ふしぎの村長さん

@hirosawayuki

第1話 君の名は

「あ、タケシさん。ちょっとお話が」

「おう、どうした」

呼び止めたのは、しずかちゃん――ではなく、20代の男性職員。

応えるのは定年間際のナイスミドル。

ジャイアンではなく、うちの課の課長だ。


「あれ。ゆいちゃん、口紅かえた?」

「ええっ。――よくわかりましたね」

男性職員が女性職員にかける言葉が、ナチュラルに気色悪い。


私の職場では、あだ名がまかり通っている。


年齢や立場が下の人間が、年上や役職者に対して平気であだ名で呼びかける。

男性社員は、女性社員をちゃんづけで呼ぶ。


こんなフランクな職場があっていいものだろうか。

あなたたちは、セクハラという言葉を知っているのか。


本人たちがいいならいいのかもしれないが、派遣社員としては、声を大にして言いたい。

職場の人間のフルネーム+役職に加えて、あだ名数種類、旧姓までおぼえないと対応できないなんて聞いてない。


RRRRR


電話が鳴る。


「あ、土木部長の上田だけど。川上さんに代わって。」


珍しくあだ名じゃなかった。さすが部長。

ご自身の役職まで言ってくれて本当に助かります。

上に立つ人はこうあるべきですよね。


「はい。少々お待ちください――川上さん、土木の上田部長からお電話です」

「え、どっちの上田部長?」

「――え?」

「土木部に、部長二人いるの知ってる?二人とも上田なんだけど」


ああ、もう。

会話には、気づかいが必要なんだよって、この職場の人たちには伝えたい。


名前がかぶっているなら、フルネームを名乗る。

職場であだなは使わない。

あなた方、勝ち組と呼ばれる人間でしょう。マナーと常識どこやった。


ああ。

現実逃避している場合じゃなかった。

上田部長に聞いていいんだろうか。


――君の名は。




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