、それを「温かい土」に埋めると数日ほどでポコポコとゴブリンが生まれてくるのだという。
そして巣自体は地下3階まであり、全体でおよそ200〜300体ほどのゴブリンが生活している。
地下に行けば行くほど地位が高いとされていて、各階には取り仕切る親分ゴブリンがいるとのこと。
「じゃあ、あのでかい現場監督みたいな人がこの一階のボスなんだ」
「そうゴブ。彼は勇者狩りで貢献度をいっぱい稼いだから次のゴブリンに昇進したんだ、……あ、ゴブ」
たまに語尾を忘れがちなサン君のその一言に俺は未来の希望を見た。
「昇進!?それって?」
「このゴブリンの巣は旅立ち始めた勇者連中の足止めが大義名分ゴブ。だからその目標に対しての貢献が認められたゴブリンは女王様からもっと強いボディがもらえるんだゴブよ!」
川へ向かう途中で聞いたその話に俺は足を止めた。
なるほど、だから見返りとか恵まれてるとかゴブリン監督は言ってたのか。
貢献して貢献して貢献していけば、どんどん昇進して新しい個体に生まれ変わることができる。
そこからいずれゴブリン以外の、もう人間的な姿かたちのものなら何でもいいや、生物になることもできるかもしれない……!
「まぁ、雑用部屋の僕らには関係ないことだよ、ゴブ!早く行こうゴブ!」
確かに自分で懇願したこととはいえ、雑用係では貢献度は貯まらない。
やっぱりいずれは勇者狩りをしなければいけないのか……。
方法を考えなければ!何か安定して貢献度を稼ぐ方法を!
そう考えてまた歩き始めようと前を見た瞬間、サン君がヘビに睨まれたカエルのように道に棒立ちしている姿が目に映った。
その目線の先を追うとそこには勇者と仲間たちのパーティが立って今にも剣を抜こうとしていたのだ。
咄嗟に俺は叫んだ。
「逃げろ!」
その声に正気を取り戻したのか、びくり!と身体が動きだし、
「ひ、ヒェーっ!!出たっピィーっ!」
と振り返ったサン君は一目散にこちらに向かって走り出した。
その走り出してからの加速、無駄のない動きに声をかける隙すら与えられなかった。
なんだその素早さと語尾は!
そう思った瞬間にはすでに後ろ姿さえ見失ってしまうほどの韋駄天ぶり。
勇者一行もその一瞬に起きた出来事に呆気を取られたようで、その合間に俺も草むらに隠れた。
人間たちが武器をしまいどこかに立ち去る姿を確認した俺は、光のようにどこかへすっ飛んでいったサン君を探した。
しかし周囲をどれだけ探しても存在が確認できず、控えめながらも名前を呼びながら捜索を続けてみたがやはりいない。
……あんな速度で突っ走ってまた勇者たちと出会ってやられてしまったかもしれない。
そんな最悪のシナリオが頭に浮かぶ中、とりあえず目についた木の実や松明に使う細木などを集めて巣に帰った。
そして「おーっ!遅かったゴブね!」と何事も無かったかのように雑用部屋で寝っ転がりながら何かの茎を美味しそうに食べるサン君の姿を見て、無事だった安堵感とギャグ漫画的な「ずこーっ!」感と「何なんコイツ」感が俺を襲い、なんだか疲れてしまいすぐにその日は寝てしまった。
夢の中で「おーっ!遅かったゴブね!」が繰り返し聞こえてくる。
そして俺の中にあった「何なんコイツ」感がついに怒りに変わり目が覚めた!
ぎゃん!と寝ているサン君に目を向けると、これでもかと云わんばかりの鼻ちょうちんを膨らませながらのその寝姿に、俺の憤怒すらアホらしくなってきてまた横になって眠ってしまった。
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