あまりない出来事
じ~じ
第1話 熊との遭遇
2018.6.27 水曜日
植え直しも終わり、川中島今井の田んぼは、水の面倒を見るだけに成っていた。
水は入れ始めてから、一杯になるまで4時間~5時間の時間が掛かる
今日は朝から、公民館の仕事で学校、役所を周り、水入れは昼過ぎになってしまった
夜7時からは、中学生のサッカーアカデミーのコーチの仕事が有り
忙しい一日がやって来ていた
水口を開けたのは、昼を少し超えていた
開けると 四時間は時間が有る、自分の時間が取れる
最近は川中島近辺の古墳や史蹟、鉱物産地などを、水田水入れ専用のTW200(バイク)で回っていたのだが、今日は、軽トラックで出かけていた、
六月なのに梅雨の雨はここ何日、ずっと来ていない
軽で出掛けたのは、この空き時間に出かけたい場所が有ったからだ
真田の資金源、太平洋戦争の鉱物源の史蹟に
また水晶の晶洞を採取出来ればと思い、水口を開け早速でかけた
山用のウインドブレーカー、ジーパンにリック、ウエストポーチにライトを準備していた。
松代、豊栄 赤柴鉱山跡
林道を上ると、沢の水で緑の岩が梳れた、光る様な沢が現れる
圧倒する迫力はないが、沢の水で穿たれた緑の岩で出来た沢はとにかく、綺麗だ
鉱山へつながる沢にかかる、小さな橋の脇に軽トラックをおき、手袋をし沢に下りた
沢には砂防の為のダムがいくつも作られていた
鉱山のトンネルまで数十分の筈なのだか
もう何年も人が入った形跡はない
砂防ダムの脇に獣道が沢沿いに僅かに有り、獣道沿いに坑道に向かった
沢には黄鉄鉱の混じった大きな岩がいくつも転がっていた
帰りに少し割って、持ち帰ろう
40年前に来た、記憶が少し戻った
鉱石がゴロゴロしている山に入っていた。
坑道の下には、作業をするための広場が沢の中に有った
広場から坑道を見上げると、坑道の入口は山頂に向かって
三〇度程傾斜の瓦礫が数十メートル、扇状地の様になっていた
後から、田んぼに居た地元のおじさんが、事故が有ると困るので
坑道の入口は全てハッパ(ダイナマイト)で塞いだと教えてくれた。
山頂近くまで続く瓦礫は、大きな岩が積み重なって、水晶のモジュールも何個も
混じっていた。
瓦礫の一番上にたどり着いた
最上部は坑道に向かって傾斜が有り、瓦礫が坑道に向かって崩れていた
坑道の上部は、三〇センチほど口を開けていた
ウエストポーチからライトを取り出し、坑道をのぞき込んで、鉱物が無いか
中に入れるかと暗闇を照らしていた時である
瓦礫の上は数メートルで、山頂、左右は尾根に成っていた
「バキバキ!バキバキ」と左側の頭の上で枝を踏む大きな音がした
坑道のへこみで大きな音になっていたと思うが
座り込んでライトを覗かしていた私は、ビックリして急いで立ち上がった
同時に尻に重くてかたい衝撃が走った
反動で坑道側に転げ落ちた
急いで立ち上がると
黒い塊が 、瓦礫を転がりながら、
「ガラガラ」「ガラガラ」と大きな音を立て、沢の広場まで落ちて行くではないか!
広場まで落ちると、黒光りした塊は、異常な速さで
伸び縮みしながら、沢の上流へ向かって杉の林に消えて行った。
熊に襲われたと、足が竦んだのはその直後だった
瓦礫の上を熊と同じく何回転もして沢から、砂防ダムを迂回しながら
軽トラックの有る橋の下まで下りていた。
砂防ダムの脇下で呼吸を整えていると
座り込んだ砂防ダムの脇の粘土の上に
拳位の熊の足跡が上流に続いていた
「なんで、気付かなかった、いつもなら、山に入る時は気配を見ていたはずだ」
自分に怒っていた
軽トラに戻り、田んぼの水を止めに行こうとウエストポーチを見た
ウエストポーチに入っていた、車のキー、財布、スマホ、ライト、全部無い
何処かにまき散らして来たのだ
ウインドブレーカーの左肩、パーカーの左肩から腰まで、ジーパンの右足ひざ裏からお尻まで。ビリビリに引き裂かれているのに気付いたのも
軽トラックに来た時だった。
もう山に入るのは嫌だった、数分間、車の荷台で考えていたが
スマホで人を呼べない、何より財布にはカードが何枚も有った
手続きも面倒だ、散乱するカードなどを回収しに山に入る決心をした。
数十分で行ける坑道まで、一時間程かかったのは言うまでもない
帰りには、水晶のモジュールを何個か、リックの中に採取していた
田んぼの水を止め、食事をし、運動着に着替えると、サッカーアカデミーで子供達に向き合っていた。
家に帰って 顛末を女房に報告すると
「父さん 厄年じゃない?本厄?」
還暦は厄年だった
そう言われると、家の家電や、風呂、軽トラック、乗用車、春からトラブルが続いていた、女房は自損事故に遭遇するし・・・・。
回収した財布のカードを確認していた、停止の手続きが必要か、リストアップしていた時、妙な事に気付いた。
財布の小銭入れは、熊遭遇の前から今まで、一度もチャックを開けていない
小銭入れの小口に、母からもらった善光寺の青銅のお守りを、もう40年程入れていた
お守りだけ無い!、新婚旅行のニュージーランドのコインは有るのに
お守りだけ無い!
俺は、肋骨にひび、顎、右腕に擦り傷、だけで生きている。
今思うのだが、熊さんもよっぽど驚いただろう
熊さんは驚くほど綺麗だった。
黒光りしていた、雨あがりのカラスより輝いていた。
日曜日に女房と一緒に、善光寺までお祓いに出かけた、同じお守りは
もうどこにも無く、金色にメッキされた同じデザインのコインを財布にしまった
お戒壇めぐりの入口の受付で、顛末を話し、内陣で丁寧にお祓いしてもらった。
ただの気休めでも、還暦の私には十分な気休めだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます