第2話 八墓村

数十年前、未だ俺は工場でコンピューターの部品を作っていた頃の

話だ。

工場は繁忙を極めており、仕事は夜7時過ぎまで拘束されていて

次の週は夜勤、そんな日々が続いていた。


春の声は聴いていたが、山には少し雪が残っていた

工場から山の中腹に有る我が家へ登る山道は

いつもなら暗闇の山を背景に、闇に車は飲まれていくのだが

今日は裏山の山頂近くまで、光が 観光登山道を点々と

照らしていた。

いつも、家の近くの公民館の広場で方向転換して、家に入る路地へ入るのだが

今日は、公民館の広場は警察車両、消防車、軽トラックで

いっぱいで、村唯一の幹線道路にも何台も車がはみだしていた。

公民館の入り口にも、村の人が立ってあふれていた。


家の駐車場に車を止めている間も、路地を行き来する人がいた。

家に入ると直ぐに風呂に入った。母は夕食を作っていてくれていた。


俺 「母ちゃん! 父ちゃんは?」

母 「上の爺ちゃんが朝から行方不明になっちゃって、

   区長だから、公民館に昼頃から詰めているだ」

俺 「いつ いなくなったんだ?」

母 「朝飯食べてから すぐ何処かに出かけて 帰って来ないらしい」

俺 「爺ちゃん、ボケ始めて たっけ」

母 「正月に公民館の脇道を 雪かきして 話したけど 

   まだしっかりしてたよ なんか怒りながらだったけど」


爺は人の家まで怒鳴り込むほど怖い爺だった、俺も小さい頃、爺の駐車場の屋根に

野球のボールを乗っけてしまったとき、遊んでいた全員の尻が

ほうきで叩かれて、えらい怖い思いをしたのを思い出していた。


母 「もう時間も遅いから、食べ終わったら、公民館に行って、今日は

   ここで、村の人を返すよう 父ちゃんに言ってきてくれや」


食卓には、父用の食事が残されていた。


公民館に向かうと、すでに警察車両は引き上げており、消防と村の人だけ

になっていた。

父ちゃんに、「今日は夜遅いし 村の人たちに事故が有ると大変だから」

と告げた、公民館で今日の捜索終了の話が始まったのを確認して、家に帰った。


俺 「母ちゃん、言ってきたよ~」

母 「ご苦労さん」


御勝手に入って、歯磨きをしていると

母ちゃんが、勝手の廊下にでっかい懐中電灯を持って通り過ぎた。


俺 「母ちゃん 父ちゃん呼んだよ~」


母 「お前が公民館に行っていたとき 竹藪の中で

   上の家の爺ちゃんが 寒くて震えている様に 思えて」

  「どうしても 裏の沢の竹藪の中を見たいんで今から行ってくるわ」


俺 「夜おせえし 危ないから おれも行くわ、チョットまって」


藪用の上着をはおり、長靴に足を挿し込み玄関を出た。

母は路地を抜けて、どんどん竹藪への路地を急いでいた


俺 「母ちゃん 早いわ 懐中電灯 よこせや」


母は、無視してどんどん、裏の沢へ急いでいた

村の人たちとすれ違った、 公民館に戻り始めていたのだ。


村人「今日はもう 終わりだぞ」

俺 「どうしても 母ちゃんが見たいところ有るからって」

  「竹藪が見たいって」

村人「もう行っても・・・、竹藪は消防やみんなが、朝から 

   何度も何度も見たで、帰るぞ」


すれ違いながら声を交わすと、母は畦道から脇の畑を横切って

沢までどんどん進んで、沢の脇に座り込んだ


母 「ここから 見ているから、お前はあっちの沢の淵から

   竹藪を 灯りを回して ゆっくりとここまで照らしてくれ」


懐中電灯を受け取り道まで戻り、渕に続く竹の枯れ葉が敷き詰められた道を急いだ

葉っぱは滑り易く、淵までは滑り降りるぐらいだった。

淵の端に立ち、懐中電灯を 竹藪の中をゆっくり ゆっくり照らし始めた

ここまで、家から出て数分だった


竹藪を照らす懐中電灯から灯りが、裏の沢の唯一の淵の水溜りに

漏れた。

足元ので誰かが俺を見つめている。


水面から右半分の顔と肩を出し、俺を見つめている爺がいた


「いたぞ~ いた いた~」


いつもより大きな声が出た、

「どこだ どこだ!!」

上の家からも、公民館からも

どんどん人が集まってきていた。

沢の淵から上の家まで数十メートルの場所だった。


皆は警察が来る前に、冷たかろうと

淵から爺を引き揚げ、上の家まで運んでいった。

母は上の家まで、一緒に帯同していった。


俺は家に帰り、もうなんだかんだで11時を過ぎていた。

明日は朝早くから仕事があった。

布団に入り、あとは家族と母に任せて寝間に向かった


八墓村の映画の様な、闇の中、村中に灯がうろつく夜が、終わった様に

思われたのだが、現実はそのあとが大変なのである。

一度撤退した、警察がまた家までやってきて、公民館まで私を連行

俺と母のアリバイ、上の家の家庭事情、原稿用紙三枚分の調書

俺が解放されるのは 村は白み始めていた。

小学生の頃、裏山に茸取に出かけ、茸取のおばあちゃんを山の崖下で

見つけてしまった時以来の出来事だった。


一日ずっと探していた、消防、村の人には悪いが

家から出て数分で俺の足元にあらわれた爺

時間がたってやっと水面から俺を見つけたのだろう。

爺は毎日、淵に行って、ごみを捨て、一服して来るのが

日課だったらしい、竹の葉っぱの沢路で、滑って淵まで落ち

沈んでしまったのだろ。

母は妖怪の居た時代に住んでいたとは言え、こわい程の霊感を見せる。

時々母と俺がかかわると、こんな事が起こるのである。
















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