第2話 先輩たち

何故?

どうして?


本当は泣き出したかった。

その場でうずくまって顔をこのショボい腕力確定の土色をした腕にうずめて泣き叫びたかった!


「なんで俺だけゴブリン?」


俺は知っている。

転生してセカンドライフを楽しくエンジョイしてる人たちの物語を。

もっと言えば色んな可愛い女の子に囲まれながら旅をしたりとんでもないスキルで世界中を救ったり可愛い女の子に囲まれて全員から惚れられたりという物語を!


ふざけんなッ!


よく仕組みはわからないけれど恐らく一度きりの転生チャンスを俺は!


俺は……!


だが、何故か涙も出なかったのだ。

感情とは裏腹に俺は、背中を向けて歩いていくゴブリン先輩二匹を追って足を動かした。


俺はここで生きていかなきゃならない。

それだけは絶対にそうなんだ。

今頼りにできる何かはあの二つの猫背で90センチくらいしかないガニ股で歩いてる生物だけなんだ。


圧倒的な落胆は、瞬間的な気持ちの切り替えには役に立つ。

要は100%の諦めがついただけのことなのだが。


小走りで先輩たちに追いつき俺は、


「すみません、ちょっとビックリしちゃって」


と媚びるような声色と口調で声を掛けた。

死ぬ前の自分の記憶はほぼ消えかけているが、何となく体育会系の部活にでも入っていたんだろうか。


「ブハハ、しょうがねえよな、初めてなら」


と左側のゴブリンが少し後ろを歩く俺に話しかけて肩を叩いた。


初めて、という単語の持つ意味がわからなかったがとりあえずエヘヘ、と笑ってみた。


「気合が足んねぇんだよ最近の奴らは」


右側のゴブリンが前を向いたままそうつぶやくと、


「ブワハハッ!何言ってんだお前、お前も一番最初なんてガタガタ震えてたじゃねえか」


「……!適当なこと言ってんじゃねえよ!そんなわけねえだろ!」


と何やら軽快なやり取りが続いた。

アハハ……と心を置き去りにした笑いを取り繕い尋ねた。


「あの、先輩たちのお名前は……?」


「ああっ?何だよ今さら。俺がアインクラッド・デュランでこのビビリ野郎が第三十六代将軍・キヨマサだろうが」


「誰がビビリ野郎だテメエ!」


「グハハ!」


どういう世界観かわからないがどっちも凄い強そうな名前なんだな、ゴブリンなのに。

もしやこの二匹、物凄い強いのかもしれない。

そう考えると俺ももしや!


「そういやニャンポに武器渡してなかったな、おらよ」


俺の名前はニャンポなんだ。

絶対俺は弱いという確信が生まれた。


デュラン先輩から渡されたのは木の棒。

通学路で拾える「いい感じの」木の棒だった。

もう色々と察しがついてきたので武器については感謝の意を表してグッと握りしめた。

そしてもう一つの疑問を問いかける。


「これから、どこに行くんですか?」


「おいおいおいおい!マジかおまえ!どんだけボケてんだよ?」


そんなデュラン先輩の言葉に続いてキヨマサ先輩の目が光り、こう言った。


「勇者狩りに決まってんだろ……!」

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