第3話 勇者狩り

勇者狩り。

なんて勇ましい響き!

やっぱりこの人達は凄い強いのではないか?という不思議な高揚感はその後のデュラン先輩の詳細な説明で打ち消されることになる。


「このゴブリンの巣がある山のすぐ近くに勇者たちが旅立つ最初の村があんだよ。だから俺たちはそこからふらっと出てきた奴らを全力で狩りに行くってわけだ。」


完全に想像した通りの最下層の雑魚モンスターのやり口だった。

そしてやっぱり我々はゴブリンという種族だったんだと改めて確かめることができた。


いや、すべて、予想通りだ。

何も落ち込むことはない。

何も変わったことはないんだ。

そう自分に言い聞かせて、歩き続ける。


小さな出入り口から洞窟を出るとそこには雑木林が広がっていた。

名前も知らない針葉樹の葉から溢れる日光が暖かく、眩しい。


更にそこから10分ほど歩くとキヨマサ先輩が急にスッ、と体制を低くして木の陰に隠れた。

それに合わせて俺とデュラン先輩も身を低くして草の間に身を潜めた。


キヨマサ先輩が親指でクイクイと動かして先を指す。


その方向をじっと見てみる。


……!いる!四人ほどの人間が村から出てきた。


デュラン先輩も同時にその存在を認識して、笑みを浮かべて言った。


「グヘヘへ、バカな奴らがいやがる………!俺らのエサだぜ!」


その言葉を聞いたキヨマサ先輩も静かに笑った。

そして二人はゆっくりと顔を見合わせて、うなづきあった。


「新入り、しっかりついて……こいよッ!」


そう言うと二人は勢い良く駆け出した。

もちろん村から出てきた人間たちに向かって!


俺も、俺も行くんだ!


力強く走り出した先輩たちの背中は非常に猫背で格好悪い走り方だったが、それを上回る勇敢さに溢れていた!


「ウオオォオオーッ」


勇ましいキヨマサ先輩の叫び声を聞いた人間たちもこちらの存在に気付き、振り返った。


そこで俺は見た。


もの凄く豪華で美しい鎧、怪しく黒光りする巨大な大剣、魔法使いらしき人の着ているローブのあの質感、竜の顔のついた変な武器に金色に輝く謎の球!


どう考えても旅を始めたばかりの奴らの装備じゃない!


トムとジェリーばりの急ブレーキで足が止まった俺は、その後起きた事をこう記憶している。


①四人のうちの一人が何か手を動かす

②2トントラックくらいの大きさの火の玉が発生

③「ん!」というデュラン先輩の声か何か

④ジュッ、という音がして二人は消滅、そして火の玉が爆発

⑤その爆風で少し離れてた俺も吹き飛ばされて木に激突、意識が朦朧

⑥薄れゆく視界に映ったのはワープしてどこかへ行く人間たち


−−−−−−−−−−−−


俺はまた目を覚ました。

そこで一瞬だけ、また生まれ変わってる事を期待した自分が憎くなるほどゴブリンのままだった。


どうやらゴブリンの巣に戻ったらしい。

誰かが運んでくれたのだろうか。

身体に痛みはなく、普通に動けることを確かめた俺は一つだけ心に決めた。


「木の実集め係」とかそういう雑用をして生きていこうと決めたのだ。

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