第3話 10年前の事件当日
二階の部屋なのだろう。窓一つ無い部屋であった。しかも、壁、天井、床全てがむき出しのコンクリートのままで絨毯さえ敷かれておらず、二十畳くらいの広さもあってか、建設途中の部屋であるかのように殺風景この上なかった。
人の営みを示すものといえば、部屋を照らすための蛍光灯くらいだ。
映像の左下に『200X / 9 / 21 / 15:01』と表示されていた。
「これから私が超能力者である事を証明しましょう」
部屋の中央に紺の作務衣を着た織畑教志郎が立っていて、生まれながらの温厚さを表すような微笑をたたえていた。
「どう証明するというのですか?」
誰かがそう質問をした。
「この部屋から下の部屋へと瞬間移動することで、私の超能力が本物である事を証明したいのです」
その一言で取材に訪れていた人たちが色めき立った。
「まずは、皆さんで床や壁に抜け道がない事を確認してください。仕掛けなどないと確認してもらわなければ、私が超能力を使用したと証明してはもらえませんからね」
その言葉を待っていましたとばかりに、集まっていた記者などが四方八方に散らばって、天井さえも検証するために用意していたのかハシゴまで持ち出して、部屋の検分を開始した。
コンクリートの壁を叩く者から、コンクリートの床の上で何度もなくジャンプする者、電磁波レーダーを使ってコンクリートの内部を調査している者さえいた。
その準備万端さは、トリックが仕掛けられていないかあらゆる調査方法を採っても構わないとあらかじめ告知していたのかもしれない。
「何か仕掛けがないかの調査は終わりそうですか?」
左下の時計が15:50になり、調査が一段落した頃を見計らってか、織畑教志郎が言うと、そろそろ実験を開始してくれ、などといった声が上がり始めた。
「続いては、一階の調査もお願いします」
織畑教志郎が先を行き、一階へと降りた。
一階は大広間と言われるほどの場所で、教会の中と錯覚してしまうほど広い上に天井が高く、二階とは打って変わって、豪華なシャンデリアがぶらさがっていて部屋をきらびやかに照らしていた。
それだけではなく、絵画が複数枚飾られていたり、ペルシャ絨毯が床に敷かれていたりと贅の限りを尽くしていた。
皆が一階に来ると二階と同じような調査を始め、さすがに天井まで調べた者達はいなかったものの、それ以外はあらかた調べ尽くし、仕掛けなどは発見できなかったのか、17:04には、実験を早く始めてくれなどとの声が上がり始めた。
織畑教志郎は再び二階に行くよう促し、二階の窓一つない部屋へと来ると、
「十数分後、私は瞬間移動をして、一階の大広間に必ずいる事でしょう。この扉の前でしばしお待ちください。集中力が途切れてしまっては、私が超能力者であるという証明ができなくなってしまう。なので、扉の前から動かないでいてください」
17:20頃、その言葉に素直に従い、二階の部屋から出て、ドアの前で待機し始める。
しばらくは動きはなく、集まった人たちは私語などをせずに、じっと固唾を呑んで実験の成否を見守り続けていた。
「ああああああああっ!!」
17:33の事であった。
部屋の中から織畑教志郎の悲鳴が上がったのである。
何事かと思い、記者の一人が二階の部屋のドアを開けるも、そこには織畑教志郎の姿はなかった。
「下か!」
誰かがそう叫ぶと、皆階段を降り始めて、一階の大広間へと急いだ。
17:35に大広間に来て、彼らが目の当たりにしたのは、あさっての方向に身体が曲がり、大量の血を流して倒れていた織畑教志郎であった。
織畑教志郎は無念そうに天井を見上げるように死んでいた。
そんな彼を捉えていたカメラが不意に天井へと向けられた。
シャンデリアは揺れてもおらず、天井も調査した時と寸分も違わぬ様子であった。
カメラはしばらく天井を映し出した後、17:50という表記と共に暗転した。
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