第5話 理由
何故、楓が兄の事を知っているのだろうか。
「織畑教志郎様が亡くなった時の映像を確認したのは、栖衣お嬢様とお兄様だと口にしていたではありませんか? 覚えてはおりませんか?」
「そういえば……って、この人は何故自殺を?」
楓は名探偵と言われるだけの事はある。
「織畑教志郎が本物の超能力者であった事を証明するためには犠牲が必要だったのです。そうですよね、栖衣お嬢様?」
楓は入り口の方に身体を向け、主人の帰りを待つメイドのように姿勢を正して、にっこりと微笑んだ。
「兄が望んだ事です」
扉の死角から私達の様子をうかがっていたのか、栖衣がドアの影からその姿を見せた。
その表情は悲しみも、喜びも判別できないほど複雑な色に染まっていた。
「何故、この人は自殺したんですか? 自殺することでどうして織畑教志郎が本物であったと証明できるのですか!」
楓と栖衣の顔を交互に見るも、二人は口を閉ざしたままで明示してはくれなかった。
「これでは、この企画が記事にできないではないですか!」
その一言でグラビアの約束を思い出したのか、眉間に皺を寄せるなり、
「栖衣お嬢様、二階のあの部屋に入ってもよろしいでしょうか?」
「気の済むままに」
「そよ風程度の追い風は吹くかもしれません。ですが、今以上の向かい風が吹く事を憂慮してください」
楓は続けてそう言った後、
「ご主人様、それでは向かいましょう」
しかし、これでは、楓がご主人様で、私は従者といった関係ではないのだろうか。
その事を証明するように、私を全く気にかけずに楓は流れるような足取りで二階へと向かって行く。
「死体はあのままでいいのですか?」
後を追いながら、楓の背中にそう投げかけるも、振り返りもせずに、
「栖衣お嬢様にお任せればよろしいかと」
もやもやとしたものが残るが、兄が自殺することを知っていそうだったので、そうする他ないのかもしれない。
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